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エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー

ハイライト

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エイベックス・テクノロジーズ株式会社(以下:ATS)は、ブロックチェーンを活用してデジタルコンテンツの所有権を証明するサービス『A trust(エー トラスト)』を2019年に発表した。また、次世代型著作権流通システム『AssetBank(アセットバンク)』の試験運用を2021年4月に開始。コンテンツIP※1(以下、IP)ホルダーの著作権の保護と、デジタルコンテンツの流通を目的にNFT※2事業に本格参入している。今回は、ATSの代表取締役・岩永朝陽(以下、岩永)と、ブロックチェーンの領域及びATS事業戦略チームを束ねる山本周人(以下、山本)に、エイベックス×ブロックチェーン※3の未来と、エイベックスが担う“使命”にフォーカスして話を聞いた。

(※1)IP:“Intellectual Properties”の略で、知的財産のことを指す。エンタテインメント分野では、楽曲やアーティスト・タレント、アニメ・映像作品、ゲーム、キャラクターなどがIPと呼ばれる。

(※2)NFT:“Non Fungible Token”の略称で、日本語では“非代替トークン”と呼ばれる。ブロックチェーン技術を活用し、一般的には複製が容易とされるデジタルコンテンツの所有を証明することで商品的価値を生み出す。

(※3)ブロックチェーン:ネットワークに接続された複数のコンピューターでデータを共有し、耐改ざん性・透明性を実現する仕組みのこと。

エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー

(写真左)エイベックス・テクノロジーズ株式会社 岩永 朝陽
(写真右)同社 山本 周人

ATSが事業のヴィジョンとする3つの柱
IPを生み出す、世に広める、
権利を守る

はじめに、「『NFT』や『ブロックチェーン』について自身の言葉で説明するとしたら?」と尋ねたところ、次のような返答があった。

山本「NFT(Non-Fungible Token=代替不可能なトークン)と言われても、なかなか理解が難しい。なので『NFTとは?』と聞かれたら、『専門的な技術面については気にしなくていいです』というのが私の答えです」

この発言を聞いて、今回のインタビューにまつわる“NFT”や“ブロックチェーン”というワードを理解することへのハードルが一気に下がったとともに、エイベックスらしいスタンスで、このテクノロジーの領域に向き合っていることを感じさせた。

その上でATSのこれまでの歩みを整理するため、まずは2018年まで振り返ろう。

2018年にPCゲーム『マブラヴ』を手掛ける株式会社aNCHORがエイベックス ・ピクチャーズの傘下に入り、その代表取締役に岩永が就任。そして『マブラヴ』のゲーム・アニメ化を主に事業を進めていく中で、2019年からは“Entertainment×Tech×Global”というエイベックスの戦略テーマのもと、テクノロジーを活用したIPの創造を目指すアクションが始動した。

岩永「今もエイベックス自体がIPを創造することに重きを置いていますし、テクノロジーの進化とともにエンタメも変化し、大きくなっている。それらの点に注視して、エイベックスとしては次世代エンタメ×テクノロジーの分野を押さえなければならない。そして〈IPを生み出す〉〈IPを世に広める〉〈IPの権利を守る〉という3つの柱を事業のヴィジョンとして打ち出し、2019年の5月にATSを設立しました」

ATSはまず、〈IPを生み出す〉テクノロジーとしてVR空間で誰でも短尺アニメを制作できる『AniCast Maker』や、次世代型バーチャルフィギュアアプリ『ARSTAGE』をローンチ。また、〈IPを世に広める〉テクノロジーとして、誰でも有料の動画配信ができる『Z-aN』を2020年10月に開始した。

エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー

次世代型バーチャルフィギュアアプリ『ARSTAGE』/エイベックス・テクノロジーズ株式会社

そして今回のメインテーマとも言える〈IPの権利を守る〉テクノロジーとして、『A trust』や『AssetBank』を主に開発してきたのがATSのブロックチェーン事業部。そこでゼネラルマネージャーを務めてきたのが山本だ。山本は2019年にATSが設立された直後に入社。それまでの14年間は、上海在住でテレビ・家電分野のOEM事業、美容業や飲食業など、自らの事業をいくつも成功させてきた。

山本「今回の話を聞いて率直に面白そうだなと思えたことや、個人的にエイベックスに青春時代を支えてもらっていたことが帰国する決め手となりました」

ファン・ファーストの『A trust』
コンテンツ・ファーストの
『AssetBank』

エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー

ここからはデジタル時代におけるコンテンツの著作権と、それらを守るためにATSがブロックチェーンのテクノロジーを活用した『A trust』や『AssetBank』にフォーカスする。

まずデジタルコンテンツの問題は、簡単に不正コピーができることでそこにお金を払うシステムがないことや、コピーができるものに希少価値が存在しないと思われていたことだ。そしてブロックチェーンのテクノロジーを導入することに、岩永は2017年頃から注目していたという。その流れの先に生まれたのが、デジタルコンテンツに対して所有権を保障する証明書サービス『A trust』だ。

岩永「デジタルコンテンツに証明書を付けることができて、さらにそのデータは改ざんできない。ただしここで誤解してはいけないのが、『A trust』はコピーガードの技術ではないということ」

山本「アナログからデジタルのマーケットに移行すると、メーカーは不正コピーを防ぐためコピーコントロール機能でコピーを禁止したり、コンテンツを視聴できるプラットフォームを制限したりするようになりました。ただ、そうすることで“コピーが可能”というデジタルコンテンツそのものの良さを無くしてしまい、ユーザーにとっても購入したデジタルコンテンツを自分の好きなプラットフォームで見られない、視聴回数に制限がかかるといった不便な状況になってしまった。それに対し我々はNFTで、“コンテンツをコピーしてプラットフォームを問わず使用できるが、コンテンツそのものの価値は担保できる”という形をとっています」

岩永「『A trust』ではコンテンツホルダーが本物として決めた数量の中のひとつを自分が持っていることを証明できる。つまり、証明書によって“限られた本物以外はすべて偽物”とする新しい考え方です」

エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー

コンテンツに証明書を発行することで所有者が明確になることでそこに付加価値が生まれる。さらに、コンテンツを持っている証明を証明書という形で“見える化”することで不正コピーへの抑止効果にも繋がってくると岩永は考える。

岩永「コンテンツを守る事業をブロックチェーンでやろうとした時に、この考え方は新しいと思いました。コンテンツを持っている所有者たちが海賊版を持っている人たちと闘うよりは、デジタルコンテンツ市場そのものが正規化された方が、数%程度の不正コピーがあったとしても抑止になる。『A trust』ではまず、2019年に株式会社Gugenkaと共同でデジタル版画の数量限定販売を行い、証明書を発行した場合に消費者は本当にデジタルコンテンツを買うのかという検証を試みました。結果、販売数に対し8倍の応募をもって完売し証明書をつけることでの効果が確認できました。そしてその検証結果を踏まえ、同時進行で設計を進めたのが『AssetBank』です」

次世代型著作権流通システム『AssetBank』は、2021年4月に試験運用を開始。IPホルダーは楽曲・画像・イラスト・テキスト・3Dモデル・モーションデータなどを登録することで、デジタルコンテンツにおける権利を明確化。さらにそこから、ライセンスビジネスで新たな市場を創出できる。

山本「『 AssetBank』はコンテンツ・ファーストで、コンテンツにとって大切な“本物である”ことを第三者的に証明するための仕組みです。IPホルダーにとって今までは権利を証明できなかったデジタルコンテンツをビジネスに変えられる。例えば、これまでCD音源やDVDパッケージという括りでコンテンツを販売していましたが、今後ダンスモーション、映像の背景、ライブの衣装などより細分化していくことも可能になる。つまり、デジタルアセットという形で分割して新たな商材を見つけるための機能を備えています。一方で『A trust』はファン・ファーストで、ファンがNFTを手軽に使える仕組みです。通常、NFTの購入には仮想通貨が必要で、その仮想通貨を購入するためには証券会社への登録から本人認証、パスワードの管理など自己管理のもとで行わなければいけない。それに対し、『A trust』はIDとパスワードがあれば使用できる仕組みにしています」

コンテンツの著作権を安全に管理するシステムを形成する中で、ルール作りをエイベックス1社で行なっていくことは難しい。そうして誕生したのが、国内11社のコンテンツ企業連合で運営するブロックチェーン団体・JCBI(Japan Contents Blockchain Initiative)だ。

山本「そもそも日本では、著作権のルールが今の時代に合わない部分も出てきている。ただし、国としても二次創作の市場を大きく見ていますし、デジタル時代の著作権を変えようと動いているところでした。※4そこで我々は著作権の再定義について内閣府のタスクフォースなどでお話しさせていただき、さらにその上で『AssetBank』という次世代型著作権流通システムを、コンソーシアムとして運営していくことを提唱しています」

(※4):文化庁ホームページ「令和2年通常国会 著作権法改正について」より

「コンテンツを楽しむ・
遊ぶ“体験”を
どうつくるか」
IP創造企業としての使命

エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー

「クリエイターにとって、作ったものが転売されていくたびにお金が入るなんて夢みたいな話」と岩永が語るように、『A trust』で実現する証明機能に加え、『AssetBank』で流通させるソリューションが確立できれば、デジタルコンテンツおよびクリエイターにとって大きなイノベーションだ。ただしそこには、この取り組みが一過性のもので終わらないために注意すべき点もある。

岩永「今のNFTは株のような感覚や投機目的で買っている人が多いけれど、エンタメにおいてはデジタルで買ったものを活用する場が必要で、現時点ではそこが不足しているように感じます。例えば特定のNFTを持っている人だけが見られる配信のサイトがあったり、複数個集めたらもっと貴重な配信のコンテンツが見られたりなど、デジタルで買ったものを売買する目的や遊んだり楽しんだりできる要素がない。私たちがやりたいのは、コンテンツを楽しむ・遊ぶ“体験”をどうつくるかの部分。投機目的を否定するつもりはありませんが、遊ぶ・楽しむというエンタメ性を設計していくことに、このジャンルでの可能性があると考えています」

山本「私たちの最終的な目標は、シンプルにいうと『デジタルでもリアルと同じことができるよね』ということ。リアルと同様に遊び・楽しむことができ、時間経過や前の所有者によってはプレミアがつき、他の人への譲渡・売買も可能になる。しかし、技術的にはそれを実現できるはずのNFTに関しては、コンテンツがあってそれを楽しむ人がいるということが現時点で置き去りにされている。二次流通や投機を目的にするのではなく、本当に楽しみたいと思っている人にコンテンツを買って欲しいんですよね。確かにNFTが盛り上がっている今のこのタイミングを狙ってはいたのですが、それ以上に『ブロックチェーン事業者によるNFTと、コンテンツ事業者によるNFTはコンテンツへの考え方が違う』というメッセージを発信するために、4月のタイミングでプレスリリースを出しました」

ATSとして伝えたい根本的なメッセージは、デジタルとリアル、どちらにおいても「コンテンツはファンありき」で遊ぶ・楽しむという価値を重んじるというシンプルなこと。そして一連の施策の裏には、業界に対して「その本質を失うべきではない」というメッセージが隠されている。

岩永「ルールは今後必ず変わりますし、法律が変わることで何らかの規制は入る可能性もあるので、それらを会社としてどう受け止めて、どう一手を打つか。それを予測しながらビジネスをどう作っていくか考えていますね。気にすることは多いですが、自分たちがこれまでつくってきたビジネス、大事にしたいファンに適した形を作っていきたい。ATSはエイベックス外部から入社している人材も多いため、俯瞰的に今の状況を見られていると思います」

山本「加えて、そのルールが変わるときに我々が変える側に参加できるかというのが、ATSとしてブロックチェーン事業をスタートした時のひとつの目標としてありました。与えられたルールをただ守るのではなく、我々が一緒により良いルールをつくっていけるか。『AssetBank』をJCBIで出しているのも、経産省/内閣府などのタスクフォースに参加していることも、すべては我々がルール作りに参加するため。事実、現状ではルールメーカーの中で我々だけが唯一、ルールを作る側に立つために声を上げているコンテンツホルダーです」

エイベックスはこれまで30年以上にわたり、IP創造企業として発展してきたが、デジタル時代のクリエイターは不正コピーをはじめ多くの課題や問題を抱えている。それらを守るためのプロダクトやシステムを構築し、著作権を取り巻く法に対しても問題提起をして、新たな市場を創出することはエイベックスにとって“使命”。大事なのは、コンテンツをテクノロジーに寄せるのではなく、テクノロジーをコンテンツに寄せること。「これまでのエイベックスの歩みを踏まえても、我々がテクノロジーでエイベックスが築いてきたIP創造企業としての歴史を潰してはいけない」(岩永)──その強い覚悟で、ATSは未知の領域へと着実に歩を進めている。

エイベックス×ブロック チェーンコンテンツの権利を守るための次世代テクノロジー

(写真左)
エイベックス・テクノロジーズ株式会社
代表取締役社長
岩永 朝陽

(写真右)
エイベックス・テクノロジーズ株式会社
BlockChain/UGC事業グループ
ゼネラルマネージャー
事業戦略室
室長
山本 周人

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関連リンク

エイベックス・テクノロジーズ株式会社
AssetBank
A trust
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