2022年11月に発表した、「才能や夢を信じる力」の大切さをアーティスト・タレント・クリエイターが直接伝えるエイベックス流の出張授業『avex class』が2校で行われた。エイベックスの新たなサステナビリティポリシーである「未来の才能と、未知の感動への貢献」に対する取り組みの一つだ。このポリシーの土台にあるのは、エンタテインメント企業の強みである発信力。感動や生きる活力など「無形の豊かさ」を人々に届け、さらには未来を創造する多様な人材・才能など「次世代」を育むことで、持続可能な社会の実現に貢献しようとしている。
エイベックスはこれまで、エンタテインメントビジネスの魅力、著作権の理解促進、働くことなどについてより具体的にイメージしてもらうため、企業訪問プログラムを実施してきた。
「将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現するための力を求める」という文部科学省の提唱を受け、教育機関へ訪問するプログラムにアップデートされた『avex class』。“普段とは異なる授業が子どもたちの個性や将来にしっかり向き合うきっかけとなれば。”そんな思いが込められた授業の様子を紹介すると共に、講師として参加したDJ KOO、古坂大魔王、そして、それぞれの学校の教諭に話を聞いた。
「華やかに見えるエンタメの世界も
積み重ねが大事」
DJ KOOが伝える継続することの重要性
第1回目の『avex class』は、東京都調布市で2019年に開校した中高一貫のドルトン東京学園中等部3年生に向けて開かれた。同学園は、詰め込み型の教育に対する問題意識から提唱された、自由と協働を2大原理に掲げる教育メソッド「ドルトンプラン」を実践することから、学園名もメソッドに倣ったという。
初回の講師は、デビュー30周年を迎えた『TRF』のリーダーでサウンドクリエイター、さらに大阪芸術大学客員教授も務めるDJ KOOが登壇。開始前からソワソワした雰囲気の漂う講堂にお馴染みの声で「よろしく」と投げかけると、すぐさま歓声が沸き上がった。その反応の速さから、この時間に寄せられた生徒たちの期待が感じ取れる。授業内容は、DJ KOOの自己紹介、ステージ上で生徒とのトークセッション、参加生徒全員による質疑応答の3部構成で実施。活発な質問が繰り返される中、DJを始めたきっかけと、一般的に不安定とされるDJを職業にすることに不安はなかったのか、とたずねられたDJ KOOは、次のように答えた。
KOO「高校卒業後に行ったディスコで、DJの人がかけた曲によって職種や世代を超えて盛り上がっていく様子を目の当たりにしたんです。これにビビッときました。確かに不安定な職業ですが、安定は後からついてくるものだと思っています。当時はそれよりも、心から惹かれた職業を目指せるうれしさのほうが大きかったですね」
先の質問に重ねて問われたのは、好きなことを貫く方法だった。
KOO「何か見つけたら、向き不向きに関係なく、ひとまず3年間やってみる。とにかく一歩踏み出して、小さな積み重ねを続けていくうちに、自分でも知らなかった魅力に気がつけるかもしれない。継続して行動していることを応援してくれる人が現れるかもしれないから」
質疑応答では恋愛相談まで飛び出すなど、講堂は終始自由な空気に包まれていた。授業の最後にDJ KOOが学生にメッセージを贈った。
KOO「華やかに見えるエンタメの世界も、やはり一つずつの積み重ねが大事です。どんな場所でも苦労はあるかもしれませんが、僕はオーディエンスを喜ばせるために苦労を感じたことはありません。人との出会いを大切に。またみんなに会える機会があれば、次はDJブースを持ってきます!」
「当たり前に対する感謝を持ち、
ひとつずつ前進する」
地に足をつけて生きる大切さ
特別授業の終了後、DJ KOOとドルトン東京学園の教諭に『avex class』の感想をたずねた。DJ KOOはオファーを受けた際の印象についてこう語る。
KOO「僕ら『TRF』は、時代とともに様々な事業に挑んできたエイベックスの生き証人です。『avex class』という新しい取り組みにも声をかけてもらえて素直にうれしかったですね」
客員教授の経験はありつつも、生徒たちに対してどんな気持ちで授業に臨んだのだろうか。
KOO「いつも生徒と同じ目線です。先輩や年上としての立場で参加するのではなく、友人のような距離感を意識しました。そうでないと、言葉が刺さる空間をつくれませんから。だから講師ではなく、長くエンタメを経験してきた一人のアーティストとして向き合いました」
DJ KOOは授業を通して「積み重ね」という言葉を度々使用し、挑戦していく強さについて語った。
KOO「とにかく継続することが大事だと思っております。コロナ禍で当たり前のことができなくなり、エンタメ業界も落胆しましたが、そういうときにこそ当たり前に対する感謝を持ち、ひとつずつ前に進む。そして、普段とは違う自分から一歩踏み出してみる。そういう意気込みを持ってもらえたらいいですね」
続いて、ドルトン東京学園の社会科教諭/生徒部長の大畑方人氏に話を聞いた。大畑氏は『avex class』に応募したきっかけについてこう語る。
大畑「前に在籍していた学校では積極的に外部連携を行っており、当時の生徒がエイベックスのインターンシップに参加したことがきっかけで『avex class』の取り組みを知りました。子どもたちが普段接している教諭や学校以外の存在から、刺激を受けられる良い機会だと思ったんです。また、エンタテインメントの第一線で活躍されている方々に人生の大切な部分を語っていただけたら、生徒たちが今後生きる上での一つの選択肢やロールモデルになるだろうと。そんな期待を持って応募しました」
大畑氏の期待は、どのように生徒たちに響いたのだろうか。
大畑「この学校は開校4年目で校風も自由。のびのびと育った子どもが多い反面、あまり泥臭い部分を知らない生徒が多い傾向にあります。世代全般で言うと、無理ゲーや親ガチャといった言葉が象徴するように、やる前から諦める風潮が染みついてもいるように感じます。日本経済や地球環境問題など、不安を感じる情報が多いのも一つの原因ですが、子どもたちには引かれたレールをなんとなく歩くのではなく、前向きな姿勢で逞しくチャレンジしてほしい。まさしくDJ KOOさんが語ってくださった、一歩を踏み出す勇気や積み重ねの大切さ。何よりテレビで見ている人が、夢や目標のために地に足をつけ努力していることをお話していただいたことは、生徒たちにしっかり刺さったのではないでしょうか」
「どんな人のそばにもエンタメがある」
古坂大魔王が伝える「目立つ」生き方
第2回目の『avex class』は、調布市立若葉小学校の5、6年生に向けて行われた。1963年に独立開校した同校の教育目標は、「かしこく やさしく たくましく」。2022年度の学校経営ビジョンには、「持続可能な社会を創造する児童の育成」を掲げている。
授業開始に向けて、体育館には2学年約300名の児童が集まり、100名ほどの保護者も招かれた。その理由は、後の校長のインタビューで明らかにする。
講師は古坂大魔王。司会の橘ゆりかと舞台に上がるとすぐに、「こんにちは」のコール&レスポンス。今回も自己紹介、トークセッション、質疑応答の3部構成が予定されていたが、興味津々の眼差しを向ける子どもたちと直に対話したほうが良いと判断し、急遽古坂は最初から生徒にマイクを向けた。それが功を奏する形で、生徒たちも次々に質問を発していた。「なぜお笑いをやろうと思ったんですか?」という問いかけに対し、「男女問わずモテたかったからです。では、モテる人ってどんな人だろう?」と、子どもたちにたずね返す。この質疑応答の果てに古坂は、モテるとは目立つという意味だと説いた。
古坂「どんな仕事に就いても目立つことからは避けられません。自分の考えを発言したり、仕事でプレゼンを行ったりするときには、人から注目を集めなければ伝わらないよね。それがエンタメです。エンタメは、芸人や歌手だけではなく、どんな人のそばにもあります。そこには人との出会いもあるし、時に壁となることもある。もしその壁が登れそうもないほど高い場合は、ちょっと別の方向に歩き出してもいいです。でも、行きたい場所を目指し続けることだけはやめないでほしい。今日はそれだけみんなに伝えたかった!」
古坂が用いる言葉は、決して子どもだけに向けた内容ではなく、一人の人間に向けた親身なものだった。それは生徒の後ろで話を聞いていた保護者にも響いたのではないだろうか。最後のメッセージもまた、この日の機転に即した語り口調だった。
古坂「勉強にもいろいろありますが、一番の勉強は、人の話をインプットして、よく考えてからアウトプットすること。その繰り返しが大事です」
また会えることを楽しみにしていると告げながら去る背中に、大きな拍手が贈られた。
「困難な壁でも乗り越える力を身につけてほしい」
教諭にも刺激的だったエンタテインメントの力
今回もまた、授業後に古坂と校長に話を聞いた。まず古坂には、授業を終えての感想をたずねた。
古坂「この世代の子どもたちと向き合う機会はほとんどなかったので、想像以上のパワーに圧倒されました。司会と話す横向きの顔で進めてしまうと、弱い印象を与えてしまうと思ったんです。なので、壇上に上がってから思い切って正面から向き合う漫談形式に変えました」
授業全体を通して、古坂はどんな印象を受けたのだろうか。
古坂「僕みたいな大きな人がいきなり現れて、異様な光景だったでしょうね。でも、その違和感が重要だと思います。学校以外に外の世界があることを知ってもらって、異質ながらも記憶に残る思い出になればいいと思います。何であれ心を揺さぶるのがエンタメですから」
続けて、今日の生徒たちに伝えたかったことについてこう語った。
古坂「今まで僕が芸人という仕事を続けてこられた背景には、諦めたくないという強い思いが根底にありました。成果や形が見えるまでは絶対にやめないという気持ちで、何度も壁を乗り越えてきた。授業でエンタメの中にある壁の話をしましたが、人生で起こる困難なことは卵の薄皮みたいなもので、繰り返しギュギュッと押せば破ることができる。その感覚を子どもたちに身に着けていってほしいんです。それを、大人たちが愛を持って見守る環境が必要なのだと思います」
校長の生田目将氏には、今日の授業で保護者を招いた理由から聞いてみた。
生田目「参観形式にしたのは、開かれた学校にしたいという私の理念に基づいた判断でした。かれこれ5年ほど、校長室喫茶という保護者や地域の人と校長室でコーヒーを飲みながら教育談義をする取り組みを行っているんです。その中で『avex class』をご存じの方がいて、我々の経営ビジョンである「持続可能な社会を創造する児童の育成」と合致していると考え、すぐに応募した次第です」
生徒たちはこの授業をどう感じたのだろうか。
生田目「校長としては、やってよかったというのが第一声です。特に諦めないというメッセージは、夢を大きく抱けるこの年代のキャリア形成において強く響くはずですから。10年先まで、何らかの形で継続させたいですね。重要なのは、子どもたちだけでなく、教員にも刺激的だったことです。教壇に立つことで注目されるという点では、我々教員もエンターテイナ―であると考えています。そのプロ意識を古坂さんのお話で再確認できたので、『avex class』を実施した意味は大きかったです」
今回授業を行った2校の『avex class』では、継続して努力することの大切さをはじめ、自分の得意不得意を知ることの意味や、壁を乗り越えていく強さについて語った。知名度があるタレント・アーティスト・クリエイターであっても、その背景には様々な苦労や挫折を経験している。その原体験を通じたメッセージが、生徒たちのこれからの支えとなるのではないだろうか。
『avex class』は今後も全国の教育機関を対象に、オンライン・地方での実施など場所や形式を選ばないスタイルで学校を訪れ、プログラムを行っていく。学生という無限大の可能性を秘めた子どもたちの中から、タレントやアーティストのキャリアによって醸し出された無形の豊かさに気づき、才能や夢を信じる力に共鳴する次世代が一人でも多く育つことに期待したい。