2018年に訪日観光客が過去最大の3,000万人を突破し、2020年の東京オリンピックに向けてますます高まりが予想されるインバウンド需要。欧米や中国/アジア諸国をはじめとする訪日外国人の興味はモノ消費からコト消費に移行し、文化や食など、日本独自の「体験」に関心が寄せられている。そうした日本を訪れる様々な人々に向けて、アニメソングとクラブ・カルチャーの魅力を融合させたプロジェクト、『OMOTENASHI BEATS』が始動した。
このプロジェクトは、エイベックス・エンタテインメント株式会社(以下、AEI)とエイベックス・マネジメント株式会社(以下、AMG)、そしてアニメ作品/声優アーティストを多数抱えるエイベックス・ピクチャーズ株式会社(以下、API)の3社が初めて本格的にタッグを組んで立ち上げたプロジェクト。アニメソングとDJの要素を融合させた「アニクラ」の魅力を通して訪日観光客をおもてなしすることで、「日本を訪れる人々にジャパンカルチャーを体験してもらう」ことを大きなテーマにしている。
訪日観光者を日本の文化で
「おもてなし」
知見をクロスオーバーし誕生した
『OMOTENASHI BEATS』
このコンセプトには、どんな狙いが込められているのだろうか? まずはAEIでこのプロジェクトのプロデューサーを務める油井誠志に聞いた。
油井「エイベックスの事業ドメインにある『音楽』『アニメ』は、事業としては他部署に分かれているものの、本来的にはそれぞれが分かちがたく混ざり合っていくものだと感じています。これまでAEIとAMGは音楽事業を通して密接にかかわってきていますが、APIとのタッグもさらに強化できないかと双方で考えてきました。その中で、3社の共同プロジェクトとして立ち上げようと考えたのが、『OMOTENASHI BEATS』が始動した最初のきっかけです。部署に縛られずに、グループの様々な知見を組み合わせた新しい試みをはじめたいという構想が、僕らの中で1年半ほど前からずっとありました」
油井はAEIでレーベル事業部内で多事業部を横断するプロジェクトを企画/担当する部署・SPUに所属。そこにAPIで声優マネジメントを管掌しながら様々なプロジェクトを多数手掛ける玉虫秀章、AEIの中でアニソンに深い知見を持ち、i☆Risにもディレクターとしてかかわる大場正幸、そしてmotsuが主催する『Anime Rave Festival(アニレヴ)』(https://animeravefestival.com)を彼とともに仕掛けるAMGの日光和也らが加わり、エイベックスグループ内の3社が手を取り合う『OMOTENASHI BEATS』がはじまった。
油井「エイベックスはもともと、ユーロビートを筆頭にしたダンス・ミュージックを国内でポピュラリティのあるものに変えてきた会社です。ですから、今度は我々の力でアニソンをよりポピュラリティのあるものに変えていけないか、と考えました。我々にはグループ会社も含めて様々なスペシャリストがいますから、その知見をよりクロスオーバーしたいと考えたんです。そこで出てきたアイディアが、インバウンド向けのプロジェクトの立ち上げでした」
アニソンを海外に「輸出する」のではなく、インバウンド向けの「おもてなし」として捉えるというアイディアには、どんな想いが込められているのだろうか。
油井「日本のインバウンド需要が、政府の想定よりも伸びているという状況がある中で、日本を訪れた方々が向かう場所が、京都や浅草や渋谷のスクランブル交差点のみに限定されてしまうとしたら、それはもったいないなという気持ちがありました。もちろん、そうした場所も魅力的ですが、より今の日本のカルチャーが体験できる場所があってもいいんじゃないかと感じていたんです。だとするなら、世界から見た際に日本のポップ・ミュージックの代表格として挙げられる『アニソンが聴ける場所』があってもいいのではと。たとえば、メイド喫茶も平日は海外の方が多いですし、訪日される方々には今の日本ならではの体験を求めている方も多くいます。また、僕らが海外に向かう際には現地の方々と日本のアニメやアニソンの話をして盛り上がるわけです。いつかそんな海外の方々が気軽にその魅力を体験し、楽しめるような場所を増やすことができないかとも感じていました」
大場「そうした想いではじまったプロジェクトですから、社外の方々も含め、日本のみなさんで一緒にアニソンの文化を盛り上げていくようなプロジェクトにしたいと考えています。とはいえ、他の方々にお話をする際には何か形になったものを持っていく方が、僕らの気持ちを理解してくれると感じたので、まずは名刺代わりにコンピレーション・アルバムを制作することにしました。それを他社さんに持って行ってお話することで、自社を越えてアニソンを文化として盛り上げる輪を広げたいと考えています。版権を筆頭にした権利の問題や作品の世界観の違いなど話し合っていくべきポイントはたくさんありますが、そうした垣根を取り払える場所を作り、そこにDJの技術をかけ合わせれば、アニソンに気軽に触れられる場所を増やせるのではないかと思いました」
アニクラならではの
独自性とエイベックスらしさ
コンピレーションアルバムに
込めた工夫
アーティストライヴの場合は、アーティスト本人の演奏や歌によって臨場感を生み出せる利点があるのに対して、DJには様々な楽曲をプレイしてアニソンシーン全体の魅力を広く表現することができる利点がある。その場所に行けば「自分が聴きたい楽曲がたくさん聴ける」という状況を作ることは、海外の方にアニソンの魅力を伝える意味でも、大きな魅力になりうる。
油井「音楽でありながら、背景に『アニメ作品がある』という点も、アニクラならではの大きな魅力だと思います。『この作品の曲の次にこの作品の曲をかけるんだ!』という形で、選曲に新しい魅力が生まれる瞬間もありますよね。そもそも、『言語もジャンルも立場も越えて多くの人々が繋がれること』がクラブ・カルチャーならではの魅力ですし、それはとてもエイベックスらしいことでもあるとも思っています」
そうしたプロジェクトの第一弾としてリリースされたのが、コンピレーションアルバム『SUPER OMOTENASHI BEATS vol.1 × DJ 小宮有紗』だ。このコンピレーションアルバムでは、『ラブライブ!サンシャイン!!』から生まれたスクールアイドルグループAqoursのメンバーとしても知られる女優/モデル/声優の小宮有紗氏がDJを担当。エイベックスから生まれた歴代のアニメタイアップ曲をノンストップミックスで繋ぐ作品を完成させた。
玉虫「現状DJ活動している方はたくさんいらっしゃいますが、グループ内だけに限らずに様々な方との可能性を考え、『意外性』とご本人の『やりたい』という情熱を軸に模索していった結果、ご縁があって小宮さんにプロジェクトに参加して頂くことになりました」
日光「小宮さんはその時点ではDJ経験がない方でしたが、僕がかかわっている『Anime Rave Festival』では、当初より声優の方にDJをしてもらう機会、場所を用意し、練習の段階から本番までを完全サポートするシステムを組み込んでいます。今回もこのシステムを使って小宮さんをサポートする形を取っています」
油井「小宮さんとは1年ほど前に出会ったんですが、声優さんであり、モデルさんであり、女優さんでもあり、エイベックスが掲げる『Really! Mad+Pure』にも通じるような、容易にジャンル分けすることができない魅力を感じました。その唯一無二感と、ご本人のやる気が、一緒にプロジェクトを進めていく際の決め手になりました。実際、空き時間にも積極的にレッスンを入れてくれていますし、世の中に発表したときも、非常に驚きを持って迎えていただきました。僕らの精神ともシンクロしている方ですし、声優さんや女優さんとしてではなく、純粋に『DJ』としてお仕事をともにしている感覚です」
大場「そのうえで、『SUPER OMOTENASHI BEATS vol.1 × DJ 小宮有紗』に関しては、エイベックスの楽曲だけを使用しています。タイトルに関しても、エイベックスがかつてトランスやユーロビートを日本に広く紹介したコンピレーション・シリーズ『SUPER EUROBEAT』を想像してほしいと思い、この形にしました。アニソンはストリーミングサービスで世界に向けて配信することに、まだ対応が出来ていない部分が多いと思うので、この『SUPER OMOTENASHI BEATS』シリーズでまずは自社のアニソンを世界に向けて配信を行い、その結果を持って今後様々な他社の方々に交渉しにいきたいと思っています」
『SUPER OMOTENASHI BEATS vol.1 × DJ 小宮有紗』には、『ONE PIECE』や『妖怪ウォッチ!』、『劇場版 KING OF PRISM』『Wake Up, Girls!』の主題歌/挿入歌など総数35曲をノンストップミックスで収録。CD+Blu-ray版には、ミックス音源に合わせて収録曲のアニメーション映像をつけたコンテンツ『NONSTOP MIX MUSIC VIDEO』も収録されている。
大場「『NONSTOP MIX MUSIC VIDEO』は、CDに収録されている54分以上の音源をそのまま映像にしました。アニソン好きな人達のパーティーや昨今増加しているアニソンバーやアニソンカラオケ店などでBGM映像的に流していただけたら嬉しいです」
また、DJ 小宮有紗は2019/10/5(土)に開催される『Anime Rave Festival』にも出演。ここでは主催者のmotsuを筆頭に、GARNiDELiAのようなアニソン界の人気アーティスト、わーすたやまねきケチャといったアニソンも担当するアイドル、DJ KOOやCDシリーズ累計セールス165万枚突破の邦楽DJのDJ和や、motsuともにホストを務める徳井青空・i☆Risのメンバーでもある澁谷梓希らAPIに所属する声優アーティスト陣など、様々な出演者とともに、DJ 小宮有紗が出演。ここが彼女にとって初めてのDJを披露する現場となる。
日光「小宮さんが実際にDJをしている姿を見てお客さんは驚くと思います。また、小宮さんのような方に活躍してもらうことで、『アニソンDJになりたい』という方も増えると思うのでこの日が楽しみです」
想いの連鎖で繋がり
“オール日本”で取り組む――。
『OMOTENASHI BEATS』が
考える場所づくり
最後に、このプロジェクトを通して実現したいことや、将来のヴィジョンについて話してもらった。
油井「僕らはあくまで『日本のポップ・ミュージック』のひとつとして、様々な場所にアニソンの魅力を伝えていきたいと思っています。企業間の垣根を越えて想いを繋ぎ、オール日本でやっていけるようにできればと考えているんです。具体的には、まずは『OMOTENASHI BEATS』を様々な場所に連れ出して、認知を広めようと考えています。その第一弾が『Anime Rave Festival』ですが、以降も様々なイベントやフェスに出演する予定が決まってきています。認知が上がったところで、プロジェクトの拠点になるような場所も作りたいですね。そうすることで、一過性のものではなく、継続して『おもてなし』が提供できる場所にしていきたいと考えています」
大場「たとえば、訪日観光客の方が、昼は浅草に行って、夜は『OMOTENASHI BEATS』の店舗に来てくれるような、そんな場所を作れたら嬉しいですね。何よりも多くの人々の想いが繋がっていくような、『文化』としての魅力を伝えて、その輪をどんどん広げたいと思っています。ですから、演者さんも、企業さん含め僕らの考えに共感してプロジェクトにかかわってくれる方々はすべて仲間だと考えていますし、たとえばお祭りの提灯のように、参加してくださる方々がひとつの仲間としてずらっと並ぶようなものを、ホームページなどでも準備していきたいと考えています」
玉虫「既に外部のパートナーも一緒にチームに関わってくれていますし、今後も様々な方と『競争』ではなく『協力』していきたいと考えています。周囲の方々は全て僕らの仲間になってくれる可能性があると捉えていますし、逆に僕らも仲間になれる。今後のエイベックスの『アニソン』に関しての展開は、ここから色々と発展させていきたいと思っています。前提として僕ら自身が楽しくやるということも大切にしながら、まずはこのプロジェクトを広げていきたいと考えています」
『OMOTENASHI BEATS』はエイベックスのみにとどまるプロジェクトではなく、「社外も含めた様々な人々と共創するプロジェクト。ここから世界に向けて、アニソンの新たな魅力が広がっていく日も近いかもしれない。
(写真左)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部 SPU
マネージャー兼ゼネラルプロデューサー
油井 誠志
(写真左中)
エイベックス・マネジメント株式会社
マネジメント本部
第3マネジメントグループ 第5ユニット ・第6ユニット
日光 和也
(写真右中)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部 第2C&Rグループ
avex trax 第6ユニット
マネージャー
大場 正幸
(写真右)
エイベックス・ピクチャーズ株式会社
マネジメントグループ
ゼネラルマネージャー
エイベックス・マネジメント株式会社
プロジェクト戦略グループ
シニアプロデューサー
玉虫 秀章