5/22(火)にグループ史上最大キャパとなる、12,000人を動員した横浜アリーナでのワンマンライヴBiSH“TO THE END”を成功させたBiSH。今回は同ライヴのレポートに、開催1週間前に実施したWACK代表の渡辺淳之介、エイベックス・エンタテインメント株式会社 赤窄 諒、メンバーのインタビューを交えたBiSHチームにとっての横浜アリーナ公演の検証を前編として届ける。なお、後編では、ガールズグループの定石を打ち破り、快進撃を続けるBiSHの成長戦略や横浜アリーナ公演後のビジョンから、今後の可能性を探る。
12,000人の清掃員(ファン)が集合。
課題をクリアし突き進む
チケットを獲得してから数ヶ月、待ちわびていたファンは「IDOL Tシャツ」の着用率が高く、主に10〜20代のファンが多く目につく。ロックフェスで見られるようなファン同士の交流も見られ、開演前の横浜アリーナはロックバンドのそれに近い印象だった。アリーナからスタンド最上階まで12,000人で埋め尽くされた会場が暗転すると、ハリウッドのアクション映画的なメンバー紹介映像がスクリーンに映し出され、ファンは男女ともにメンバーの名前をコールする。「清掃員、準備はいいか!」(※清掃員=BiSHファンの呼称)というアナウンスに続き、メンバーが登場。オープニング曲の「BiSH-星が瞬く夜に-」から一気にアッパーチューンを連投。
「スタートダッシュ。最初から全力で行くことが課題かなと思ってます」(ハシヤスメ・アツコ)という課題は完全にクリアされていた。
また、ライヴ初披露となった6/27(水)リリースの両A面シングル「Life is beautiful / Hide the BLUE」からの「HiDE the BLUE」の爽やかな曲調も振り付けと共に会場全体にアピール。一方の「Life is beautiful」もミディアム・テンポで言わばJ-ポップのど真ん中をBiSHが射抜けるか? がかかった新たなチャレンジだが、アユニ・Dのラップ調パート等、6人の歌い分けも見応えがあるものに。
「『Life is beautiful』は、MVの構成表をいただいて、ストーリーがそこに載っていたので、それに沿わせて振り付けを初めて作ったんです。MVを見て『Life is beautiful』いいなと思った人が、ライヴを見ても『あ、なんかリンクしてる』と思ってもらえたら。新しいライヴの楽しみ方だなと私は思ってるので、早く見て欲しい。アユニが結構踊ってるんですけど、すごく上手くなってるので、アユニを見て欲しいなと思います」(アイナ・ジ・エンド)との抱負も消化していたのではないだろうか。
そのアユニ・Dは、ミディアムテンポの柔らかなナンバーはもちろん、「GiANT KiLLERS」「MONSTERS」「OTNK」等ハードなロックチューンが続くブロックでも、切れ味鋭いダンスを見せた。あまり感情を表に出さず大人しそうな彼女が振り切れる場面がスクリーンに映し出されるごとにテンションが上がる。
「もっと感情が見えるように踊れるようになりたいです」(アユニ・D)という目標以上の何かを達成しているように感じられた。
BiSHが魅せる、パフォーマーとしての真っ向勝負
「生きててよかったというのなら」や「プロミスザスター」といった、メッセージと楽曲の良さが伝わるブロック。“清掃員”にこれからなって行くであろう初見のオーディエンスも感動の渦に巻き込まれて行くのが手に取るようにわかった中盤から後半。
「まだ清掃員になりかけというかBiSHの名前だけ知ってるぐらいの人たちも結構いっぱい来てくれる気がしてて。そういう人たちも横アリからもっとBiSHを調べてみようと思ってくれたり、本物の清掃員になってくれたらいいなと思います」(モモコグミカンパニー)。キャパシティが大きくなるにつれ、増えていく初見のオーディエンスに対しても、これまでBiSHが積み上げてきたものをさらに磨き、パフォーマーとしての熱量をあげる方向で真っ向勝負した今回のライヴ。
本編21曲をほぼノンストップで歌い、踊り、時にステージ左右に伸びた花道まで走るという、生身で勝負するステージになることはメンバー自身、強く意識していたことがセントチヒロ・チッチの発言からもわかってもらえるだろう。
「そこにいる全員に生き様を見せられる日にしたい、そういうライヴができたらいいと思います。BiSHは楽器持ってないじゃないですか。楽器持ってないからこそステージで精一杯踊って歌うことしか、他のバンドさんに比べたら武器はないと思うんですけど、アイドルとかバンドとか、ポップスでもいろんなジャンルを飛び越えて戦っていける人って今、全然いないと思うので、BiSHがそういう存在になりたいと思ってるんですよ。だからどんな場所でも、自分たちのありのままでぶつかって戦って行きたいと思ってます」(セントチヒロ・チッチ)
メンバーの中で唯一金髪ヘアー、パンクでエッジーなビジュアルにチェンジしたリンリンはライヴのMC通り、事前にも「横アリは自分の好きなアイドルが卒業したり、大事な日に使ってる場所だったんですけど、私たちはツアーファイナルをやることができるんで、通過点として通れるのはすごいなと思います」(リンリン)と、すでにその先を見据えた発言をしていた。
BiS解散の地で開催。
“TO THE END”の位置付けとは
一方、ブレーンである渡辺や赤窄のビジョンはどんなものだったのだろう。
赤窄にとって、横浜アリーナは旧BiS解散の場であり、渡辺の仕事のすごさを体感した場所だったという。
「その時、渡辺さんともう一回やりたいなって思ったのは確かで。『機会があればまた一緒に仕事したいです』って送ったメールを覚えてくれていて、声かけてもらって。で、BiSHが始まって。なので、武道館が感慨深いとか、アーティストはよく言うじゃないですか? 僕はそういうのって一個もなくて。ですが、横浜アリーナだけはそういう気持ちがあって、BiSでも埋まらなかったものをBiSHで渡辺さんとやり直して、すぐソールドアウトできて。そのライヴを見られるのは楽しみです」と、“BiSHの横アリ”の意義を語っていた。
また、渡辺はBiSHがアーティストとして、もはやキワモノではなく、真剣なパフォーマンスや共感を呼ぶ歌詞と完成度の高い音楽性が評価されている中で、今回の横浜アリーナのあり方をどう位置付けたのだろうか。
「そんなに真新しいものはないかなと思うんですけど、それ以上にメンバーたちの成長をずっと見てきている人には感じて欲しいし、初めてくる人にも『やっぱBiSHってすげえんだな』って思ってもらえるようなものを考えてます。ステージというところで言えば、至極真っ当なことしか考えてないという気持ちではありますね。だから、これ以降は精神論になっていくのかなと思いますね。どれだけ自分たちの思いを後ろの人に伝えていくかっていうか、一番最後尾の人に『こう思ってるんだよね』っていうのを伝えるのは精神論みたいな話なのかなって気はしてるんですよね」(渡辺)
人生を変えたい、自分の弱さやコンプレックスと戦い、その生き様をさらけ出す表現スタイル。そしてメンバー自らの振り付けや、個性にあった振り付けや歌詞のメッセージ。友達同士でも監視し合うような息苦しい世界に生きている今の10代や、その心情を察することができるファン=清掃員にとって、女の子同士が共闘するようなBiSHのステージは、想像以上に響く対象が多いということが今回の横浜アリーナライヴで証明された。もちろん、もっとカジュアルに楽しんでいるリスナーもいるだろうが、渡辺が言うように「今後、精神論になっていくのかなと思う」という予想は、時代と共振した現象に発展していくポテンシャルも感じる。
「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチフレーズが、当初の予想を超えて意味を深め始めている。後編ではライヴ後のコメントや、BiSHの宣伝戦略等を振り返る。