2018年11月、エイベックスはLDH JAPAN(以下、LDH)と、ライヴ会場におけるコンサートグッズの販売を軸とした新会社・HI&maxの設立を発表。同社はエイベックスとLDHが設立する初の合弁会社ということもあり、そのニュースは大きな注目を集めた。近年、拡大し続けるライヴ市場において、ともにコンテンツホルダーである両者のタッグはどのような事業を展開していくのか? HI&maxの代表取締役社長・有坂吏司(エイベックス・エンタテインメント)、同じくHI&maxの代表取締役副社長の野田泰嗣氏(LDH)に話を伺った。
満を持して始動したHI&max
エイベックスとLDHが
求めた有機的な繋がり
「エイベックスとLDHによる初の合弁会社」というニュースを聞いてまず率直に思ったのは、「初なの?」ということだった。LDHのアーティストの作品がエイベックスからリリースされていること、さらにエイベックスの松浦会長とLDHの代表・HIRO氏が旧知の仲であること等が、両者の距離の近さをイメージ付けていたのかもしれない。
有坂「実際、このプロジェクトの始まりは昨年の4月、5月ぐらい。そのときまだ私は野田さんに会っていなくて、弊社の代表である黒岩がLDHさんにプレゼンするにあたって、提案内容を固める時期でした。野田さんに会ったのはそのあとの6月ぐらいのことでしたね」
野田「御社の松浦会長と弊社のHIROは、高校時代から先輩・後輩の関係であることをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。その二人が以前より、今のレーベルとプロダクションとしての関係だけではなく、何か双方にとって有用な形で新たに取り組めることはないかと話をしていたそうです。そこでちょうど両社が未来の物販会社の設立を考えていたので、今回このような形でHI&maxの設立に至りました」
有坂「松浦とHIROさんの間には、以前からずっと『何かを一緒にやりたい』という想いがあったそうです。もしかしたらそれは今回の事業では無かったかもしれないですけど、私も会場販売の新しい形をつくろうというテーマを抱えていたんです。なので、松浦の考えていることと僕らがやらなければいけないことがこのタイミングで繋がったんだなと、最初に話を聞いたときに思いました」
昨年、エイベックスは30周年、そしてLDHは15周年を迎えた。このアニバーサリーイヤーに満を持して動き出したHI&maxだが、「世の中的に、もしかしたら少し勘違いされている部分もあったりもして……」と野田氏は笑いながら言う。
野田「最初にHI&max設立のニュースがプレスリリースで出たときに、 “エイベックスとLDHが合併した!”みたいな捉え方をしている方もいて。合弁会社というものが世の中の人たちからしたら少しわかりづらい部分もありますしね。実際は社員が10人にも満たないスタートでした」
ライヴの楽しみ方をアップデート
ライヴ会場における全てを
一気通貫で受託できる会社へ
有坂はエイベックス内においてアーティストグッズの商品開発から販売に至るまでの事業を担当。一方で、野田はLDHにおいて経理・法務・総務などを含む管理部門全般を統括する立場で、お互い携わってきた仕事も異なる上に初の合弁会社ということもあり、最初は戸惑いもあったという。
有坂「事業の取引のレベルではなく、今回のような共同事業のような形でやることはこれまでなかったので、当初は漠然とした不安はありました」
野田「ただし、HI&maxというひとつの会社になることで、ゴールをひとつに共通認識化しやすくなったことは大きなメリットだったと思います」
昨年の春にプロジェクトがスタートし、設立を発表したのは11月。それに関して「会社の整備が追いついていない部分もありますが、スピード感を求められていた部分もあったし、来年からというよりはどんどん進めていこうという意識がありました」と有坂は語る。
野田「LDHでは、エイベックスさんからリリースしているTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEのアリーナツアーが2019年2月から始まるので、そこをHI&max事業の第一弾と考えています」
有坂「ライヴ会場でのグッズ販売を、実際にHI&maxで担当します。そのゼロからイチのスタートをうまく切るためにトライアルを進めていて、それが終わったら改善点を振り返りながら、2月に向けて準備を進めていこうと考えています」
これまでは両社ともに販売の実務を外部に委託していたが、これからはHI&maxが担うことになる。これまでの経験を踏まえつつ、お互いの持つコンテンツを最大限に生かして、商品開発や販売手法をアップデートしていくのだ。
野田「まずはお互いの持つコンテンツで、これまで展開してきたライブ会場でのエンタテインメント空間をHI&maxで進化させることが第一と考えています。そして我々2社以外の外部アーティストの受託を含め、『物販と言えばHI&max』と言われるようになれればと。また、その後はグッズ販売だけに留まらず、アパレルや飲食ブースなどへの展開や、最終的にはいちアーティストのライヴ制作からグッズの製作・販売、はたまた会場での警備関係まで全てを一気通貫で受託できる会社を目指します」
有坂「LDHさんの“LDH LAND”というライヴ会場の新たな取り組みからも学べるように、場の一体感をつくることは、エイベックスの自社アーティストのライヴにも求められているように感じます。ライヴ会場においてコンサートのホールだけじゃなくて、ホールが開くまでの数時間も含めて、お客様が楽しめるライヴ会場の場づくりをしていきたい」
野田「さらにLDHにはEXPG、エイベックスさんにはavex artist academyと、エンタテインメント業界を夢見る若者たちがたくさん集まっています。そういった表現者へ進む以外の人材を支え、一緒に新しいエンタテイメントを作り出す会社になることも目標のひとつです」
“Really! Mad+Pure”と
“Love,Dream,Happiness”
両者の強みを生かし
新しい価値を提示する
HI&maxでお互いの持つコンテンツをどう活用できるのか? まだまだスタートしたばかりで未知の部分は多いが、この2社だからこその合弁会社を組むメリットを考えるにあたって、改めて両者にエイベックスとLDH、お互いの会社に抱く印象、そして強みを聞いた。
野田「やはりエイベックスさんの歴史と実積、そして専門家が多いことへの安心感は、合弁会社をつくるにあたって事務的な面でも大変お世話になりました。私たちは15年続いた会社ですが、毎年トライ&エラーを繰り返してようやく形ができつつあって。ただし、エイベックスさんはその倍、先を進んでいるのでいろいろな面で教えてもらっています」
有坂「僕が感じたLDHさんの強みはやはり先ほど述べた“一体感”。それはHIROさんが考えていることを、HIROさんの周りの人だけではなく、現場レベルでも共有して仕事に取り組んでいるんだろうなということをすごく感じます。そしてそれが、LDHさんのスピード感にも繋がっているのかなと。エイベックスは会社が大きくなった今、そういうものが求められていると感じますし、こちらもHI&maxの取り組みを通して学ぶべきことは多いです」
野田「環境や文化の違いから初めは試行錯誤もするでしょうが、ともに業務を行うことによってお互いの強み弱みを知ることができますし、『エイベックスはこうらしいよ』とか『LDHはこんな風にやっているらしい』など、そこで知り得た経験を双方の会社に持ち帰ることができる。お互い良いとこ取りして、他の既存事業に還元できることも大きなメリットでしょう」
エイベックスとLDHがそれぞれから学び、強みを生かす。エンタテインメント業界のトップランカー同士、端から見たらこれほど頼もしいタッグは無いだろう。同時に、両社に共通するカラー、より言えば根底に流れる思想が、HI&maxの今後を支えていくかもしれない。
野田「私は弊社の名前の由来になっている“Love,Dream,Happiness”がすごく好きなんです。究極的なことを、例えば名刺を交換する時点で宣言しているわけじゃないですか。定義付けることはすごく大事だと思っていて、私の中でエイベックスさんのタグラインである“Really! Mad+Pure”は、“Love,Dream,Happiness”と大きく違わないように感じているんです。トップ同士が長い時間をかけて交流がある、一朝一夕の間柄ではない両社だけあって、言葉が違うだけで本質は同じなのかなと」
有坂「やはりシンプルなものほど伝わりやすいし、簡単に答えがでないメッセージの方が、いろいろと考えるきっかけになる。理念というのは、日常の業務の中で答えが出せないときに道標のような役割を果たすものなのかなと思います。“Really!”、つまり“マジで!?”と皆様に言っていただけるような仕事を世の中に提示していきたいです」
HI&maxを皮切りに、今後さまざまな場面でエイベックスとLDHが連携していくのかもしれない。ただしそれは、今回の事業が成功するか否かにかかっているとも言える。大きな期待を背負っての船出だが、成功の鍵を握るのは他社の良さを認め、貪欲に吸収するという謙虚な学びの精神と言えるだろう。
(写真左)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
プラットフォーム事業本部 MD事業グループ
ゼネラルマネージャー
HI&max株式会社
代表取締役社長
有坂 吏司
(写真右)
株式会社LDH JAPAN
執行役員
管理本部長
HI&max株式会社
代表取締役副社長
野田泰嗣