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少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革 少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

ハイライト

ONOFF

エイベックス・マネジメント(以下、AMG)の直営校として、2001年に開校したエイベックス・アーティストアカデミー(以下、アカデミー)。このエンタテインメント育成スクールは、東京・名古屋・大阪・福岡の4都市で、これまで200組を超えるアーティスト&クリエイターを輩出してきた。開校から20年の歳月を経た2021年、AMGはアカデミー東京校を原宿から渋谷に移転し、2021年05月29日に新校舎開校式を実施。アカデミー全体としても、“プロフェッショナルを目指す少数精鋭のスクール”を目指して再始動した。今回は東京校の校長を務める藤井宏典(以下、藤井)と、エイベックスの未来を担う期待の受講生2名の言葉から、再始動の背景にあった課題感、そしてアカデミーにもたらされた変化と未来のビジョンを探る。

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

エイベックス・マネジメント株式会社 藤井宏典

時代に合った設備づくり
少数精鋭のスクールへの原点回帰

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

エントランスホール

新天地で再始動した東京校の校長を務める藤井。元々は、アカデミーが開発したカリキュラムをフィットネスクラブやスクールなどに提供するエイベックス・ダンスマスター(以下、ダンスマスター)の関西エリア営業担当としてキャリアをスタートし、その後はアカデミーの大阪校を経て、2015年から東京校の責任者を務めている。

藤井曰く、アカデミーのリニューアルを決めた理由は大きくふたつあるという。

藤井「まずひとつ目の理由は、時代に合った設備を用意すること。時代の流れとともに教える内容は変えてきたのですが、内容に応じた機材はつぎはぎの状態で追いつかせていくしかなかった。リニューアルした現在の東京校では、すべてのヴォーカル・ルームと繋いでレコーディングが可能ですが、それは建物の配管の状態から考えたからこそ可能になったことなのです」

そしてふたつ目の理由は、エンタメ業界にも大きな影響がある“少子化”だ。

藤井「アカデミーのメインターゲットであるスター予備軍の若年層が、この先どんどん少なくなっていくことは目に見えている。加えて、今までは東京校だけで2,500名の生徒が在籍していたのですが、いつしか『本気でプロを目指す方』と『習い事感覚で入った方』が入り混じった状況が生まれてしまっていた。その状況を打破するための原点回帰。アカデミーとして、本気でプロを目指す方々を応援するスクールに立ち返ろうという狙いがありました」

「入学選抜試験」制度の導入
プロフェショナルを育成する場

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

新体制でのアカデミー全体における変革ポイントは、まず入学選抜試験の導入だ。専攻するコースに応じた実技と面談を実施し、藤井やアカデミーで各コースを担当するディレクターなどが審査。その結果、入学選抜試験を通過した者のみがアカデミーへの入学を許される。

現在のアカデミーには、今回新たに導入した入学選抜試験を通過した約400名の生徒が在籍。これまでの約2,500名という生徒数を考えると、この決断の重みが伝わるだろう。

藤井「過去を振り返ると、アカデミー設立当初の頃はオーディションをやっていたので、その意味での原点回帰でもあります。入学選抜試験で重視したのは、スキルはもちろんですが、何よりも“デビューへの想いの強さ”。AMGの代表取締役社長で、アカデミーのエグゼクティブプロデューサーを務める戸口真吾がずっと言い続けているのは、『50願っている人は50の努力をする。100願っている人は100の努力を勝手にする』ということ。その想いの強さを、入学選抜試験の際にはひとりひとりに対面して見ています」

そして入学選抜試験に不合格になった人には、郵送やメールなどで合否だけを伝えるのではなく、自分に合ったコースのアドバイスや、合否に至った背景も本人にしっかりと伝えるという。そして、彼らの受け皿のひとつとして用意されているのがダンスマスターだ。

藤井「アカデミー事業としての規模は縮小しておらず、入学選抜試験を通過できなかった方たちは、ダンスマスターへとレッスンの場を移すことが可能です。正直これまで、ダンスをこれから始める初心者の方からしたら、いきなりプロを目指す方たちに囲まれて気負ってしまう部分もあったと思います。これからはアカデミーとダンスマスターの違いを明確化して、共存していく。今回は入学選抜試験を通過できなかった方たちも、まずはダンスマスターで学んでもらい、いつかアカデミーで再会できればという想いで送り出しました」

「何を習いたいか?」ではなく
「何になりたいか?」

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

ダンススタジオ

アカデミー新体制において、コース設計も大きく変革した。コース選定において重視すべきなのは、これまでアカデミーとして提供してきたダンスコースやヴォーカルコースのような「何を習いたいか?」ではなく、「何になりたいか?」。ダンスアーティスト総合コース、クリエイターアーティスト総合コース、シアター総合コースという3つのコースが設けられた。

藤井「これまで受講生の中には、『ダンス専攻だけどヴォーカルの方が向いてそう』と感じる方もいましたし、なりたい理想像とは違うことを学んでいるケースもありました。若い方たちの育成期間は限られていますし、無駄な遠回りはさせたくない。そのために本人が『何になりたいか?』を最初に見定め、学ぶべきことの優先順位を明確にしようという意図がありました」

また、ダンス専攻では従来、週1回・1コマ90分のレッスンが基本だったが、新しいコース設計では“受け放題”のみ。受講生のやる気次第で、受けられるレッスンの数はこれまでの数倍にも広がるようにしたと言う。

藤井「加えて、受講生がカリキュラムを選択する際の心理的な障壁を取り払うことも理由として大きい。例えばダンスで週1のレッスンを選ぶ場合に、ヒップホップ好きの受講生ならヒップホップを選ぶのは当たり前ですが、本気でプロを目指すにはジャズやハウスなど他のジャンルも学ばなければいけない。その点、受け放題なら『とりあえず受けられるから』ということで、受講生がさまざまなジャンルに興味を持つきっかけをつくれると考えました」

また、レッスンの質を高める最新設備も用意。全3室でヴォーカルレコーディングや、昨今の音楽業界で主流のコーライティング(=co-writing。複数の作曲家が共同で1つの楽曲を制作)が可能。加えて、コロナ禍で普及したオンラインレッスンのための設備も備えており、講師がアカデミーからリアルタイムに受講生とコミュニケーションを取ることもできる。

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ヴォーカルスタジオ

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レコーディングスタジオ

また、ダンススタジオでは常にステージ上で踊っている感覚を養うために、壁一面にLEDビジョンを備えてグラフィカルな映像が流れるほか、照明もダンススタジオでは異例とも言えるムービングライト等を導入し、ライブ会場と同様の環境を実現。レッスンの模様を思わずSNSで投稿したくなる煌びやかさは、受講生たちからの反響も大きかったという。

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

ダンススタジオ

藤井「あとこれは最新設備ではないのですが、最低限の音響設備のみの自習用個室も用意しています。受講生たちには『レッスンでのインプットだけで完結せず、必ずアウトプット』ということは常々言っていて、自習用個室を週5で予約している受講生がいたら……なりたい像に向けた想いの強さをより感じます」

第一線で活躍する一流の講師陣
即戦力アーティストを生む実践的育成

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

写真左)増田陽菜
写真右)磯崎翼

そしてアカデミーの強みは、一流のアーティストたちを陰で支えているプロデューサー、バックダンサー、ヴォイストレーナー、A&Rなどが講師を務めている点にもある。

ここからはアカデミーの講師陣と育成方法に関して、受講生たちの言葉も紹介しよう。まずひとり目は、ダンスアーティスト総合コースのダンス&ヴォーカルを専攻している16歳の磯崎翼(以下、翼)さん。アカデミー歴はまだ浅いが、「彼は声を含めてすごくいいものを持っていて、頭ひとつ抜けている印象です」と藤井が語る人材だ。

翼「僕は元々LDHのアーティストに憧れていて、アカデミーの特待生オーディションで準特待生になれたことから、エイベックスで自分の夢を追いかけようと思いました。今はエイベックスのボーイズアーティストとしてデビューしたいと思っています。僕はICHIKAWA先生という方にヴォーカルのレッスンを受けているのですが、最初のレッスンからすごく褒めてくれて。『バッサ(翼のあだ名)は難しいことを考えずに好きに歌おう。それを伸ばしていくから』とも言ってくれて、今は楽しみながら上手くなれている実感があります」

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

もうひとりは、クリエイターアーティスト総合コースで学ぶ12歳の増田陽菜(以下、陽菜)さん。彼女は9歳からアカデミーに所属していて、当初は歌って踊れるアーティストを目指していた時期もあったそうだが、レッスンを続けていく中で理想のアーティスト像が芽生えていったという。

陽菜「元々はlolさんやDa-iCEさんのようなダンス&ヴォーカルグループに憧れてアカデミーに入りましたが、今は海外でも活躍できるようなソロアーティストを目指して、クリエイターアーティスト総合コースで勉強しています。新しい校舎は外から見ても中に入ってもすごく派手でテンションが上がりますし、さらにレッスンを頑張りたいと思いました。今は(畑中)ikki先生の授業を受けていて、特に勉強になっているのが“7 Layers Singing Method”。カウント、アクセント、ブレスなど7つのルールを、歌う前に毎回確認してから練習しています」

一流のアーティストたちとタッグを組んできた講師陣が、若い才能を全面バックアップ。さらに、エイベックスの音楽事業やマネジメント事業の経営陣たちが各コースのスーパーバイザーを担うことで、アカデミー卒業後を見据えた即戦力アーティストの育成を目指している。

『強いアーティスト・
タレントの創造』を目指して
次世代アーティストに求められる素質

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エントランスホール

エイベックスが“Entertainment×Tech×Global”をキーワードに、グループ全体として「新たなコンテンツIP(Intellectual Properties=知的財産)の創造」に挑戦する中で、アーティストの開発・育成の重要度はますます高まっている。

藤井「アカデミーが取り組む次世代アーティストの育成は、いわばエイベックスの“源流”。その覚悟と危機感があるからこそ、このタイミングでアカデミーの大幅なリニューアルに舵を切りました。5年後10年後のエイベックスを支えるアーティストを育成することが第1目標であり、彼らが成長した後に、エイベックスを支える強いアーティスト・タレントになるのだと信じています」

また、藤井がこれからのアーティストに最も必要な素質として挙げたのが「共感力」。

藤井「共感される能力ですね。1アーティストでもファンのペルソナは多様だと思いますが、その方々に共感される能力は、SNSが主流になっているこの時代に、間違いなく必須な能力だと思います。ただし、それは育てにくいものであり、狙ってできるものでもない。また昨今はTikTokから有名になるアーティストの増加などヒットの傾向が多様化していて、“どういう方がスターになるか”は未知の部分も多い。ですが、鍵のひとつとして共感力はあると思います」

ただし、そのような偶発的なヒットが増えている中でも、アカデミーは必然的なヒットを目指して、土台のしっかりとした若いアーティストをこれからも育てていく。

藤井「ここでいう土台は単にスキルだけではありません。これに関してもエグゼクティブプロデューサーの戸口は『能力の半分は仕事力で、あと半分は人間力だ』と言い続けていて。それって当たり前のように聞こえるかもしれませんが、仕事力と人間力の両方をバランスよく兼ね備えたアーティストを育てることは本当に難しい。アカデミーはあくまでも教育機関ですので、情操教育も含めて、ひとりの人間をしっかりと育てていくことをこれからも変わらず続けていきます」

エイベックスにおいて、アカデミーほど「成果が出るまでに時間が掛かる」事業はない。早くても3年、いや5年。中には10年越しでブレイクするアーティストもいる。それでも地道に若き人材へエンタメの種を植え、水をやり、日を当て、花咲く日を目指してともに歩む。

急速なスピードで変化し続ける現代のエンタメ業界。ヒットの方程式が不確かなこの時代に、エイベックスの未来に関しても楽観的な意見は述べられない。ただし、エイベックスの未来を照らすためには、アカデミーの成功が必須条件であることは揺るぎのない事実だ。

少数精鋭でプロフェッショナルを育成 エイベックス・アーティストアカデミーの変革

(写真左)
増田 陽菜

(写真中)
磯崎 翼

(写真右)
エイベックス・マネジメント株式会社
エイベックス・アーティストアカデミー
アカデミー東京校 校長
藤井 宏典

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エイベックス・アーティストアカデミー
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