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インディーズアーティストにエイベックス・ノウハウを提供 音楽配信代行サービス『BIG UP!』の5年間 インディーズアーティストにエイベックス・ノウハウを提供 音楽配信代行サービス『BIG UP!』の5年間

ハイライト

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エイベックスが手掛ける有料音楽配信代行サービス『BIG UP!』が5周年を迎えた。このサービスはエイベックス・グループの強みを活かし、音楽出版、CD/グッズ製造、販売、音楽制作のサポートをカバーできる音楽配信代行として知られている。そのチーフ・プロデューサーを務めるのが、レーベル事業本部 企画開発グループBIG UP!ユニットの内田正俊だ。

インディーズアーティストにエイベックス・ノウハウを提供 音楽配信代行サービス『BIG UP!』の5年間

20万曲のアーカイヴが
サービスの早期開始を実現
「よりアーティストに
利益を還元できるシステムを」

インディーズアーティストにエイベックス・ノウハウを提供 音楽配信代行サービス『BIG UP!』の5年間

『BIG UP!』のはじまりは2016年。国内では前年に定額音楽ストリーミングサービス元年を迎えたばかりで、音楽レーベル発のサービスとしては非常に早いサービス開始となった。このスピードが実現できたのは、過去にエイベックス・デジタルが提供していた音楽配信サービス「muzie(ミュージー)」が大きく関係している。エイベックス・グループの強みを生かし、「muzie」に登録された20万曲のアーカイヴを活用したことで、早期の開始が実現した。

内田は立ち上げメンバーではなかったものの、このプロジェクトがローンチに向けて社内で進められていく中で興味を持ち、自らこのサービスにかかわるようになっていった。

「当時私は制作の部長をしていましたが、サービスが立ち上がった際に自分から『このプロジェクトにかかわらせてほしい』と伝えました。その時点では兼務が認められなかったため、本格的に働くことにはなりませんでしたが、『手伝う程度ならいい』ということで、サービスがローンチした時には、リハーサルスタジオやライヴハウスにチラシを配りに行ったりしていました」

制作部長という管理職でありながら、新しい分野に飛び込んでいく。当時内田を動かしたのは、アーティストにより多くの利益を還元するためのシステムに対する想いだった。

「日々の仕事の中で、よりアーティストに利益を還元できるシステムを構築できないかと考えていました。従来のシステムだと、レコード会社の一定の基準でアーティストや事務所に契約金を支払いますが、近年定額ストリーミングサービスなどが根付く中、制作及びプロモーションの方法は多様化しています。そこで、海外のようにまずはアーティストに多く還元して、マネージャーが必要ならその資金からアーティスト自身で支払ってもらう、という選択肢もつくれないか、と考えたのです。僕らの産業はアーティストがいないと成り立ちません。『その人たちに、より還元できるシステムをつくりたい』という思いが強くなっていたんです」

実際に『BIG UP!』は、同業他社の中でもアーティスト還元率の高いサービスを実現している。

『BIG UP!』をエイベックスによる
360°サポートへの導線に
5年間で見えた潜在ユーザーと
音楽知識への課題感

インディーズアーティストにエイベックス・ノウハウを提供 音楽配信代行サービス『BIG UP!』の5年間

『BIG UP!』の強みは、メジャーレーベルのノウハウを持った音楽配信代行サービスであることに加えて、音楽配信にとどまらない様々なサービスとの一体化を図れることにある。

「エイベックスは、レコードメーカーとしていち早く360°展開のビジネスを、事業間の連携も良い形で展開してきました。チケットプレイガイドサービスともかなり初期から連携してきましたし、エイベックス・アーティストアカデミーのような育成機関を古くから運営してきた会社でもあります。最初は音楽配信代行という形で利用してもらい、最終的には、グッズをつくったり、ファンクラブをつくったりと、360°様々な形で音楽活動をサポートできたらと思っています。たくさんのアーティスト、クリエイターに登録してもらうことで、グループ内で新たなデジタルサービスが⽴ち上がった際、ユーザーに導線を繫ぐこともできます。そういう意味では、『BIG UP!』がエイベックスのグループ・ビジネスの⼊⼝にもなれると思っています」

一方で、5年間運営を続けていく中で、当初は想定していなかったニーズに気づくこともあったという。そのひとつが、「音楽制作を趣味として楽しみたい」という潜在ユーザーの数だ。

「2018年1月に『フリープラン』という、年間の固定配信利⽤料がかからない代わりに売上⼿数料が30%かかるプランを常設プランとして開始しました。当初は決済用のカードを所有していない⾼校⽣や専⾨学校⽣の利用を想定していましたが、今では配信登録曲数の8割がこのプランの利用者です。これによって、潜在的な⾳楽制作者や、⾳楽は作っているがそこまで⾃信がない⽅々の『配信してみてもいいかな』というニーズに答えられたと思います」

ユーザーには「⾳楽を⾃⼰の認知欲求として発表したい」という⽅が⼤勢いることも実感したという内田。新たな課題は、こうした8割のユーザーの知識を底上げしていくことだという。

「⽇本の中学校までの⾳楽教育は先進国の中でもトップレベルにあり、⽇本の楽器メーカーの売上は世界⼀であるにも関わらず、⽇本⼈の作った⾳楽は⾔語の問題もあり、世界でその地位を築けてはいません。『BIG UP!』の事業を通じて⾳楽⽂化の底上げができたら嬉しいですし、その過程にもビジネスの機会はあると感じています」

“残り99%のアーティスト”と
関係性を築く
『BIG UP!』のミッション

インディーズアーティストにエイベックス・ノウハウを提供 音楽配信代行サービス『BIG UP!』の5年間

5周年を迎えた『BIG UP!』はサービスとしてさらなる成長を遂げている。

「実際に、『BIG UP!』を通じて音楽配信を始めたアーティストで、後に人気アーティストが所属する事務所に入った方も出てきています。また、現在もアーティストが露出するためのメディア枠を用意したり、配信サービスのプレイリストに入れてもらうためにプレゼンしたり、外部と連携したオーディションを開催したりと様々な試みを行なっています。また、楽曲単位でファンや投資家から出資を募れるファンド『MUSIC UP!』もはじめました。クラウドファンディングの場合リターンを返すのが大変な場合もあるのですが、『音楽の配信売上を分配することで事前に支援をもらえた方がいいのではないか?』と考えたのが、このサービスを作ったきっかけです。ファンの方からしても、自分が支援した楽曲を聴くことで、その利益が自分にも還元されていくので、サポートしても損はないはずです」

『BIG UP!』では、アーティストがメジャー・レーベルと契約するまでのサポートや、インディペンデントながら高い人気を誇るアーティストとの協力も増えている。KAMITSUBAKI STUDIOの所属アーティスト、マカロニえんぴつや東京を中心に活動中の 4ピースバンド・あたらよなどが代表例だ。一方で、前述のように、「音楽を趣味で楽しむ人々にも開かれたサービス」であることも大切だ。誰もが気軽に自分の音楽を発表できる環境をつくること。これはレーベルの機能を「スターを世に送り出す」ことの外側にも広げて、音楽文化を広くサポートすることにも繋がっていく。

「レーベル業務が『限られたアーティストの制作物、プロモーション、ユーザーとのコミュニケーションの質を⾼めて単体の数字を上げていく仕事(=縦の⽷)』だとしたら、デジタルのアグリゲーター業務はどちらかといえば、『量を広げて全体の数字を上げていく仕事(=横の⽷)』です。この縦と横の⽷があることで、グループとしてもより強くなっていくはずだと考えています。2020年の北米の定額ストリーミングサービスでは、全体の上位1%のアーティストが9割の売上を上げるというビジネス構造になっていること考えると、日本もいずれそういった構造になることが予想される。そんな中、レコード会社として、当然1%に⼊るアーティストを育てることは最重要課題です。ただ、そうではない99%のアーティストとどういった関係性を築いていくかということも、グループ全体においては非常に大切だと思っています」

実際、『BIG UP!』の運営を続けていく中で、内田は音楽を趣味として楽しむ人々や、インディーズアーティストならではの魅力を知ることになったそうだ。

「まずひとつは、『僕らの発想からは出てこないな』と思うような表現に出会えることです。作品によっては知識や経験を積んだ人では逆に手が出せないような、僕らが無意識に死角にしてしまっていた部分が表現されていて、『こういう方法もあるのか!』と驚かされます。また、ユーザーの年齢層が幅広く、時には年配の方がアカペラで歌った音源を配信してくれたこともありました。そういった姿を見ると、本当に色々な方が音楽を楽しんでいるな、と実感します。『どう自分の人生に音楽を取り入れていくか』というのは、人それぞれですから」

これからに向けてのサービスの展望については、どんなことを考えているのだろうか。

「まずは、8割を占めるフリープランの方々の知識やノウハウ、音楽を楽しむきっかけをどうサポートしていくのかをより考えていきたいと思います。また、僕らは作家さんとの繋がりもあるので、その方に曲の作り方についてのコラムを書いてもらったり、アカデミーの授業の一部を映像化して公開したりと、音楽制作やマーケティングに関する様々な知識を共有することを始めていきたいと思います。そうすることで、競合サービスとの差別化を図っていきたい。様々な方に音楽を楽しんでもらう場所が提供できて、再生数が回れば、ビジネスとしての売上にも繋がります。その結果、人によって異なる様々な音楽との付き合い方をサポートしていくのが理想です」

エイベックス・グループが持つ様々な知見との協業も見据えながら、メジャー・レーベルが運営する音楽配信代行サービスならではの価値を提供する『BIG UP!』は、人によって異なる「音楽の楽しみ方」のグラデーションを、より豊かにするサービスと言えるかもしれない。

インディーズアーティストにエイベックス・ノウハウを提供 音楽配信代行サービス『BIG UP!』の5年間

エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部
企画開発グループ
ゼネラルプロデューサー
第2クリエイティヴグループ
ゼネラルプロデューサー

内田 正俊

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