マネージャーは考え方次第で
何でもできるプロデューサー
マネージャーの仕事を始める前は、テレビ局やラジオ局等を回るような音楽の宣伝をやっていた。マネジメントの仕事を始めたのは2011年。最初の頃はmisonoや丸高愛実等を担当していて、川栄李奈を担当するようになったのは2015年の8月から。マネジメントは基本的に女性タレントが多かった。
宣伝をやっていたのでマネージャーは近い存在だった。そのため、マネージャーはキツそうなイメージがあり、正直やりたくなかったのが本音。実際にマネージャーの仕事を始めてみて、やはり、タレントの時間に合わせて動くので、最初は自分の時間はなかなか作れなかった。
ただそれよりも大変だったのは、タレントとの向き合い方。人だから相性もあるし、みんながみんな仲良くできるわけではない。うまくいかなかった後でも、嫌でも毎日会うことになるので、そこは最初に苦労したところだった。
そういう意味では、自分を持ち過ぎていてもやっていけない仕事なのかなと。結局のところ人(=タレントの個性)が商品で、その人(個性)を人気者にしていくのがマネージャーという仕事なので、そこに性格が合う合わないとか僕の意志があってはいけない。
マネージャーはスケジュール管理が主な仕事だと思われがちだけど、それだけなら正直誰でもできると思う。マネージャーの仕事はシンプルで、仕事を取ってきて担当するタレントの価値を上げて人気者にしていくということ。
今では「マネージャーって最強だな」と思っている。例えば音楽の仕事をしたいけどマネージャーになった若い子がいたとしたら、自分の担当しているタレントが売れればCDだって出せるし、雑誌とか本を作りたかったとしてもそれは同じこと。マネージャーは何でもやらなければいけないけど、その分、何でもやっていいし、何でもできる。
マネージャー=大変って一般的には考えられがちだけど、どんな仕事でも大変なのは変わらない。そんな中で他では得られることが決してできない、マネージャーならではの楽しさがあるよっていうのは知ってもらいたい。マネージャーはやりようによっては、組み立て役というか、プロデューサーでもあると思う。
大切なのはコンセプトを立てて、
粘り強く伝えていくこと
マネージャーの仕事を始めた頃で言うと、例えば丸高愛実はエイベックス初のグラビアタレントというテーマでスタートしたけど、最初は本当に仕事がなかった。仕事が忙しくて休みがないのも大変だけど、それ以上に本人に仕事がなくて日々過ごすことは本当につらかったし、大変だった。それでも僕にとってすごくラッキーだったのは、丸高がいい奴だったということ。
そこから“見た目はギャルだけどすごくいい奴”みたいなギャップを世の中に伝えられたら刺さるのかなと考えた。その時に運良く出演が決まったのがテレビ朝日『ロンドンハーツ』。そこで、落としたコンタクトレンズを探すみたいな企画があった時に、僕が思っていたことと世の中が思っていることが一致したような気がした。丸高の人気が出てきたのはその時から。
そこから学んだのは、しっかりコンセプトを立てて、その人の魅力をコツコツと粘り強く営業して、伝えていくことの大切さ。粘り強く伝えていけば、必ず誰かがそのタレントを使ってくれるし、その良さが視聴者の方々に伝わる。それは社外の人に向けてだけでなく、社内のスタッフへもしかり。ロンハーへの出演が決まったのもいろんなスタッフが動いてくれたおかげだ。地道な営業活動からの出演機会の獲得と、放送後の自分の考えたコンセプトと世間の反応が一致していた状況は嬉しかったし、面白かった。
逆に言うと、丸高はスタイルもずば抜けて良かったわけでもないし、正直なところ当時はいい奴っていうコンセプトしかなかった。それでもそのコンセプトでどんな仕事でもやらせて頂き、現場でいろんな人に会わせたりしたことで、丸高愛実というタレントの強みを知ってもらえたのは大きかったと思う。
マネージャーとして初めての人を担当する時に気をつけるのは、マネージャーの前にひとりの人として見られるということ。嘘をつかない、隠しごとをしないといった当たり前のことも含めて、小手先でやらないことが本当に大事かなと。そこの導入を間違えると疑いの目で見られるようになって、ゼロではなくマイナスからのスタートになってしまう。面白いことにタレントって選ばれて出て来ている人たちなので、人を見抜く目がずば抜けていることにも気づいた。
ごまをするのではなく、
仕事を取ることで信頼関係を結ぶ
川栄は最初、どんな子なのか本当にわからなかった。川栄の担当になり始めた当時は世の中のイメージとは相反して人に対して心を閉ざすタイプの子で、知らない大人、つまり僕に対しては、なかなか心を開かなかった。知らないうちに気づいたら不信感が募って……みたいなのが怖かったので、そこはすごく気をつけていた。
そこで意識したのは、シンプルにマネージャーという仕事をしっかりやっていくっていうこと。プライベートの話もほとんどしなかったし、向こうもしなかった。余計な“ごますり感”のようなものを出すのは止めて、ちゃんと仕事を進めていくというシンプルな事実によって、彼女に安心感を与えることがまず必要だと思った。
川栄とは移動の時とかも含め、周りがびっくりするぐらい一年ぐらいほとんど余計な話はしてなかったと思う。ただ淡々と、確実に仕事を進めていった。でも結果的に、そのやり方でよかったなと思う。仕事が少しずつ回ってきて、川栄がある時から変わってきたのを見て、少しは自分のことを信頼してくれたのかなと感じた。
僕は現場とかで必要以上にタレントの側にいないようにすることをあえて心掛けている。マネージャーが側にいると話しづらいだろうし、他のタレントさんやスタッフさんとコミュニケーションを取ってもらいたいからだ。そうすると気づいた時には共演者の方はもちろん、カメラマンさんや音声さんといった技術さんとかと仲良くなっていたりして、そういうのがいい。「うちの◯◯です」みたいにマネージャーが変に守り過ぎるのは僕はあまり好きではなく、ある意味現場では放置するような“隙”は必要かなと思う。
あと何よりマネージャーにとって大事なのは感謝と低姿勢、それしかない。こうやって自分の担当タレントが仕事できるのも、そういうフィールドを与えてくれた会社や、チャンスを作ってくれた社外・社内のスタッフさん、色々と支えて下さる共演者の方や、現場の技術さんの何よりもおかげなので、感謝を絶対忘れちゃいけない。その感謝の気持ちを持っていれば、必然的に低姿勢にならざるを得ない。これは正直“当たり前”の事だったりしていて、今の川栄の好状況はこの“当たり前”のマインドが本人と自然と一致していて、お互い仕事に取り組めているからなのかなと思う。
エイベックス・マネジメント株式会社
芸能マネジメントグループ
女優ユニット
チーフプロデューサー 佐々木 重徳
Photo by 大石隼土