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ハイライト

ONOFF

結成15年目を誇る長崎在住の3ピースロックバンドSHANK。毎年全国各地で年間100本以上のライヴを行っている実力派だ。多くのロックバンドからも厚い信望を持つ彼らだが、レーベル事業を始めマネジメント業務も全てエイベックス内で運営されており、360度展開をしているアーティストの一つでもある。SHANKの運営はあえてミニマムなチーム体制。アーティスト/マネジメント/レーベルといった少数ならではの意思の疎通や情報の共有、風通しの良さやクイックリーな対応がライヴバンドという活動スタイルとベストマッチしている。それらはパッケージの売上げやライヴ活動、マーチャンダイズの販売やイベント事業等とも連動し、SHANKの持つ従来のバンドのブランドイメージを損なうことなく逆にスケールアップさせてきた。

インディーズレーベルの発想で
行うビジネスモデルで
SHANKをスケール
アップさせていく

ライヴバンドとの共進と聞くと浮かんでくるのが把手共歩の難しさだ。一般的には他者や企業の力を借りずとも自身でマネジメントしているバンドも多い。なかなか結びつきがたい、そのエイベックスとバンドの共進だが、SHANKのA&R/マネジメントを担当する深澤善昭は、そのなれ初めをこう振り返る。

深澤「SHANKとは元々彼らがインディーズで活動していた頃から、個人的に深い交友関係だったんです。『何か面白いことしたいよね』とは話してはいて。そんな中、今後の活動をどうしようか? というタイミングがあって。移籍してこないか? と話しかけたのがきっかけでした。『自分たちのスタンスや活動状況、守っていきたいものを保持したまま、より良い環境の中、活動が続けられるのであれば』とのリクエストで一緒に始めたんです」

バリューやメリットよりも、人と人との繋がりや結びつき、信頼を重んじる、このシーンならではの一連托生的な契約だ。SHANKの宣伝を担当する岡野一真がこう続ける。

岡野「我々が必達させなければいけなかったのが、彼らのブランドイメージを守りつつ、どうスケールアップさせることが出来るかといった課題で。彼らは毎年、地道にファンが増え続けている。それも彼らが自身のブランドをきちんと守ってきたからこそでしょうから。うちはやはり芸能が強い会社であって、対して彼らはそれらとは真逆のアティテュードだったりする。であればうちと一緒にやるメリットは、インディーズ時代には気付かなかったり、アウトプットしてこなかった価値をまずは引き出し、その価値が伝わるであろうマーケットを探しプロモーション/PRしてあげることだろうと。ド真ん中には『バンド自身がどうありたいか? 何をやりたいか?』があって、アーティストとシーン(ファン)をスタッフが理解した上で、広がりや次のチャンスへと結びつける。これまではやはりそれらが自分たちだけでは満足に出来ていなかったようでしたから、まだまだ伸びしろを感じましたね」

それらも手伝い、SHANKは毎年着実に動員をアップさせている。

深澤「お客さんへの見え方や映り方、印象は強く意識しています。テレビにしても、出たくないわけではないけど、優先度はそんなに高くない。要は自分たちの一番良い部分をどう出せるかをバンドと一緒に考えて進めています。その土台をここ何年かで作り上げてきた感じですかね」

先述と重複するがSHANKのスタッフチームは少数だ。メンバーを除き基本は3名で成り立っている。チーム編成は、簡単に言うとアーティストやコンテンツの中身(音源やライブやMD)を深澤と現場マネージャー清田(※このインタビューには登場しない)が、外側(宣伝販促やその他)を岡野が担っている。

深澤「利点としてはレーベルとマネジメントの直結でしょう。エイベックスに移籍する前はレーベルとマネジメントが別々の会社だったのですが、移籍してからマネジメントとレーベルの垣根がなくなり一つの体制でやっていく形態になっていったんです。その分、点だけでなく線での考え方が出来る。リリースやライヴを別々に考えずに全体を見ながら総括した計画やプランニングが立てられますから。そういった意味ではインディーズレーベルと同じ発想なんです。少数で川上から川下まで一貫して行う。それを大企業でやるから面白い」

岡野「その分、1人で何役もこなさなくちゃならないのですが(笑)。それでも、良いところは、少数だから3人とも手段が目的にすり替わりにくいことですね。自分も経験ありますが、どんな職種であれ『担当アーティストを人気者にすること』を共通の目的としてチームがあるはずなのに、いつの間にかその役割を全うすることが目的になってしまうケースがあるんですよね。例えば『宣伝担当だから宣伝しなければいけない!』になって、後で検証したら『むしろ、価値を下げてしまったかもしれない。このタイミングでは別のことをやれば良かったのかな』といったことです。
自分は大きなチームでも仕事させてもらっているので、比較するとその傾向は後者の方がどうしても強くなってしまうかなと思いますが、上手く回ったらより大きな効果を生み出すのも後者の方が多いんで、どちらが良いという事ではありません」

長崎を代表する音楽
フェスティバルへーー
地元に根ざしDIYで作り上げる

そんな中、SHANKが主宰し地元・長崎で行っている自身のキュレーター的な自主企画イベントBLAZE UP NAGASAKIが今年は6/8(土)に「2019 in HUIS TEN BOSCH」との副題の下、昨年に引き続き長崎のハウステンボスにて開催される。

このBLAZE UP NAGASAKI 2019 in HUIS TEN BOSCHが目指しているのは、アーティスト主宰のフェスでありながらも地元・長崎の街の活性化。長崎を代表する音楽フェスティバルにすべく、いま様々な尽力が成されている。元々は彼らが自分たちで長崎のライヴハウスから2011年に始動した同イベント。以後場所を長崎市神の島公園特設ステージに移し1500人キャパに倍増するも、近年はそこも手狭になり、昨年よりハウステンボスに移行した。

深澤「一度休んでいた自主企画ライヴを再開させようと場所を探していたところ、彼らの地元に公園があって、そこでライヴが出来そうだといった話がメンバーから来たんです。それが神の島という町にある公園で。基本、彼らと自治会の方々とで進めて行き、市役所への申請など要所要所で僕らがサポートをしつつ実現したんです。ところがその公園というのがよくある公園で、しかも丘の上にある。だから毎度DIYでした。時期が来ると草むしりから始めて。メンバーや自治会の方々はもちろん地元の若いバンドマンやボランティアの方々にも手伝ってもらったりして。地元の自治会のおじいちゃんたちは、彼らが小さい頃から知っている人たちばかりで、バンドの成長を喜んでくれ、色々と無償で手伝ってくれるんですよね。当日の駐車場の整理係や案内等も買って出てくれました。協賛を募るにもこの規模でしたので、商店街や地元企業に岡野達がアポなしで電話しまくるという。まさに手弁当のフェス。町の自治会のお祭り的な雰囲気も含んだロックフェスといった趣でした」

BLAZE UP NAGASAKI 2016(撮影:半田安政[showcase])

そこでの開催が手狭になり、一昨年より会場をもっと広い開催場所を探し始めていました。そんな中、白羽の矢が立ったのが、長崎ハウステンボスでした。そこでそれを形作ったのが、吉野公彦であった。出来たばかりの同部署。吉野はそこで外部やロケーションのシナジーやスキーム作りを担った。

吉野「一度SHANKがゲストで呼ばれ、その会場でライヴを行ったことがあり、それを覚えていたSHANKから開催のリクエストが深澤経由であり、動きました。ハウステンボスのシアター等に僕らの出入りがあったし、過去エイベックスのアーティストのブッキングもしたことがありましたから」

そこで吉野が思いついたのが、長崎が故のロケーションだったと語る。

吉野「開催地が九州ということもあり、まずは足を運びやすい長崎周辺の方々にどう足を運んでもらうか? から始めて。ちょうどハウステンボスさんも今後、このようなライヴ開催を視野に、自前のPAセットやステージを購入していたタイミングも良かったです。合わせてハウステンボスさん側も来園して欲しい層でもある、SHANKのメインファンの10代~20代の方へのアプローチも出来る。先方にも開催することのメリットはありますから」

「そこでもアーティストやイベントの対外的な映り方には気をつけています」と吉野は語る。地元のフェスと打ち出しする名目上、もっと地元の参加意識も高めてもらうべく、スタッフに関してもあえてエイベックスは乗り込まず、地元の地産で賄っていると語る。いわゆる表は自主や地元の方々がDIYで運営し、そのインフラはエイベックスが作る。そんな役割分担だ。

吉野「制作や運営等、現地のスタッフは全て長崎の方々で賄ってもらっています。なので打ち合わせの細かいところもあえてSHANKに直接やってもらっていて。それらもあり、みなさんが自分のイベントだというやる気と高いバイタリティで臨んでくれています。その辺りは神の島時代の良い部分を踏襲していますね。もちろん、そこでのお客さんやスタッフさんたちもリピーターとして参加して下さってますし。いい意味で、あの感じをそのまま大きく出来ている感はあります」

それは主宰のSHANKも然りだ。

深澤「バンド主宰/主導のイベントなので、出演バンドのファーストコンタクトはメンバー当人に行ってもらっています」

では、先ほどの地産地消のアティテュードについて、もう少し深堀りしてみよう。

吉野「出店にしても長崎の市内からのお店が中心です。もちろん、ハウステンボス自体も飲食も充実し、一つの街みたいになっているので、打ち上げからなにから全てハウステンボスの中で完結できるんです。そのおかげかお客さんからはまた来たいとの感想を頂けたり、バンドからも『また次も出たい』と言ってくださったり、今年ついに出演が実現した方々もおられます」

深澤「去年出演して下さったバンドもそれらを感じてくれたんでしょうね、それが反映されたパフォーマンスだったと思います。そういったライヴを観るとお客さんもイベント全体の雰囲気を認識してくれる。この土地でやるフェスならではなんだなと実感しました」

BLAZE UP 2018 NAGASAKI in HUIS TEN BOSCH(撮影:半田安政[showcase])

岡野「今、フェスは日本全国至るところで年中何かしらやっていて、正直飽和状態なところもある。ですので、ここから残っていくには、先行者メリットで歴史をもっている大型フェス以外は、オンリーワンであることは絶対に大事だと思っています。既にアーティスト主宰フェスも数多くありますので、オンリーワンになるためには『地元の参加意識』『ロケーション』に加えた、付加価値作りがもう少し必要かなと思っています」

チケットも園内への入場料込みの券も販売。いわゆるフェス飯も地元にこだわり、この地ならではを更に強く打ち出し、アーティスト主導を前面に出したビジネスモデルとして、定着化を図る。そのような様々な相乗効果を提案したのも吉野で、これまでのキャリアと経験値や交渉能力、エイベックスブランドによる対外的なバリューが上手く結び付いたスケールメリットもある。全出演者が発表され、そのラインナップも他のフェスでトリを務めるクラスの著名なバンドばかりなのにも驚かされた。

現時点に於ける目標や着地点はどこに定めているのだろう?

岡野「個人的には『長崎といえば、BLAZE UP NAGASAKI』と言われるような全国メジャーなイベントになってほしいですね」

長崎発信の地元バンドによるアーティストフェスの成功に今年も耳目が集まる。

「方程式はあるようでない」

今後はこれらもビジネスモデル化。エージェント的なかかわりでのビジネスとしても発展していきそうだ。「今後このようなアーティストとの関係値は増えていくだろうし、増やしていった方が良い」と岡野は語る。

岡野「アーティスト主体で充分な活動できる時代にとっくになってますが、『所属はしたくないけど、ちょっとメジャーの力も借りたい』くらいのアーティスト・ニーズって結構あるんじゃないかな? と思ってます」

最後にSHANK並びにこのような360度展開の今後の展望を訊いてみた。

岡野「レーベル/マネジメント所属ではなく、周りを見てもエージェントとして関わるケースも増えていますし、私自身別業務ではそのように関わっているアーティストもいます。アーティストに仕事をもらっている感覚ですね。もちろん旧来の所属形態の方がベストマッチングというケースもあると思いますので、それはアーティストによりけり、とは思います」

深澤「自分も色々な形があっていいと思っています。SHANKというアーティストはたまたまこういった少数がフィットしたけど、ジャンル関係なくケースバイケースだろうし。そのアーティストがどのようなものを求めていて、どう見られたいのか、どうみんなで上がっていきたいのか? にもよるでしょうし。方程式はあるようでありませんから、インディーズがメジャーみたいな動きをする時代の中、逆にメジャーがインディーズみたいなことをするのも面白いし、このプロジェクトはまさにそれだと思っています。しかも日本でトップ3に入るメジャー会社がそれをやる。それって凄く面白いし夢があるじゃないですか」

「日本トップ3のメジャー会社が行うインディーズ的なアプローチ」。そこには逆発想が故の夢やビジネスチャンスも併せ持っている。今後の単体アーティストとの360度ビジネスや発展は、そのゲリラ的な成果と面白みの共存と共に今後も発展性のあるビジネスモデルなのではないだろうか。

(写真左)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
ビジネスアライアンス本部
第2アライアンスグループ
吉野公彦

(写真中央)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部
第4C&Rグループ
コミュニケーションデザイン第4ユニット
深澤 善昭

(写真右)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部
第7C&Rグループ
コミュニケーションデザイン第7ユニット
マネージャー兼シニアプロデューサー
岡野 一真

こんな内容

SHANK OFFICIAL WEB SITE
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