原作から51年、赤塚不二夫没後10年のタイミングで復活した、細川徹監督によるTVアニメ『深夜!天才バカボン』。7/10(火)から放送がスタートし、アニメの固定概念や常識にとらわれないその内容は、業界内外で話題をよんだ。放送前に行った前回のインタビューに続き、アニメ制作会社・株式会社ぴえろの福井洋平氏と、エイベックス・ピクチャーズ株式会社・アニメ制作グループの尾崎源太に、放送後の手応えや反響、そして改めて本作がもたらしたものについて伺った。
「深夜のひと笑い」をつくる、
伏線、飛び道具、裏ネタ
最終回を迎える前のタイミングで行ったインタビュー。それぞれに一言で語れない想いがあることは承知の上で、ここまで共に走って来たふたりに、まずは率直な感想を聞きたかった。
尾崎「出演していただいたゲストの方たちやファンの方たちはじめ、さまざまな声をいただいた作品だったなと。放送後にはTwitterのトレンドに『深夜!天才バカボン』に関するワードがたくさん入ったりもしましたし、思った通りの反応を得られたときは、この作品に関われてよかったと思いました」
福井「監督が狙った通りのキャスティング、そしてキャラクターがピンポイントでユーザーに刺さって、そのコメントがほぼ全話、SNSなど含めて上がってきた。深夜の時間の話題になったと思いますし、率直にやっていてすごく楽しい作品でしたね」
7/10(火)に放送された第1話「ひさしぶりにアニメになったのだ」は、小倉久寛さんのバカボンパパからYOSHIKIさん(イラスト)の登場、さらに野沢雅子さん&福山潤さんといった豪華声優陣の共演、さらに東京上野クリニックでブラック・ジャックからのパパ変身……と、トップギアで『深夜!天才バカボン』の世界観を見せつけた。
福井「良い意味で視聴者の皆さまは、どんな話だったかをあまり覚えてないと思うんですよ。細川監督のシナリオは手数が多いのと、いろんな“飛び道具”も入っていて、キーワードを思い出すのに精一杯の状態だったんじゃないかと(笑)。第1話では30個を超えるネタを入れていて、放送時は監督や副監督、製作委員会のメンバーと一緒に観ていたのですが、それが『深夜!天才バカボン』というワードとともにトレンドに入っていたので……それは本当にうれしかったです。あと、ケツメイシさんの曲はやっぱりエンディングにハマってましたね」
尾崎「深夜にひと笑いしておやすみ――そういう作品にしたかったので、ケツメイシさんの曲も含めて、笑いありノスタルジックありの30分になったと思います」
前回のインタビューでふたりは、“リアルタイムで観ることの価値”を口にし、さらに福井氏は「『深夜!天才バカボンとは全然関係ないニュースだろうな』と思っていたら、実は全部バカボンに絡んでる……みたいな感じになってほしい」とも語っていた。
福井「天才バカボンはそもそもキャラの数は多くないので、メインのキャラを立たせつつ、並行してさまざまなキャラクターやネタが入っています。そのあたりは細川監督が緻密にやっていらっしゃいましたね。後半の話数で高橋克典さんが再登場するような伏線の回収もあったので、そのあたりも視聴者の方たちには楽しんでもらえたのかなと」
尾崎「第1話は、監督やスタッフと一緒にリアルタイムで観ました。放送後に、細川監督と企画したスタジオぴえろの上田さんが『やったね』って言って握手をしていたのを見たときはうれしかったです。1話1話でもヤマ場があったのですが、通しで観てわかるネタもあったので、見返しても楽しめる作品だと思います」
『ノンフィクション
とのマッシュアップ』
エンタテインメントの新たな可能性
TwitterをはじめとするSNSでは、放送されるたびに視聴者からのさまざまな感想が寄せられていた。果たして、この1クールの間にスタジオぴえろ及びエイベックス内からは、どのような声がふたりの耳には届いていたのだろうか。
福井「社内には過去に弊社が制作したTVアニメ『天才バカボン』シリーズに携わったスタッフもいるのですが、その人たちからも『おもしろかったね』と言っていただいたのは、本当に担当としてはうれしかったです」
尾崎「エイベックス内だと、例えばYOSHIKIさんや片平なぎささんが出たとか、そういう外側の笑いじゃなく、『あのときのあれってあのネタでしょ?』みたいな感じで、僕らが忍ばせていた細かいネタを拾ってくれる玄人目線の人が多かったですね」
本作は派手なネタが数多く登場するが、その内にはファンが“ほくそ笑んでしまう”演出もところどころに存在していた。「そもそも1話から古田(新太)さんがほとんど出てないですからね」——そう言いながら福井氏は笑う。
尾崎「細川監督の台本って、大小の笑いがさまざまな角度から入ってくるので、原作を読んでいた人もそうでない人も、楽しめる作品になっていたのかなと思います」
前回のインタビューで紹介できなかったネタバレがひとつある。それは、作中に登場するゲストや会社などの実名使用について。放送中に視聴者から「これ大丈夫か!?」という心配の声も上がっていたが、もちろん全て許諾済み。これもアニメ業界の常識をぶち壊すものであり、スタジオぴえろやテレビ東京、電通など複数企業からなる製作委員会だからこそ成せたこととも言えるだろう。
福井「そこは本当に徹底しました。OKをいただけるまで連絡をして、場合によっては絵も見てもらって。『これで大丈夫ですか?』『ダメです』『作り直します』みたいなこともありましたね。ただ、ご協力をいただいた企業様はご理解のあるところばかりだったので。いろいろな人や企業様のお力添えがあったからこそ、これほど話題になったと実感しています。寛大な気持ちでご許諾をいただいた方々には感謝しかないですね」
尾崎「今のところ、どこからもクレームは無いのでよかったです。あとは製作委員会でいうと、作品の中でテレビ東京さんの番組をたくさん使わせていただいたりもして。4話に登場するテレ東のバカカタというプロデューサーや、あと8話に出てくるエイベックスのバカズミとかも、ちゃんとモデルがいるんですよ」
福井「それと、本当に豪華な声優さんたちに出てもらったことも感謝しています。同じ赤塚先生の原作を元にした『おそ松さん』のキャストの皆様が本作にもご出演しているので、いろいろな意味で赤塚ワールドを楽しんでいただけたのかなと思ってます」
業界の枠を越えて
創り上げた
新たな時代のバカボン
改めて、関わるすべての人間が“バカボン愛”を持って取り組み、リスナーは毒を昇華させた一筋縄ではいかないギャグを堪能した本作。コンプライアンスを気にし過ぎて“安パイ”が蔓延るこの時勢、ここまでスリリングで何が起こるかわからないTV番組を見たのは久しく、それをアニメという娯楽で成し得た『深夜!天才バカボン』の意義は大きい。
福井「関わってくださった方々が、全員『ヒットをさせる』という思いを描き、同じ方向、同じ絵を見ている感じがあって、これが一体感だなと改めて思いましたね。1クールという短い作品でしたが、『またやりたいね』っていう話もスタッフ、キャストから聞こえてきましたし、『深夜!天才バカボン』を通して、チームの一員になれたことがとてもうれしいです。あとは大一商会さんがゲームのアプリを展開してくださったり、小学館さんはコミックと小説、エイベックスさんはまさかのキャラソングをリリースしてくださったり……普通は1クールの作品でそこまで急ピッチに進むことは無いので。みんながこの作品に対して前のめりになってくださった結果が今に繋がっていると思いますし、すごくいいビジネスモデルにもなったのかなと思います」
尾崎「例えば作中のアーティスト系のネタはエイベックスが担当して、漫画系は小学館さん、アニメ系はスタジオぴえろさん、芸能系はテレビ東京さんとか。それぞれの強みを生かしたことで成立した部分は大きかったです」
福井「何より、このタイミングで世の中に『天才バカボン』というコンテンツを提供できたことが一番大きなことだと思います。なかなか周年とはいえ映像化できることは少ないですし、そのプロジェクトの“ひとかけら”になれたことは自信になりました。型にはまらず作品の枠を越えて、さまざまなことが『できるんだ』と感じましたね」
最後に、個人的に好きな回を聞くと福井は11話「みなさん、さようならなのだ」を挙げた。そして、その11話にはある巡り合わせが隠されていた。
福井「11話は富田耕生さんに“パパのパパ”役で出演していただいたんですが、富田耕生さんは、僕がぴえろに就職して、始めて担当として携わったバカボンのパパ役を演じてくださった声優さんなんです。セリフを聞いた際は、胸に込み上げてくるものがありましたね」
一方で、尾崎が挙げたのは「個人的にキャラで一番好き」という本官がやりたい放題の最終回。そしてその最終回には、第1話ではイラストで登場していたYOSHIKIさんが、“本人役”で登場するビッグサプライズが待っていたのだった――。
深夜を舞台に、赤塚イズムに現代性を融合させ、最後まで伏線とファンの期待を回収した『深夜!天才バカボン』。名作の復活には賛否両論が付きまとうものだが、本作のチャレンジ精神を評価する視聴者の温かいメッセージと、情熱を持ってこのミッションをやり切ったふたりの顔を見れば、「これでいいのだ」と天国の赤塚先生も言ってくれることだろう。
(写真左)エイベックス・ピクチャーズ株式会社
アニメ制作グループアニメ制作グループ
第1制作ユニット
尾崎 源太
(写真右)株式会社ぴえろ
営業部
番組営業グループ
福井 洋平