エイベックス・マネジメント株式会社(以下、AMG)が主催する全国高校ダンス部の日本一を決める大会『DANCE CLUB CHAMPIONSHIP』(全国高等学校ダンス部選手権/以下、DCC)が、8月24日に有明の東京ガーデンシアターで開催された。高校ダンスの頂点を決める大会として2013年にスタートしたDCCは今年で10回目を迎え、エントリー数も回を重ねるごとに拡大。また、「漢字2文字のテーマをいかにダンスで表現するか」という独自の審査基準に挑戦する高校生のパフォーマンスが注目を集めている。
今回は第3回のDCCからプロデューサーを務める八幡裕也と、彼が次世代の才能を発掘・育成するIP発掘育成本部アカデミー事業部への配属を推薦した宗香亜と飛田彩華に、DCCの独自性やここまでの変化の軌跡、業界にもたらす価値や今後の展望などを語ってもらった。
若い感性によるチームづくりと
エイベックス内での“横展開”
DCCは2013年に初開催され、10回目のアニバーサリーイヤーとなった今年は、エントリー総数が192チーム。その中から予選を通過した33チームに、シード(昨年のトップ3)を加えた計36チームが8月24日の決勝大会に進出した。
高校ダンス界の最重要イベントに成長したDCCのプロデューサーが、AMGのIP発掘育成本部アカデミー事業部で、マーケティング戦略ユニットリーダーの八幡裕也だ。
八幡「DCCを担当して最初の1年目は、自分がダンス経験者でダンサーとの繋がりがあったので、プロデューサーではなくゲストブッキング担当でした。2年目には前任のプロデューサーから事業全体を引き継ぎ、そこから今に至るまでプロデューサーを務めています」
八幡はAMGの経営戦略企画室やコーポレートの経営戦略室にも所属し、「コーポレート目線も取り入れながらDCCに携わっています」と語る。そして八幡と共に現在のDCCの運営に携わっているのが、宗と飛田というフレッシュな世代の二人だ。
宗「私は八幡さんと同じIP発掘育成本部アカデミー事業部の、東日本ユニットに所属しています。その中で、エイベックスが全国のスポーツクラブなどにライセンスビジネスを展開している、ダンスマスターというスクールの営業も担当しています」
飛田「私も同じくIP発掘育成本部アカデミー事業部の東日本ユニットで、ダンスマスターの全国展開や既存店舗の管理などをしています。それと兼務で、マーケティング戦略ユニットにも所属し、そこでDCCに携わらせていただいています」
宗も飛田も、八幡が自らキャスティングして運営チームに登用した人材。
宗「私は今年で入社4年目になるのですが、入社1年目の、2ヵ月後がDCCの本番だったんです。なので、1年目は当日スタッフとして参加させていただき、運営チームの一員としてDCCに携わりました」
飛田「私は去年、エイベックス・アーティストアカデミーのエンタテインメントビジネスコースに通っていたので、そのインターン生としてDCCに初めてスタッフとして参加しました。そこから去年の12月にエイベックスに入社し、10回大会から正式に運営チームの一員として携わっています」
ふたりを自らのチームに入れた八幡には明確な意図があった。それは、DCC参加者に近い感性。
八幡「高校生の気持ちが分かるスタッフを運営チームに入れていかないと、感性のかけ離れたスタッフの自己満足的なコンテンツになってしまいます。そのためにもふたりの感性を大切にし、その意見を尊重するチームづくりというのを意識していますね」
加えて八幡は、さまざまな強みを持った部署やチームが数多く存在するエイベックスならではの、個人の成長と事業の“横展開”にも期待している。
八幡「エイベックスはさまざまなダンスイベントを行っているのですが、AEI(エイベックス・エンタテインメント)など協業できるチームが社内に多数あるので、新人がDCCプロジェクトに入ってメディア担当やアライアンス担当とコミュニケーションを取ることが本人の大きな成長に繋がります。あと彼女たちは兼任でダンスマスターも担当しているので、ここで得られた知識を横展開するなどして活かしてほしい。そういう意図もあって、入社の早い段階からDCCの運営に加わってもらいました」
根底にあるのは「社会貢献と価値の還元」
変わったダンス部を取り巻く環境
今年はDCCにとって10回目のアニバーサリー。この機会に、第3回からこのイベントのプロデューサーを務めてきた八幡に、これまでを振り返ってもらった。
八幡「当時の高校ダンス部には、野球でいう甲子園のような大会がなかったので、それに相当する大会を作ろうという想いで始めました。ダンス大会は当時も多数あったのですが、部活動として公式に出場できる大規模なものはなかったんです。また、当時のエイベックスは『ダンサーの子たちが活躍できるステージを作ろう』というスローガンのもと、社会貢献的要素が強い運動にも取り組んでいました。DCCもそれと同じく、社会貢献のような意味合いで始めた部分が大きいです」
今では日本全国からのエントリー数が200チームに迫るほどの大会となったDCCだが、八幡が大会に携わり始めた当初は参加するチームが思うように集まらず、“打ち切り”という事態になってしまいかねない状況もあったという。
八幡「当初はダンス部の大会としてメジャーではなかったので、エントリー数も非常に少なかったです。今年は192エントリーありましたが、自分が関わり始めた当時は30から40ぐらい。第3回の予選通過チームは36チームのうちエントリーが37チームだったので、『チームのエントリーが少なかったらやめよう』となりかけたことも。そのときは、日本全国のダンス部に片っ端から電話をかけて営業活動をしましたね」
そもそも新人を発掘しようということではなく、八幡の根底にある想いは社会貢献。そしてダンスで大きくなったエイベックスが、事業を通してダンス業界に価値を還元する──そのひとつの方法がDCC、八幡はそう考える。
加えてエイベックスはDCCだけではなく、「ダンスマスター」というダンススクールも長年運営してきた。そのどちらに関しても日本トップクラスのダンサーの受け皿があるのがエイベックスの強みだ。
宗「私はDCCもダンスマスターも並行して運営していたので、お互いの学びを活かせる部分がありました。ダンスマスターは小中学生のキッズがほとんどで、ダンスを習い始めた初心者の方をターゲットにスクールを展開しています。その子たちが高校に上がったときに、ダンス部に入部して学ぶという流れを作れていると思います」
飛田「私はダンスマスターを小学2年から始めて、自分がお世話になったスクールでたくさんの子たちの夢をサポートしたいという想いから、エイベックスに入社しました。ダンスが必修科目になった時期に私は中学生だったので、中学校で経験して高校でダンス部に入る友達は多かったですし、実際に入口になっていたと思います」
八幡「DCCがスタートした当時は、ダンスに対してネガティブなイメージを持つ学校もありましたし、当時は部活の顧問から相談とかもよく受けていました。それが今や高校のダンス部を取り巻く環境は180度変わり、メジャーな部活のひとつになっていて、ダンス部の人数が一番多い高校も珍しくありません」
甲子園と並ぶ夏の風物詩へ
進化を続けるDCCの今後
DCCや高校ダンス界にとって、見方が180度変わるきっかけを作った存在として名前を挙げなければいけないのが、「大阪府立登美丘高校ダンス部」。彼女たちが第5回大会(2017年)で披露した衝撃的な“バブリーダンス”は数多くのメディアで取り上げられ、部活動のダンスというものを一躍メジャーな舞台に押し上げた。さらにそこへダンスの必修化という追い風が加わったことで、ブームが加速していく。
八幡「必修化によって中学で誰もがダンスに触れ、高校でダンス部に入る流れができたと思います。自分の中ではバブリーダンスと必修化によって業界が底上げされ、さらにD.LEAGUE(2021年に発足した日本発のダンスプロリーグ。初代チャンピオンは “avex ROYALBRATS”)が始まったことで、その先の流れも生まれたように感じます」
そしてDCCの独自性である「漢字2文字に込められたテーマをダンスで表現すること」は、参加する学生たちにとって教育的にもプラスに働くと八幡は考える。
八幡「まず興行目線で言うと、テーマがあることでダンスの知識がなくても楽しめる。加えて、テーマについてみんなで話し合い、それをどう表現するかを研究するプロセスは、学生にとっては教育的にも意義のあることだと思います」
加えて、八幡が意識していることは“審査員の質”だ。今年は、ダンス甲子園の生みの親・テリー伊藤氏をはじめ、世界的ダンサー・TAKAHIRO氏、エイベックスでダンスディレクターを努めるMITTAN氏、さらにはD.LEAGUEで活躍するYuta Nakamura(avex ROYALBRATS)やRena(Rht.)など、ダンス界をけん引するメンバーがそろった。その点に関しては参加する高校側からの評価も高く、それは先ほど名前を挙げた登美丘高校がDCCにのみ参加していることからもわかるだろう。
八幡「参加する高校生たちにとって一番納得がいかないのは、ダンスをやったことない人に審査されること。DDCは参加する誰もが納得できるようなプロのダンサーや、ダンス業界を熟知している人をブッキングすることを意識しています」
社会的なダンスに対する認知と、DCCが独自に作り上げたフォーマットがうまく時代の流れとシンクロし、全国高校ダンス部の日本一を決める大会は年を追うごとに拡大。今年の第10回大会も節目にふさわしい盛り上がりを見せ、「春霞(はるよこい)」をテーマに帝塚山学院高等学校(大阪府)が優勝を果たした。
八幡「今年の参加者の多くは、高校に入学してすぐコロナ禍を経験した子たちだったので大会に特別な想いがあったと思います。あとはコロナ禍になって、漢字2文字のテーマに、より社会的なものが増えましたね。優勝した帝塚山学院高等学校のテーマ「春霞(はるよこい)」も、平和への想いを表現していて印象的でした」
宗「個人的に今回で印象に残ったのは、3位の三重高等学校。踊っている全員から表現する楽しさが伝わってきました。あと多くのメディアがDCCに興味を持って密着してくれたので、今後もDCCを知らない方々にもっと魅力を伝えていきたい」
飛田「予選から決勝までの動きを、しっかりと現場で感じることができたので、いい経験になりました。あとテーマに込めた想いが“今”を現す言葉が多くて、自分たちの青春時代そのものを表現していることが、ダンスとコメントから伝わってきました」
冒頭であくまで新人発掘ではないと言ったが、DCC を経て、プロになったダンサーはすでに存在する。そして今後はDCCによる地方予選の開催や、高校のダンス部にフィーチャーした地上波の企画など、さらなる展開も期待される。そうなればますます、高校ダンス部の青春を通したコンテンツが、多くの目に触れることとなるだろう。日本の夏の風物詩、甲子園とDCC──そう語られる日もそう遠くなさそうだ。
(写真左から)
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