2018年にロサンゼルスで設立し、新たなコンテンツIP(Intellectual Properties=知的財産)の創出を目指して北米事業をスタートさせたAvex USA Inc.(以下、AUI)の、過去・現在・未来に迫るインタビューの後編。AUIの取締役社長・長田直己にクリエイティヴのフロントラインメンバーを加えた計4名に、AUI立ち上げの経緯やメンバーとの出会い、「Avex House」で生まれるコミュニティなどついて聞いた前編に続き、後編ではAUIの事業の柱となる3つの部門にフォーカスし、見据える未来に迫っていく。
才能あるハードワーカーと契約
音楽出版の
「Avex USA Publishing」
エイベックスが新たなIPの創出を目指し、ロサンゼルスを拠点にスタートさせたAUI。主軸として進めているのは、音楽出版の「Avex USA Publishing」、次世代型レコード・レーベル「SELENE」、音楽スタートアップへの出資・支援プログラム「Future of Music Investment Fund」という3つの部門だ。
まずは音楽出版のAvex USA Publishingに関して、同部門でVP of Publishing A&Rを務めるAndrew Hawthorne(アンドリュー・ホーソン)に、これまで契約してきたアーティストやプロデューサーの例を挙げつつ、契約を結ぶ際に軸としている指針を聞いた。
Andrew「我々が契約したソングライター・プロデューサーの例を挙げると、Billboardグローバル1位を獲得したJustin Bieberの世界的な大ヒット曲『Peache』をプロデュースし、彼のバンドマスター・ベーシストであるHarvや、LAの大人気次世代HIP-HOP集団・Internet Moneyのメンバーで、大ブレイク中のアーティストThe Kid LAROIのメインプロデューサーの一人でもあるCxdyなど今をときめく次世代の才能たちをはじめ、2000年代を代表するセールスを記録したUsherのアルバム『Confessions』や、Mary J. Blige『Be Without You』など数々の名曲をプロデュースしたR&B界の重鎮Bryan Michael Coxや、Billboardで10週間連続1位を取ったUsherの『Yeah!』やAriana Grandeの『Baby I』などを手がけたPatrick “J Que” Smithなど、レジェンド級のクリエイターもいますね。契約を結ぶ際に軸としている指針は、まずはもちろん音楽でインスピレーションを与えられるような作品をつくっていること。そこに感銘を受けられなかったら、一緒に仕事をすることはできません」
長田曰く、Andrewはかなりのハードワーカーということだが、契約するライターやプロデューサー、そしてその周りにいるマネージャーやチーム全体にも熱量の高さを求めている。
Andrew「先ほど有名なプロデューサーの名前を出しましたが、才能はあるものの今はまだ駆け出しというアーティスト・プロデューサーもたくさんいて、多様な人材が集まってきています。あとは、アジア系アーティストを抱える88risingという今とても注目を集める人気レーベルとライティングキャンプを開催したことがあり、そこから新たな楽曲も生まれました。88risingはアメリカでとてもリスペクトされているレーベルで、一緒にライティングキャンプができたのはすごく大きかったと思います。また彼らがAvex Houseのカルチャーや、私達のクリエイティヴチームをすごく気に入ってくれて、今でも数ヵ月に1回、定期的に交流があります」
レコードレーベル
「SELENE」が狙う
Z世代へのアプローチ
次世代型レコードレーベル「SELENE」は、インフルエンサー・SNS領域で、Z世代(1990年代後半から2000年代前半に生まれた世代)に響く実力を持つアーティストのレーベルとして始動。その最高責任者に就任したLucas Thomashow(ルーカス・トマショウ)は、レーベルの仕組みや強み、そして“競争していかなければいけない相手”についてこう語った。
Lucas「北米は完全にストリーミングに振り切っているので、音楽だけではなく例えば動画配信サービスのNetflixやゲームのFORTNITEなど、さまざまなコンテンツと競争していかなければいけません。たくさんのメディア、エンタテインメントがある中でも目立つようなアーティスト、それはつまりストーリー性や発信力のあるアーティストにアンテナを張っておくことを心掛けています。そして、彼らのマーケティングスキルやクリエイティヴスキル、コネクションを引き伸ばしていく機能を持ったレーベルを運営していこうと考えています」
次世代のスターに必要不可欠な条件は「自分自身をマーケティングすること」。さらにSELENEの指針として、新進気鋭のアーティストとタッグを組むことを重視している。
Lucas「アメリカのレーベルはアーティストがある程度成長した段階で契約するビジネスモデルが一般的なのですが、僕たちが狙っているのはもっと早い段階。早めに才能のある人たちを見つけて、ベストな音楽をつくれるような環境を提供し、さまざまなコネクションを紹介して導いていく。そうやって次世代のスターをつくるモデルにトライしていて、その成功例としては、まだマイクを使ってレコーディングした経験のないうちから発掘してAvex Houseでライティング・セッションを重ねたのち、SELENEの第1号契約アーティストとなった当時19歳のZack Hoodなどがいます」
加えてLucasは、日本のアーティストの全米進出を支援することも視野に。その点について、日本やアジアのアーティストへの楽曲提供を担当するJimmy Takashimaは語る。
Jimmy「AUIのクリエイティヴ・チームは、三代目J Soul Brothersに「Lose Control」、EXILE SHOKICHとCrazyBoyがコラボしたKING & KINGというユニットに「GET IT ON」、SixTONESに「Make Up」という楽曲を提供しました。またエイベックスとテレビ東京によるオーディション番組『ヨルヤン』に、アリアナ・グランデなどを手掛ける世界的プロデューサーのSocial Houseが楽曲を提供するなど、洋楽にインスパイアされた楽曲を求められる場合に、自分たちのチームはよりフィットすると思っています。日本のアーティストと市場に合っていて、なおかつアメリカで聴いてもイケてるハイブリッドなコンテンツづくりが強みです」
Avex USA Inc.の独自性
成功のキーワードは
コネクティビティ(連結性)
エイベックスとしてTechstars Musicに参画することで、世界最先端の音楽テックスタートアップのコミュニティにジョインし、その延長線上に誕生したAUI。そして現在は、エイベックスハウスを起点に現地の音楽業界でコミュニティを構築することで、素晴らしいクリエイターと良好な関係を生み出していることがAUIとしての独自性であり強みだ。
長田「アメリカの第一線で活躍している彼らとつくるローカル・ビジネスから得たノウハウを、いずれ日本の市場にシェアし、エイベックスとしてもSNS・ストリーミング時代の中で勝っていけるような知識をちゃんと持ち帰れるようにしたいと考えています」
主軸とする部門で着実に成果を出し、ロサンゼルスの地で独自のコミュニティとカルチャーを築き始めているAUI。今後の事業強化計画の目標は?
長田「一流の音楽、イノベーションを戦略的に持ち込むことを継続しながら、質と量を上げていく。加えて、競争力を保つためにはローカルビジネスとして誰からも一目置かれるような存在になっていくことが、世界に発信していく上で非常に重要になってきます。そういう理由もあって、フレッシュで才能を持った相手とパートナーシップを組んでいる部分も大きい」
さらにSELENEのヘッドであるLucasは、AUIおよびエイベックスが大きくなっていくためのキーワードとして、“コネクティビティ(連結性)”を挙げた。
Lucas「レーベルが出版のビジネスを、出版がテクノロジー投資を、テクノロジーがアーティストの育成をどれだけ伸ばせるか。さらに言えば、AUIのコミュニティが、エイベックス本社のチームに貢献し、連携していけるか。そのようにお互いの相乗効果を大きくしていくことは、これからのテーマになってくると考えています」
Andrew「その点に関しては、Avex Houseという世界レベルのクリエイティヴスペースを持っている中で、運営している人々や各部門でどのような連結性がつくれるか、お互いの持っていないことを共有しながら成長させていけるかも重要になってくると思います」
長田「各部門の相乗効果が自分たちを成長させるとともに、AUIの強みになるはず。そして僕らのもうひとつのキーワードが“ブティック”。ブティックというのは少数精鋭で質の高いサービスを提供し、小さい固定費で大きな成功を分かち合うモデルで、そこを目指して皆で進んでいます」
そしてフィジカルという旧態依然のビジネスモデルが根強い日本の現状を踏まえた上で、長田が日本の音楽業界、そしてエイベックスとして目指すべきものとは?
長田「仮にフィジカルが全世界でなくなり、全部がストリーミングになって世界中に浸透した場合、音楽市場のサイズは人口の比にしかならないので、日本がいつまでも世界2位でいられることは難しいでしょう。その発想で言うと、必然的に世界に向けたコンテンツを作っていかざるをえない。そのためにAUI は、日本以外の国にもアピールできるようなクリエイティヴチームをつくっている。今後、さらにAUIのクリエイターとエイベックスのアーティストを組み合わせて広げていくことを楽しみにしています」
音楽業界におけるパラダイム・シフトが進む中で、エンタメの中心地で最先端のアーティストたちと、新たな音楽ビジネスの可能性を探るAUI。ターゲットはあくまで全世界。彼らの成功に、日本の音楽業界の未来がかかっていると言っても過言ではないだろう。
写真左から
Avex USA Inc.
Jimmy Takashima
Avex USA Inc.
Lucas Thomashow
Avex USA Inc.
Andrew Hawthorne
Avex USA Inc.
長田 直己