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ハイライト

ONOFF

3月6日、ソニーシティ大崎のコワーキングスペース・BRIDGE TERMINALにて、「ライヴ体験にテクノロジーで革命を。」と題した学生限定のアイデアソンが開催された。アイデアソンとは“アイデア”と“マラソンを組み合わせた造語であり、共通のテーマに合わせて集まった人々がその場でグループを結成してディスカッションし、生まれたアイデアをプレゼンテーションして競うイベントのこと。このイベントを開催する目的とは、また未来のエンタメ界を担う感度の高い若者たちからはどんなアイデアが生まれたのか?

アイデアをビジネス化するラボ

このイベントを主催するソニーの新規事業創出プログラム”Seed Acceleration Program”とは、ソニーが既存の事業領域外の新しい事業アイデアを集め育成することを目的に、2014年4月にスタートしたプログラム。これまで社内オーディション等を通じ、ハイブリッド型スマートウォッチ「wena wrist」や、パーソナルアロマディフューザー「AROMASTIC」などを事業化へと結び付けてきた。

wena wrist

ハイブリッド型スマートウォッチ「wena wrist」

AROMASTIC

パーソナルアロマディフューザー「AROMASTIC」

今回のアイデアソンのテーマは「ライヴ体験にテクノロジーで革命を。」。今や音楽の価値は“所有”から“体験”に変わりつつあり、それはエイベックスが手掛ける日本最大級のEDMイベントULTRA JAPANや、花火と3Dサウンドを融合させたSTAR ISLANDなどが実証している。そしてそのイベントの多くは、テクノロジーの存在抜きには語ることはできない。

未来のライヴ体験において鍵になる「エンタテインメントとテクノロジーの融合」に関して、エイベックスとソニーは互いに注目している存在であること。またどちらも若者たちの斬新なアイデア、言い換えると“突拍子も無いが、ブラッシュアップすれば事業になり得るアイデア”を求めていること。それらがタッグを組む理由として挙げられるのではないだろうか。

アイデアソン当日は、まず今回の主催であるソニーから、ライヴ映像をその場ですぐに持ち帰ることができるアプリ「PROJECT REVIEWN」を立ち上げた青木泰憲氏がその事業を紹介した。さらに、エイベックスとソニーの代表者がそれぞれのライヴ体験にまつわる事業を学生たちに紹介した上で、それらを拡大・発展できるようなアイデアをデジタル・ネイティブと呼ばれるテクノロジー世代から引き出すようなやり方で進められた。

テーマや時間といった“制約”の中から、
新たなアイデアを創出

最初にインプットの時間として、ソニーからは観客の動きとシンクロする赤外LED放出ガジェット「SyncRing」などを生み出した水落大氏、エイベックスからはa-nationやZUSHI FESなど数々の大型フェスやライヴ制作を担当する岩下真也が登壇。アイデアをビジネスに昇華する過程における、それぞれのこだわりや苦労した点などを学生たちに話した。

その後にスタートしたアイデアソンだが、今回は集まった学生たちを10個のテーブルへランダムに座らせ、そこへさらにソニーの社員を1名同席させる形を採った。さらにアイデアソンのスタート前には、参加者が「最近気になっているモノ・コト」を絵で描いて、それとセットに自己紹介をさせることでよりコミュニケーションが取りやすい環境を作ったり、主催者側からはピザとアルコールが振る舞われたりと、柔軟なアイデアを生み出すための工夫が見られた。

そしてアイデアソンはまず、個人ワークとして、水落氏と岩下氏のインプットのトークで出てきたキーワードを一人ひとりがポストイットにメモをするところからスタート。その後、グループ内でそのメモを活用し、書かれたキーワードをランダムに組み合わせて新たなアイデアを作り、チーム内でディスカッションするようなかたちで進行していった。ランダムに組み合わせる――それは無理矢理考えてみるというアイデアの訓練であり、同時にアイデアをビジネスにするにあたっては何かしらの“制約”は避けられないということを示唆していたように思う。

各テーブルではVRやドローンといった今話題のテクノロジーを使ったアイデアがいくつか出るものの、最終的に「このアイデアの何がスペシャルなのか?」「何のためにこのテクノロジーを活用するのか?」といった部分にまでディスカッションが進むと、話は一筋縄ではいかなくなってくる。その中で、エイベックス社員が各テーブルを回りながら学生たちのアイデアをチェックし、煮詰まっているようであればさまざまな例を挙げながらアドバイスをしていた。

1時間15分のアイデアソンは和やかな雰囲気ながら、時間ギリギリまで学生たちは真剣な眼差しでアイデアを出し合い、中には「もう少し話せたら……」という表情の学生もいた。ただし決められた時間内でという“制約”も、アイデアを生む力を育てる重要なポイントだ。

テクノロジーはあくまで体験を拡張する
“手段”でしかない

アイデアソン発表では、それぞれのグループがステージに立ち、代表者がアイデアの概要や特徴をプレゼンした。観客のドレスコードを白に統一し、プロジェクションマッピングを映し出すライヴ演出や、衣装チェンジやマルチアングルズームを兼ね備えたアイウェアなど、グループの個性が出るアイデアがさまざま生まれたが、全体的にアイデアの特徴として「ライヴをより盛り上げるためのもの」と「盛り上がったら特典があるもの」のどちらかに分かれていた印象だ。

またキーとなったのは、一定の割合の人の楽しみ方を拡張することによって、いまあるビジネスを破壊しかねないアイデアもあるということ。例えばドーム会場などでどの座席からでもミュージシャンを間近に見ることができるアイウェアを導入した場合、ライヴで大きな割合を占めるチケットビジネスに関しては成立しなくなる可能性がある。そこを天秤にかけてもメリットのあるものでなければ、ライヴ体験を未来に繋げるアイデアとしてはまだ不十分ということだ。

最終的に参加した学生たちの投票でベスト・アイデアに選ばれたのは、スマホの操作によって、アイドルのライヴでは “推し”の子の声や心拍数、息づかいなどを、バンドのライヴでは好みや勉強したい楽器を選んで聴くことができるアプリ。これに関しては音声でライヴの楽しみ方を拡張してくれるという点で、やり方によっては先ほど述べたチケットビジネスと共存できる可能性を持つアイデアと言えるかもしれない。あと彼らがベスト・アイデアに選ばれた要因のひとつとして、プレゼンの上手さ。それもアイデアを通すための有効な方法として挙げておきたい。

アイデアソンの結果を見て感じたことは、スタートする前のインプットの時間が大きなヒントになっていたということ。ソニーの水落氏とエイベックスの岩下氏はそれぞれの関わるプロジェクトに関して話したが、その裏に前者は“テクノロジーの意義”、後者は“エンタテインメントの大義”とは何か、という問いを忍ばせていたように思う。

今回のアイデアソンでは「ライヴ体験にテクノロジーで革命を。」というテーマが掲げられたことで、参加者は「VRを使ったら面白い?」「ドローンを飛ばしたら新しい!」など、どうしてもテクノロジーありきのアイデアに陥りがちになった。ただし、テクノロジーは体験を拡張してくれるものだが、それはあくまで手段でしかないということが重要であり、その核心を踏まえた先にエンタテインメントとテクノロジーの良好な関係が存在するのではないだろうか。

アイデアソン終了後、参加者たちは学生同士、もしくはエイベックスやソニーの社員とアイデアの余韻を楽しんでいた。今回発表されたものが数年後に実現し、新たなライヴ体験を生み出しているかもしれない。参加した皆が心地よい刺激を受け、アイデアソンは幕を閉じた。

photo by 大石隼土

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