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“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」 “音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

ハイライト

ONOFF

2018年5月、エイベックス・エンタテインメント株式会社は、音声によるARで音楽の新しい楽しみ方、新しい体験の創出を目的とした新事業のSARF(サーフ/Sound Augmented Reality Format)をスタートさせた。

SARFが展開する音声AR(Augmented Reality=拡張現実)とは、たとえるなら美術館の音声ガイダンスを街中に解き放ったようなものだ。このシステムは、スマートフォンのアプリを起動し、GPSで設置したスポットに入ると、そこでしか聴くことのできない音声コンテンツが流れ、目に見えるリアルな景観が違った世界に感じられるという、新たな楽しみを提供する。

ARやVR(仮想現実)等、その総称であるXR(クロス・リアリティ/エクステンデッド・リアリティ)の市場規模拡大が予測される中、このSARFで3年間実績を積み上げてきたビジネスアライアンス本部ビジネスクリエイトユニットの渡部宏和、須賀敏樹、山下太志に、音声ARを軸にしたエンタテインメントの可能性をたずねてみた。彼らによればSARFは、エイベックスでなければ成し得ない、人間のイマジネーションを拡張するプラットフォームだという。

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

個人のイメージが
コンテンツへの没入感を高める

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

渡部「SARFには進めながら気づかされることが多いです。たとえば、渋谷を舞台にした、音で原始時代へタイムスリップするコンテンツでは、参加した子供たちに音だけで現れるプテラノドンの色を聞いてみたんです。するとある子は黄色と言い、別の子は緑と答える。肝試しコンテンツも同じように、どんなお化けが後ろから追いかけてきたかは人によって違ってくることがわかりました。同じ足音でも、髪の長い女性とか、目が百個もある小さい生物だったとか」

それは、むしろ音声だけのほうがイメージを限定しないということだろうか?

渡部「自分が怖いものは自分なりに想像できるというか、ビジュアルだと固定化されがちなイメージを、個人の想像力に回帰させる力があるのが音声ARです。個々人が自由にイメージを膨らませていきますから、おのずと没入感が高いコンテンツになりますよね」

事例1:
WAKAYAMA SOUNDSCAPE
~土地に根付いている逸話を
土地に戻す~

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

音に関する様々な気づきを与えていったSARFは、昨年末にアプリをリリースし、2021年から本格運用がはじまった。直近の事例からSARFの具体的特徴を紹介していく。最初は、音声ARのコンテンツづくりに関する取り組みとして、このプロジェクトを担当した山下が膨大な熱量と共に臨んだのは、3月12日に配信された歌劇『火具鎚(かぐつち)のうた』のプロデュースだった。

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

山下「実は紀伊半島の先端部分には、噴火によるカルデラ沈下でできた奇岩がいくつもあるんです。それは、1,400万年前に地球上で生物の大量絶滅を引き起こした大噴火でもあったらしいことが最新の研究結果で明らかになりました。その奇岩の一つを火神カグツチノミコトとして祀ったのが、日本最古の神社とされる三重県熊野市の花窟(はなのいわや)神社です。ここが日本の神話と深くつながっていることは、700年代に日本書紀や古事記に記されています。ですが、なぜ当時の人々はカルデラでできた巨岩と火の神を結びつけることができたのか? その不思議さを起点に、再び大噴火が起きたらという近未来ストーリーを織り込んだ『火具鎚のうた』をつくりました。メインキャラクターのデザインは、先日お亡くなりになった和歌山県出身のさいとう・たかを先生が快諾してくださいました」

山下が主に取り組んだのは、脚本の核となる歴史や逸話を地元の学芸員や観光ガイドから収集したことと、歌劇に縁のある実際の場所で聖地巡礼的な音声ARを配置したことだという。

渡部「特にこの和歌山との取り組みは、地方行政とSARFの必然的な親和性を示すプロジェクトになりました。従来の地方創生では、一過性が一つの問題になっていました。たとえばフェスを地方で開催するという方法もありますが、当日は盛り上がっても翌日は平常に戻ってしまう。対してSARFは、山下が言ったように土地に根付いている逸話を、”物語”というエンタテインメントにして、その土地に戻すことができます。地元の皆さんにとって、こうした逸話は昔から語り継がれている“当たり前のもの”なのでそれをおもしろいとは感じていないことが多いのですが、他の方が聴くと凄くおもしろい話がたくさん眠っている。それを丁寧に拾い集めて、ひとつのストーリーに編集し、コンテンツ化できるのは、コトを起こすのを得意としている我々だからこそ可能な領域だと思います」

事例2:
名古屋城×名探偵コナン×SARF
~他コンテンツとの
コラボにおける特色~

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

もう一つは、3月末から5月中旬にかけて名古屋城で実施された名探偵コナンとのコラボレーション企画だ。担当した須賀によると、他のコンテンツとのコラボレーションでもSARFの効力を発揮できるケースになったという。

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

須賀「元々は名古屋城をより盛り上げたいということで、先方からはかつてない方法で城内を周遊できるプランが求められました。そこで提案したのが音声ARでした」

4月から公開された劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』の中で名古屋が舞台になっており、劇中に名古屋城も出てくることから「名古屋城×名探偵コナン×SARF」が実現したという。

須賀「具体的には、城内18カ所の中で一部スポットにクイズが出る場所を設け、それに答えながらお城を巡ってもらう企画としました。大きなポイントは、出題する声をコナンの声優の高山みなみさんにお願いしたことです。クイズが出る場所にコナンのビジュアルはありませんが、そこでコナンの声が聞こえてくれば没入感が高まりますよね。これはビジュアルに頼らなくていいSARFの特色であると同時に、音楽・音声だけなら作品の世界観を壊しにくい点で、コラボするコンテンツ側にとってもリスクが小さくチャレンジしやすいプラットフォームになるメリットを示せたと思います」

この実績をもとに、須賀はアニメやアーティストなど、多種多様なIP・コンテンツとのコラボの可能性が広がっていると考える。

須賀「エイベックス・ピクチャーズが展開するアニメーションでサブストーリーをつくり、SARFで聖地巡礼的なコンテンツを立ち上げていくこともできます。アーティストのイベントを盛り上げることや、規制入退場などにも活用することができます。エイベックスは数多くのコンテンツを持っているので、SARFで社内連携をし盛り上げていく機会をどんどん増やしていきたいです」

音声ARに求めていくのは、
多視点と多層化

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

視点を増やせること。これも音声ARの特徴だと渡部は言う。

渡部「名古屋城の事例では、子どもと大人で、異なる体験を演出することができました。こうした取り組みを続けていけば、世代や価値観、季節や時刻などによって、各地域の観光アセットに付加価値をつけていけるでしょう。視点の違いで具体的なコンテンツをつくるとしたら、たとえば城なら守る側と攻める側で異なる見え方を音声ARで表現することができます。関ヶ原もそう。徳川家康と石田三成のそれぞれに視点を置いたコンテンツを用意すれば、同じ場所を何度訪れても楽しめますよね。しかもSARFなら導入が簡単に行えるのが強みです」

その凄さ、この2年間のコロナ禍ではいかなる状況だったのだろう?

渡部「SARFが提供するコンテンツは、いわゆる”お一人様”でも楽しめるので、問題なく稼働できました。音声ARは、時間的にも場所的にも密と分散のコントロールが可能です。その点ではどんな時代にも対応できるソリューションであることが実証できました」

音の拡張現実という新たな楽しみを演出できるというのは、情報過多の時代において、まずは非常に新鮮な試みであること。さらに、コンテンツの多視点性、多層性によって持続可能なエンタテインメントになる可能性が理解できた。最後に、それぞれがSARFで叶えたい未来をたずねた。

須賀「現時点では、十人十色の楽しみ方ができるのが音声ARなんですよと説明しても、まだまだ『ビジュアルはないの?』と返されがちです。なのでSARFを通して、音声ARが気軽に楽しめるものにしたいです」

山下「XR文脈の中では音のインフラ、ひいては音の価値観を再構築したいと思っています。『もののあはれ』という理念がありますよね。その説明だけで分厚い本がつくれるテーマですが、誰もが嫌う雨でも“心地よい降り方の音”があるはずなので、それをSARFコンテンツで表現できたらと……」

渡部「SARFを通じて、音楽を聴く機会を増やしてくというレコード会社の本質的なミッションを達成していく。それが我々のひとつの使命です。その一方で、個人的には、XRによる、日常生活の多視点化、多層化に挑みたいです。たとえば、スイッチひとつで、日本中をNINJAになって旅することが出来たり、日常そのものがコンテンツの舞台になるような、壮大だけれど何か身近なエンタテインメントまで到達できたら本望ですね」

またひとつ、SARFの実装例が追加された。福岡市は博多旧市街の観光ガイドとして、アプリから流れる音声ドラマに没入しながら、43のスポットを周遊できるエンタテインメント・サービスを2021/11/25に開始した。こうしてSARFは、自治体との新たな取り組みを着実に推し進めていく。

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

アイウェア等のハードウェア込みで語られがちなXRの将来に対し、SARFは音声のみのARで新しいエンタテインメントを確立させようとしている。それは、むしろ感覚を絞るほうがイマジネーションの拡張に効果的である事実を証明する挑戦であり、なおかつ音を大切にしてきたエイベックスだからできる試みという物語は、それ自体に深い没入感を覚えさせてくれる。彼ら自身が語るSARFの未来像が、多くの人々の喜ばしい体験となって実現する日が一日も早く訪れることを望む。

“音”だからこそ広がる可能性 地域に眠るストーリーをコンテンツ化する音声AR「SARF」

(写真左)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
ビジネスアライアンス本部
第1アライアンス営業グループ
コンテンツプロデュースユニット

ビジネスアライアンス本部
ビジネスクリエイトユニット
山下 太志

(写真中央)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
ビジネスアライアンス本部
ビジネスクリエイトユニット
須賀 敏樹

(写真右)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
ビジネスアライアンス本部
ビジネスクリエイトユニット
マネージャー
渡部 宏和

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