エイベックスは2018年、ロサンゼルスにAvex USA Inc.(以下、AUI)を設立。グローバル市場における新たなコンテンツIP(Intellectual Properties=知的財産)の創出を目指して北米事業をスタートさせた。今回はAUIの取締役社長・長田直己(以下、長田)と、参画するクリエイティヴのフロントラインメンバー計4名に、AUIの過去・現在・未来をインタビュー。前編ではAUI立ち上げの経緯やメンバーとの出会い、ロサンゼルスの本社「Avex House」で生まれるコミュニティなどについて聞いた。
ロサンゼルス本社「Avex House」
「新規事業創出」に向けてリスタート
新たに築いた
Avex USA Inc.という地盤
エイベックスが北米事業の舞台として目を付けたのが、世界のエンタメの中心地であり、今や“音楽テックスタートアップの聖地”と呼ばれるロサンゼルス。
新天地でAUIを設立し、〈Entertainment×Tech〉をキーワードに、「エンタメの新規IP・事業創出」へビジネスモデルをチェンジして再スタートを切った。そしてその舵取りを任されたのが、AUIの取締役社長を務める長田だ。
長田直己
長田は2004年にエイベックスへ入社し、常に音楽制作に携わってきた。2013年から2015年にかけてはロサンゼルスのUCLAへMBA留学し、ファイナンスやストラテジーなどを学びながら世界のエンタテインメント業界の潮流を肌で感じた。帰国後は、国内向けのスタートアップ投資を行うエイベックス・ベンチャーズを経て、新規事業部門のチーフプロデューサーに就任。エイベックスが音楽×テックのアクセラレーター・Techstars Musicへ参画することを実現した。
長田「エイベックスが戦略として〈Entertainment×Tech×Global〉を掲げるのであれば、海外のスタートアップへの投資・協業は非常に重要だと考えました。そしてまずは目利きが得意で関連性の強い音楽の領域でやるべきだと。その後実践していく過程で、最前線の音楽×テクノロジーのコミュニティを地盤にしていくことがすごく大事だと考えるようになりました。そんなことを考えているタイミングで、IPをよりグローバルに展開する流れがエイベックス全体でもできつつあったので、これはタイミング的にバッチリだと思いましたね。そこからコンパクトかつ機動力の高いフレッシュな会社をつくる流れに進んでいき、AUIが誕生しました」
AUIは、ロサンゼルスの中でも特にフレッシュな人材が集まるウェスト・ハリウッドが拠点。約600平方メートルの一軒家を改造したスタジオ・ハウス「Avex House」は、レコーディング・スタジオとプロダクション施設を完備している。事業の柱としては音楽出版の「Avex USA Publishing」、次世代型レコード・レーベル「SELENE」、音楽スタートアップへの出資・支援プログラム「Future of Music Investment Fund」という3つの部門。
Avex House内レコーディングスタジオ
Avex House内ミーティングスペース
音楽出版、レコードレーベル、
楽曲提供
北米事業を展開する
主要メンバーたち
今回のインタビューでは、長田とともに現地で事業を展開している主要メンバーたちにも話を聞いた。まずは、エイベックス USAの音楽出版部門であるAvex USA Publishingに、VP of Publishing A&Rとして加わったAndrew Hawthorne(アンドリュー・ホーソン)。
Andrew Hawthorne(アンドリュー・ホーソン)
Andrew「以前はPrimary Waveという音楽出版社でA&Rなどをしていました。エイベックスとの出会いのきっかけは、AUIとジョイント・ベンチャー契約を結んでいる、トップアーティストのNormaniやAnittaらが所属し、契約アーティストが続々とブレイクしているマネジメント会社S10 EntertainmentのJosh Hallbauerからの紹介です。エイベックスは日本で大きな成功を収めているレーベルで、日本は世界第2位の音楽市場を持っている。そこからさらに世界のマーケットで1位の北米に挑戦していくエイベックスの志には感銘を受けました。非常にエキサイティングな動きにジョインできたことをうれしく思っています」
そして、次世代型レコードレーベル・SELENEの最高責任者であり、AUI全体のストラテジーとオペレーションを統括するのがLucas Thomashow(ルーカス・トマショウ)だ。彼は新卒でGoogleへ入社し、マーケティング戦略を担当。その後はZ世代(1990年後半頃から2012年頃に生まれた世代)に向けたデジタルコンテンツメディア「Brat」で音楽レーベルを立ち上げ、DJとしても活躍したバックグラウンドを持っている。
Lucas Thomashow(ルーカス・トマショウ)
Lucas「AUIとの最初の出会いはAndrew と一緒で、Josh Hallbauerを介して知り合いました。そこでいろいろな話をして、音楽とテクノロジーという考え方が僕自身の考え方とすごくフィットしたので参加しました。またエイベックスの企業の方針として、情熱を持った才能あるフレッシュな人材に投資することや、仲間意識を持ってリスペクトし合うことを大切にしているところにも共感しました。日本でのサクセスフルな体験をもとに、アメリカでこれからエキサイティングなものを作っていこうという動きに賛同しています。そしてAUIは音楽とテクノロジーの融合から新しく生まれるだろうイノベーションにも期待していますね」
そしてアメリカ生まれ・アメリカ育ちのJimmy Takashima(ジミー・タカシマ)は、現地ソングライター・プロデューサーが日本・アジアのアーティストへ楽曲提供するA&R業務に携わる。
Jimmy Takashima(ジミー・タカシマ)
Jimmy「2015年にエイベックスのダンス・オーディションがロサンゼルスであった時に、エイベックスの方から『日本でA&R として働かないか』とお誘いをいただき、そこから日本に渡ってLDHさん関連の音源制作A&Rを担当していました。その後、長田さんが担当していた海外のスタートアップの来日時のアテンドなどもお手伝いしていました。僕も入社した時から日本とアメリカの橋渡しをすることが夢だったので、AUIの立ち上げに賛同してジョインしました」
音楽とテクノロジーの垣根を越えて
Avex USA Inc.が目指す
コミュニティ形成
長田は、“音楽”と“テクノロジー”が重なりあうコミュニティとしてAUIがポジションを置き、そこで今まさに大きな成功を収めようという野心のあるクリエイターやアーティスト、スタートアップとパートナーシップを組んでいくことに可能性を見出す。
長田「アーティストやクリエイターの多くは未来志向で、また未来志向のイノベーターたちは音楽・アートに敏感で、それぞれそういう人の周りには同じマインドの人が集まっている。そして西海岸・ロサンゼルスという土地柄もあり、音楽コミュニティとテクノロジーコミュニティが融合していて、どちらの領域にもリテラシーがないと会話が通じない。有名なアーティストや音楽業界のエグゼクティヴにおいて、スタートアップ投資に関わっていない人の方が少ないと思います。その上で僕らとしては、今まさにアメリカや世界の音楽業界で成功する瞬間のフレッシュなクリエイターやエグゼクティヴ、スタートアップたちとパートナーシップを組み、彼らを徹底的にエンパワーしていく。これがAUIにとって、非常に大事なポイントだと考えています」
Lucas「AUIはそういったスタートアップを応援し、音楽ビジネスを進めるためのノウハウを提供しています。加えて、Avex Houseというまだ小さなコミュニティだからこそ、お互いに仲間意識を持ち、お互いをリスペクトすることも大切にしています。Avex Houseは最先端のスタジオ・ハウスであり、クリエイティヴの“ハブ”になっている。そこで生まれたクリエイティヴやカルチャーがスタッフだけではなく、我々が仕事しているライターやプロデューサーにも伝染し、大きなコミュニティになっていくことを目指しています」
長田「Avex Houseをハブに独自のコミュニティが生まれてきているというのはやはり大きなポイント。エイベックスはアメリカではニューネームなので、このコミュニティは私たちにとっては大きな武器となるはず。まずは“家”を作り、そこに新進気鋭のアーティストから大物アーティストまでさまざまな人が訪れ、新しい“コミュニティ”ができる。Avex Houseは今、クリエイターやアーティストがまた訪れたくなるような居心地のいい空間になっていますし、我々のビジネスにとって大きなアドバンテージになっていくと思います」
加えて長田は、AUIのメンバーに“共通点”と“居心地の良さ”を感じている。
長田「AUIのメンバーはみんなチームプレイヤーで、ピュアな想いと高い目標の両方を持っている人たちばかり。そして何より、音楽が好きということが共通点です。Avex Houseにはスタジオがあって仕事場があり、みんな一緒に仕事をして、時にはご飯を一緒に作って食べることもある。共に暮らしている家族みたいな雰囲気があって、今はすごく仕事も遊びも充実して過ごせていますし、みんな最高のメンバーです」
日本で築いた歴史と実績にあぐらをかかず、音楽ビジネスにさらなる革新をもたらすため、ロサンゼルス発の挑戦をスタートさせたAUI。後編では、AUIの事業の柱となっている3つの部門にフォーカスするとともに、見据える未来に迫っていく。
写真左から
Avex USA Inc.
Jimmy Takashima
Avex USA Inc.
Lucas Thomashow
Avex USA Inc.
Andrew Hawthorne
Avex USA Inc.
長田 直己