赤塚不二夫の代表作『天才バカボン』が、没後10年を迎える今年、『深夜!天才バカボン』として復活。原作から51年の時を経て、細川徹監督によって新たに描かれるTVアニメ版は、7/10(火)から深夜1:35にテレビ東京ほかで放送が開始する。なぜ今、『天才バカボン』なのか? そしてなぜ、深夜に放送するのか? すでに公開されたPVからは放送ギリギリのネタも予想される本作の見どころと制作の背景を、アニメ制作会社・株式会社ぴえろの福井洋平氏と、エイベックス・ピクチャーズ株式会社・アニメ制作グループの尾崎源太に伺った。
没後10年。“赤塚不二夫ラバーズ”による
一大プロジェクト
昨年は『天才バカボン』が誕生してから50周年のアニバーサルイヤーとしてさまざまなイベントが開催され、今回のアニメが放送される2018年は、故・赤塚不二夫の没後10年。“ギャグ漫画の王様”を弔うには涙ではなく笑顔がふさわしく、今回のプロジェクトは、これまでも仕事を通じて信頼関係を築いてきた“赤塚不二夫ラバーズ”によって動き出した。
福井「元々、弊社はフジオプロさんと長い間、『天才バカボン』や『おそ松くん』でお仕事させていただいていまして。エイベックスさんとはしばらくお仕事の機会が無い時期があったのですが、2012年ぐらいに『しろくまカフェ』という作品で久々にタッグを組ませていただいて映像化しました。その作品のシリーズ構成と脚本を担当して頂いたのが、本作で監督・脚本を務めた細川徹さんです。弊社の上長とエイベックスさん、テレビ東京さんとで『何か面白いことやりたいよね』っていう話を度々していて、その流れから今の『深夜!天才バカボン』の企画に繋がっていきました」
尾崎「『天才バカボン』と言えば誰でも知っている作品だと思うので光栄ですし、誰でも知っているからこそ失敗できない。最初にお話を聞いた時は身が引き締まりましたね。エイベックスは30周年、赤塚先生は没後10年。タイミングはバッチリだと思います」
本作はフジオプロ、大一商会、テレビ東京、電通、小学館そしてぴえろらで製作委員会を設立。エイベックスもそこへ加わり、番組の宣伝や音楽面のサポートやビデオのパッケージ、dTVの配信等の役割を担っている。そして今回のプロジェクトは、本読みの段階から細川監督を中心にして皆でどんなストーリーにしようかと話し合い、そこには尾崎も参加した。制作にあたって一貫して共有していたのは、赤塚不二夫及び、『天才バカボン』への熱い想いだ。
福井「ずっと『天才バカボン』と『おそ松くん』を映像化したいという気持ちはあったんです。そうして、いろいろな方のお力添えのもと誕生した『おそ松さん』は、信じられないくらいの大ヒットとなりました。あの現象を見て、赤塚不二夫という存在が再評価されていると感じたんです。なのでこのタイミングで本腰入れて、『天才バカボン』を原作としたアニメーションを作ろうと思い、結果としてみんなの想いが着地したのが、今回の『深夜!天才バカボン』です」
尾崎「細川徹監督はさまざまなギャグ作品を手掛けていて、過去には『天才バカボン』や『レッツラゴン』等の赤塚作品も舞台化しています。こういう作品をお願いしたらピカイチの人なので、そういう意味では細川監督のクリエイティブを信じて、細川監督の船に乗って進んで行きました。この笑いが視聴者に伝わらないんじゃないか……という不安は無いです」
福井「この作品は、細川監督ありきで本当の意味でスタートしたんです。関係者一同が『赤塚先生が好き』という監督の想いに賭けました」
毒を薄めず、尖った部分を削らないための
“深夜”という決断
今回のアニメ化にあたり、最も肝となるのは“深夜”というキーワードだ。一般的に日本でファミリー向けのアニメが放送される朝や夕方の時間ではなく、深夜1時台という時間にこのアニメは勝負を賭けた。その背景には、制作サイドの意図と、策略と、希望が込められている。
尾崎「『天才バカボン』という作品はこれまで何回もアニメ化されていますが、深夜の放送はこの作品が初めてです。“天才バカボン×細川徹×深夜”という組み合わせは、これ以上無いほどのベストマッチングだと思います」
福井「朝や夕方に放送する場合、本作の尖った部分は出せないんじゃないかと思います。もちろん幅広い世代の人に見てほしいのですが、ギリギリを攻めていますし、それにちゃんと面白いものを作れば今の若い子たちは見てくれる――そんな信頼感もあります。本当に表現したいものが薄まってしまうのなら深夜で、その決断は自然なものでした」
放送前に公開された第一弾PVでは、パパが「BPOなんて関係ないのだ」と言い切ったと思えば、バカボンが「良い子は見ちゃダメだよー」と助言。すかさずママが「深夜だから出来ることがあるのよ」とフォロー……というハチャメチャっぷり。数分の映像を見ただけで、『天才バカボン』へのノスタルジーと、これから始まるエポックメイキングな作品への期待感を煽られる。
尾崎「とにかく視聴者に楽しんでほしいのが一番。――皆がそういう想いで作っていきました」
福井「ギャグの王様が作った作品とキャラクターなので、強要しなくてもきっと笑ってしまうと思うんですけど、毒が乗っかった瞬間、一気に新しい赤塚ワールドが広がると思います」
ただし、毒のある言動も『天才バカボン』の世界のキャラクターなら許される。というか彼らにしか許されないのかもしれない。それこそ赤塚不二夫が生み出したキャラクターの不思議な魅力だ。
そして今回、PRに関しても一般的なアニメとは異なるやり方を採っている。
尾崎「アニメってPVを出して、ビジュアルポスターを出して……みたいな定型があるんですが、今回は一発目のティザービジュアルで顔を出さないとか、放送直前にもいろいろな仕掛けを準備しました。そういう部分は今までのアニメでも珍しいことなのかなと思います」
福井「原作の世界観は踏襲しながらも、ストーリーは新しくなっており、視聴者は放送を観て初めて『こんな話なんだ!』と気づく。原作ありきなら事前に言ってしまってもいいんですが、本作は放送がファーストコンタクトなので、お話の内容を全部言ってしまうと視聴者の楽しむ要素を奪ってしまうんです。なので事前の情報は最低限にしつつ、ビジュアルや音楽等にこだわりました」
リアルタイムで観ることの価値と
ギャグアニメの証明
深夜の放送――それは一見、大博打のように見えるが、作品の魅力を最大限に発揮するためのこれ以上ない戦略。さらにそこには、アニメおよびTV業界、そして視聴者へのメッセージ性も隠されている。それは現代で忘れかけられている、“リアルタイム”で観ることの価値だ。
尾崎「Twitterとかで事前にアニメの情報を知るよりも、ぜひリアルタイムで観てほしいですね。リアルタイムで観ていただければ、いろいろな笑いや驚きを共有できると思うので。」
福井「時事ネタとかもいろいろ出てきます。『これ深夜!天才バカボンとは全然関係ないニュースだろうな』と思っていたら、実は全部バカボンに絡んでる……みたいな感じになってほしいですね。」
この作品が放送後に巻き起こす騒動の大きさを、現時点では予想できない。ただひとつ確かなことは、『深夜!天才バカボン』は、ギャグ漫画及びアニメが日本にもたらしてきたものと、日本が誇るこのコンテンツが海外でも通用することを私たちに教えてくれるだろう。
福井「今回の作品を通して、改めて『ギャグアニメもいけるんだ』っていうのは証明したい。海外でも人気のアイドルや“萌え”とは違って、ギャグアニメは中々広まりづらい部分があると思います。売れている作品も限られていて難しいジャンルなんですけど、この作品を通じて、ギャグアニメはおもしろいということを海外にも伝えたいですね」
尾崎「エイベックスとしてはタグラインである“Really! Mad+Pure”という言葉もあるように、マジメにバカなことをやりたい。ものづくりをしている以上、中途半端なことをしても面白くないですし、この作品でやりたいことと、会社が掲げていることは合致していると思います」
メディアを始め規制が増え、当たり障りの無い表現が蔓延した昨今。受け取る側の「まあこういう時代だしね」という諦めの姿勢も当たり前になりつつある。そんな現代に突如復活した『天才バカボン』のキャラクターたちが発する言葉は、毒も棘も含めて、何周か回って気持ち良く僕らの心にすんなりと入ってくるのではないだろうか。そしてリアルタイムで観た視聴者は、ほくそ笑みながら心の中で、「よ! バカボン!」と声を上げているかもしれない。
(写真左)エイベックス・ピクチャーズ株式会社
アニメ制作グループ
第1制作ユニット
尾崎 源太
(写真右)株式会社ぴえろ
営業部
番組営業グループ
福井 洋平