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ハイライト

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2017年3月に“Best Part Of Us”でデビューした日本人覆面ユニット・AmPm。デビュー曲が全世界で話題となり、これまで20作品以上を発表。海外リスナーが7割を占める、世界で今もっとも注目される日本人アーティストの1組だ。そんな中、彼らとエイベックスがアーティスト契約を結んだ。もともと自ら会社を立ち上げ、マーケティングも生業としていたAmPmが、なぜエイベックスとタッグを組むことになったのか? その経緯と彼らが見据えるマーケットへの新たな戦略、未来のエンタメシーンへの展望を、AmPmの左&右とエイベックス・エンタテインメントの高瀬大輔に聞いた。

共鳴する“インディーズ・
マインド”と、
タッグを組む必然性

AmPmは、世界中で話題となったデビュー曲をはじめとする自身の楽曲に加え、Afrojack、R3HAB、Nicky Romeroといった海外大物アーティストの楽曲のRemixも手掛ける。さらに、2017年にはインドネシア・ジャカルタで開催されたSpotify on Stage、2018年はULTRA MIAMI、ULTRA KOREA、ULTRA JAPANをはじめ、GALANTIS、Jonas Blue来日公演時にゲストパフォーマンスを披露。急速に知名度を上げていく中で、その存在はすぐに日本でもフィーチャーされていった。

高瀬「最初にAmPmの存在を知ったのは、Spotifyで話題になっている日本人アーティストがいるというニュースでした。去年の今ごろは僕自身まだSpotifyにあまり詳しくなかったのですが、日本人アーティストがサブスクリプションで結果を出したということに対して、単純に驚きを感じましたね。エイベックスとしてもサブスクリプションに関しては、今後ビジネスをしていく上で重要視していかなければいけないカテゴリーですが、その中でどう戦っていくかは手探りの状態だったんです。そんな中で彼らは大手を出し抜いて、自分たちの力で実績を上げていた。これはいろいろ得るものがある、というか得るものしかないと思いましたね」

右「AmPmがデビューしたのは2017年の3月ですが、おかげさまでその3月のデビュー曲がSpotifyを通して全世界に広まっていった。デビューするまでに2年近く時間を要しているのですが、デビューしてからは僕らが想像していたよりもはるかに速いスピードで物事が動いていったんです。動き出してしまったからには、曲をどんどん作り、プロモーションをして、ライヴの準備もしなければいけない。自分たちで会社をやっていたので、新たなスタッフを雇用して会社を大きくしていくという選択肢もあったのですが、AmPmが外から求められるスピードと、中で成長していくスピードがまったく合わない状態になっていったんです。そんな中でエイベックスさんを始め、国内外からさまざまなオファーをいただきました。ただ、僕たちは決して英語が流暢なわけではないので、国内で検討していたんです」

AmPmはそのとき、あるニュースを目にした。それは、エイベックスがブルーノ・マーズとの全世界音楽出版管理契約を結んだというもの。それを目にして「どえらいことをするな」と感じたという。そこからエイベックスと話を詰めていく中で彼らが感じたのは、エイベックスという会社に宿る“インディーズ・マインド”。現時点ではできないことに対しても、どうやっていこうかと一緒に探ってくれる。そういったマインド面での共鳴が、AmPmとエイベックスを結びつける決め手となった。

左「僕らとしては『既定の座組みでこれ以上のことはやれない』という感じではなく、臨機応変に動いてくれるパートナーを探していました。その上でやはり、エイベックスさんが一番それに当てはまる存在だったんです。僕的には、マインドの部分でフラットに付き合っていける関係性でないとうまくいかないだろうと思っていたので」

高瀬は「海外の有名アーティストとライセンス契約を結んで日本でリリースという形はこれまでもありましたが、日本人が海外でまず実績を残し、それを日本でも……しかもサブスクでという事例は少なくとも僕は経験がありませんでした」と語る。AmPmはすでに日本を飛び越えて、世界各国で聴かれた実績を築いている。エイベックスと手を組み、さらに世界での評価を伸ばしていく……と思いきや、エイベックスとAmPmが最初に描いたビジョンは、より地に足が着いたものだった。

右「僕たちは海外での自分たちの評価を上げていきたいという気持ちがありつつも、海外のミュージシャンやメディアの方とコミュニケーションを取る中で、『海外で聴かれているのはわかりました。ただ、あなたたちの日本での実績はどうなんですか?』と聞かれることが多かったんです。出身国よりも海外で聴かれている方なのかもしれませんが、海外でそんなアーティストは山ほどいる。なので正直、それは武器にならない。そこから国内で勝負するには、ある種の“ローカライズ能力”が必要だと感じました。その点、エイベックスさんは海外のダンスミュージックを日本に浸透させた実績からもわかる通り、ローカライズ能力に長けている。国内での認知や評価という部分をテコ入れしていくことが今の課題ですし、そこはエイベックスさんに協力していただきたいと思っている部分です」

みんなで一緒に、手探りで進んでいくーーお互い実績や歴史がありながら、先行きは未確定。ただし、それこそエイベックスらしい挑戦であり、AmPmの存在をまだ見ぬ場所へ導く可能性を秘めている。

AmPmの“手品”のような
プロモーション
その戦略に隠された種

AmPmはエイベックスとタッグを組む以前から、自分たちで会社を立ち上げ、楽曲制作からプロモーションに至るまで、アーティストにまつわる全ての過程を自分たちで担ってきた。大手のレーベルに頼ることなく、前述の“インディーズ・マインド”で音楽業界にカウンター的なアクションを起こしてきたが、それを目の当たりにした高瀬は、「手品を見せられたような印象だった」と語る。

高瀬「AmPmを担当するようになって、サブスクリプションの仕組みなど、改めて勉強し直しました。彼らは独自のやり方で再生数を伸ばしたアーティストで、現時点でデビュー曲が2500万再生という数字を残している。日本人の覆面アーティストが海外のSpotifyでヒットしているという非常に謎めいたもので、まるで手品を見せられたような印象だったんです。ただし、そこに至るまでの戦略を彼らに聞くと、サブミッションメディアの活用など今まで我々が知らなかった新たな戦略に加え、とても地道なこともやっていたんですね。 “種”を聞いたら納得できるものでしたが、それを聞いたからといって誰にでもできるものではないと思いました」

右「Spotifyに限らず、音楽市場を取り巻く変化のスピードの早さは常々感じています。2017年にAmPmがスタートした時点で僕らもいろいろと考えて動いていましたが、ルールはどんどん変わっていく。正直、今でも戦略というか勝ち筋を探しています。前日に『これはいける』と思っても、朝起きたらルールが変わっているみたいなことは度々あるので。ただ、探すために走り続けているのは強みで、常に思いついたことに対してアクションを起こしていくことが大事だと考えています」

それに加えてAmPmにとって何より大事なのは、“スーパーリスナーであること”と右氏は語る。純粋に音楽が好きという気持ち、そしてその気持ちに向ける熱量。未確定の未来に向けて希望的観測を立てるよりも、現時点で身の回りにあふれている音楽に対して、誠実に耳を傾けることーーそれこそが、AmPmというアーティストをここまでの存在に押し上げた一番の鍵となっている。

右「自分だったらどうやって音楽を聴くだろうか、どうやっていい曲に引っかかっているんだろうかというのを、逆算して考えています。これだったらクリックする、しないだとか、俯瞰的に物事を捉えて分析していく。音楽業界において僕らはマジックを使っているのかもしれませんが、おそらく他の業界からしたら当たり前の手法を使っているのだと思います。かつそれは決して難しいことではない」

左「彼がリスナーの役割だとしたら、僕は現場で感じているタイプ。イベントに行く、もしくは自分でプロデュースをするというのが、AmPm以前からずっと日課になっていたので。ジャンル関係なしに、DJ感覚でハウスからラテン、ジャズ、ヒップホップまでクラブで聴きながら、イベントや楽曲をプロデュースしたり、コンピレーションCDをミュージシャンたちと作ったりしてきました。僕は現場の空気感を楽曲やイベントに落とし込むのが得意。それは現場にいた数に比例していて、小箱とはいえすごくいいクラブやライヴハウスはたくさんあるし、そういうところで素晴らしいアーティストたちと繋がってきたので。その部分と右が持っているリスナーとしての視点が組み合わさっているのが、AmPmとしての強みだと思います」

さらに右の“ある日課”には、それを裏付ける圧倒的な積み重ねが隠されていた。

右「普段はスマホの時計とかもタイムゾーンを5つぐらい設定していて、『ブラジルだとこの時間だからこういうプレイリストが更新される』という感じで、ずっと追いかけています。そうすると今の音楽の流れがつかめてくる。とにかく24時間、音楽を追いかけ続ける。海外は金曜日のリリースが多いので、木曜の晩から金曜の夕方ぐらいまでものすごく忙しくて睡眠不足になります。でも、毎週新しい発見があるし、そういう視点で音楽を聴くことで世界を感じられる。まあ生活的におすすめはしないですけど、プレイリスト戦略や音楽の楽しみ方のヒントはあると思います」

高瀬「そういう話を聞いて僕自身、すごくハッとさせられた部分はありました。サブスクリプションで再生数を稼ぐには、もはや一辺倒なやり方では通用しない。コツコツ地道に音楽と向き合った先に、再生数が伴っていくことを教えられました」

その上で、エイベックスは何をもってAmPmを高めていくのか。ここまでの成功にすがっていては、両者がタッグを組む意味は無く、互いに高められるからこそこの関係性は続く。そこは高瀬として彼らのこれまでの動きを評価しつつも、これからのAmPmの課題を分析していた。

高瀬「彼らはすでに実績があり、そこに至るまでのマーケティング戦略のノウハウも持っている。それらはもちろん生かすべきだと思っていますが、それだけでは熱狂的なファンを獲得するのは難しいのかもしれないと考えています。何百万人のフォロワーを持つ大きなプレイリストに入り、楽曲が再生されても、リスナーの立場で言うと楽曲を“聴いている”というよりは“聴こえた”という感覚の人の方が多いのではないかと。プレイリスト頼みで再生数は伸ばせても、AmPmとしてリスナーの印象に残りづらい面も出てくるので、やはりアーティストとしてさらに成長していくために、“印象に残る”というのをAmPmと一緒に考えていきたいと思っています」

「AmPmという概念」の
前例なきチャレンジが
総合エンタテインメント
を拡張する

AmPmとエイベックスのタッグは、いちアーティストとしての成功のみならず、それぞれのホームへの還元という意味でも、大きなメリットを秘めている。

高瀬「AmPmはサブスプリクションという市場において独自の方法で実績を作った、ある意味で先駆者だと思うんですよ。そういう偉業をやってのけたアーティストをどういう方向性でやっていくべきかの葛藤はあって、海外にもっと出ていく方法も2、3手を持っていなければいけないという気持ちもあります。AmPmとともに試行錯誤しながら、いろいろなトライ&エラーを繰り返していくことで、エイベックスとしても、その分野におけるノウハウを貯めていきたいと考えています」

右「それは僕たちも同様で、自分たちも会社を経営していますし、AmPmが先頭を走ることで、良いことも悪いこともうまく伝えていけるような立場になれればと考えています。そういう意味で僕らはトライ&エラーに耐えうるメンタリティーは持っていますし、そのあたりはお互いに協力して積極的に手数を打てる状態になれば、課題の解決案はおのずと見えてくるのかなと思います」

そして、“ライヴ・エンタテインメント”という点において、AmPmはまだまだ発展途上であり、それゆえさまざまな可能性を秘めているアーティストと言えるだろう。AmPmは昨年、マイアミ、韓国、そして日本のULTRAに参加。その部分でエイベックスは、圧倒的なノウハウを持っている。

左「改めてチームでAmPmのコンセプトを言語化していて、その上でライヴもエイベックスさんが持っているノウハウと組み合わさっていければと考えています。ノウハウの組み合わせには当然、時間はかかると思います。ただ、両者で話し合う分だけ成長に繋がるでしょうし、そこをちゃんと整理できれば、持っているネットワークがもっとリンクしてくるはず。今はお客さんにとってAmPmはDJをするのか、ライヴをするのか、そもそも何者なのか……? つかみきれていない状態だと思うので。そこをAmPmらしい形で提示して、後々になって『こういうことをしたのはAmPmが初めてだよね』って思ってもらえるような魅せ方にしていかなければいけないなと思っています」

高瀬「4/21(日)に初めてAmPmとしてライヴ・パフォーマンスをしました。5月にはGREENROOM FESTIVAL'19への出演も控えています。そういったところで『AmPmはどういうライヴをするのか』というのを、まずは今の形として提示できると思います」

左「AmPmはそもそも『何のために始めたのか』という部分が鍵にはなってくるかと。僕らが会社を立ち上げた理念でもあるのですが、僕らがミュージシャンの雇用というか紹介をすることで、コライト(Co- Write/共作)の文化を発信していくことがルーツにあるんですよ。AmPmはDJだけどプロデューサーでもないし、音楽も作っていない。二人でやっていてもバズらないんですけど、そこにベースやドラム、ギター、シンガーとか、無名だとしてもめちゃめちゃカッコいい人を入れてみんなに紹介する。現場でこのプロセスを得た手法がバイラルになっていくことが、サブスクではない方法で僕らがやるべきことなんじゃないかなと。そういうAmPmらしさにエイベックスさんのクリエイティヴを組み合わせていければ、このタッグはもっと広がりが出てくる。例えば、エイベックスさん的にも『AmPmを辿っていったらめっちゃいいアーティストいるじゃん』っていうような形で、僕らを通してアーティスト発掘の機会になるかもしれない」

彼らが築き上げた戦略や積み重ねた実績に、“国内でのローカライズ”、“印象に残る聴かれ方”を強化する新たな仕掛けを投じ、AmPmの次のステップへの道筋を作る。そしてその先に見据えるのは、「ミュージシャンの“ハブ”になる」というAmPmにとっての“大義”を達成させる未来。アジア、そして世界でハブとして機能するという彼らの目標をともに成し遂げること、それは高瀬にとって前例のないチャレンジだ。

高瀬「エイベックスはこれまでも新しい取り組みをいろいろやってきてはいますが、今回は本当に学ぶことが多いですね。僕が彼らから最初に聞いたのは、『AmPmは概念だ』という話でした。そういうところからスタートしているので、今までの常識はまったく通用しないなと思いました。あとはとにかくフットワークを軽く、何をすべきかしっかり見極めてどんどん動けるかどうかだと思います」

インタビューの最後、AmPmに現実問題をいったん無視してやってみたいことを聞くと、返ってきた答えは「ホテルの建設」。年に一度、アムステルダムで開催されるダンス・ミュージックのカンファレンスイベントでは、毎年何組かのアーティストの冠を付けたホテルがポップアップを開催するなど、実際に経営に携わっている人も多いという。ホテルを作ることで、ライヴをもっと拡張した総合エンタテインメントを生み出すことができるーーそれはエイベックスの理念との親和性の高さを感じるとともに、この話を聞いて少し戸惑いつつ笑う高瀬は、その未来を想像して楽しんでいるように見えた。

(写真左)
AmPm 左

(写真中)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部
第3C&Rグループ
コミュニケーションデザイン第3ユニット
マネージャー兼シニアプロデューサー
高瀬 大輔

(写真右)
AmPm 右

こんな内容

AmPm Official site
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