今年で17年目を迎えた「a-nation 2018 supported by dTV & dTVチャンネル」。“ヒールで行ける”フェスという、ロックやヒップホップ、ダンスミュージックに特化したフェスとは違う、都市型で参加するオーディエンスが街中と同じように自由なお洒落で参加できるポップ・ミュージックのイベント。今年は原点回帰の意味も含め、他のフェスにはないサーキット形式で、東京、大阪、長崎の3会場での開催(三重は台風12号の影響で中止)に、各地のファンの歓迎ムードも大きかった。30周年を迎えたエイベックスが、もっとも「らしさ」を発現するa-nationは、どんな未来志向のフェスを今年実現したのか。東京公演の初日に当たる8/25(土)をレポートする。
豪華アーティストが集結。
エイベックスヒットを継承する、
圧巻のパフォーマンス
事前インタビューでa-nationを総括する山中昭人が「日本には他にも色々なフェスがあるが、a-nationは他とは全く違うキャスティングで、なおかつポップフィールドに振り切っている」と、顕著な特徴を挙げていた。その言葉通り、今年も独自のラインナップが実現。
この日のヘッドライナーはa-nation4年ぶりの出演となる東方神起。海外アーティストとして初の1ツアーで100万人を動員するアーティストパワーはこの日も健在。幅広い世代のファンが詰め掛けていた。フェスとはいえ、立体的な可動式のセット、カメラ目線の二人のアップがビジョンに映し出されるたびに上がる歓声と悲鳴。巨大な会場の複数のカメラを狙えるアーティスト自身と、スイッチングが結晶した演出でスタジアム全体が大いに湧いた。
a-nationのコンセプトとして、ヘッドライナーの音楽性やパフォーマンスを好きな観客に訴求する新世代を同日に出演させるという意味では、日本・韓国・中国・アメリカ・カナダなど、多国籍なメンバーが在籍し、グローバルな展開を見せる男性グループNCT 127のオープニングでの出演は観客にライヴの魅力を証明する機会になったはずだ。
また国内勢ではすでに日本武道館公演を成功させたDa-iCEや、アルバム&シングル14作品が連続してオリコントップ10にチャートインしている超特急など、幅広い男性グループの旬を見ることができた。
また、自社アーティスト以外のアーティストもキャスティングし、1日のテーマをさらに豊かにするa-nation。昨年グループとしての活動を再開したCHEMISTRYの出演は、男性ボーカル&ダンスグループが多彩に揃ったこの日の中でも、R&Bを起点に進化を遂げるボーカルグループの今を観客に確実に届けたはずだ。男性デュオでは、C&Kのステージも楽しめた層が多いのではないだろうか。
男性グループが多かったこの日のラインナップの中で、異色とも言える存在感を示したのは、“楽器を持たないパンクバンド”BiSH。さらに、近年のレパートリーに加え、「LISTEN MY HEART」など、00年代のヒット曲も交えたBoAのステージでは、エイベックス・ヒッツの存在感も実感できた。
昨年、LISAが15年ぶりにグループに戻り、3人体制では初出演となったm-flo。彼らのヒット曲「come again」は、20年近い歳月を忘れさせる。ダンスミュージックをポップフィールドに浸透させてきたエイベックスの本質が見えるような3人体制でのa-nation出演は、このレーベルが果たしてきた音楽的貢献も実感させたのだった。
エイベックスヒットの継承は、新世代アーティストがカバーする「NEW REVIVAL」企画。これまでは配信音源やミュージックビデオで話題を集めていたが、今年のa-nationでライヴパフォーマンスも行った。参加アーティストはlol、加治ひとみ&FEMM、Beverly、Yup’in、FAKYの6組。lolがTRFの「EZ DO DANCE」をカバーするなど、オリジナルアーティストと次世代アーティストのスタイルがうまく組み合わせられていた。
さらに彼ら「NEW REVIVAL」にピックアップされた6組のアーティストビジュアルやメイクなどビジュアル面をコスメティックブランド「M・A・C」がサポート。スタジアム外のブースでは6組のアーティストをイメージした新色リップのプロモーションを兼ね、プレゼントが当たる施策を打っており、ニューカマーの訴求を女性が見逃せないコスメとのコラボで魅せるあたりも、エイベックスらしい立体的な展開と見た。
ユニークな仕掛けが各所に。
出展ブースにも見られる
a-nationイズム
「M・A・C」など、ビューティーやインナービューティー寄りのブースはa-nationならではで、ヘアアレンジにも長蛇の列ができていた。フェスといえばネイチャー、ナチュラル寄りの出店が多いが、味の素スタジアムでは街の延長線上のブースが多い印象だった。中には涼風が吹くパウダールーム・エリアもあり、あまりにも酷暑だったこの日でも、メイク直しを諦めない女性がかなりいたのは、a-nationらしい光景だった。普段より少しおしゃれして、フェスというよりコンサートに行くつもりで参加できるa-nationイズムは各所に散りばめられていた。
さらにユニークだったのがゴミの分別を行うECO STATION。スタッフが「ゴミとリボン交換しますよ」と、他のフェス会場のゴミの分別場では見られない方法で、企業ブースやフードコートが同居するエリアは清潔に保たれていた。この手法は非常に新鮮で好感が持てたが、フードやドリンクの消費量がさらに多いフェスでも可能かどうか、試す価値があると感じられた。
会場では『dTV & dTVチャンネルブース』も設置。東京公演はNTTぷららとNTTドコモが共同で運営する映像配信サービス「dTVチャンネル」において、3次元サウンドの立体音響技術「ドルビーアトモス」音声で生配信された。この取り組みはなんと国内初。今回はこのブース内で「ドルビーアトモス」の音声を体感できるタッチ&トライを実施し、多くのファンが長い列を作っていた。当日の出演アーティストのサイン入りグッズが当たる抽選会を同時に実施し、ブースに訪れたオーディエンスのほとんどが抽選会とタッチ&トライに参加していたのは、好企画だったと言えるだろう。
テクノロジーを用い、
体験価値を拡張する
フェスの現場でテクノロジーを使って、前述の「NEW REVIVAL」アーティストたちがARキャラクターになって登場するa-nation AR専用アプリは、次世代アーティストのプロモーションとしてはユニークな施策だが、実際に現場でアーティストの拡張現実を試していた人もいただろう。夕刻以外はビッグアーティストが続き、スタジアムはアリーナもスタンドも満員で、ライヴに集中している観客がほとんどだったなかでも、プロフィールが掲載されたパンフレットと連動した形で、アーティストの個性が楽しめるツールになったのは間違いない。
また、メインステージとコミュニティステージの両方でライヴが展開され、転換にほぼ時間を要しない連携の良さと、どのアーティストも初見の観客でも見所を凝縮したセットリストなど、これまでの16年で培われた、ノウハウと高い知名度を誇る楽曲群も、ポップ・ミュージック中心の夏イベントというa-nationのオリジナリティとして、他のフェスやイベントにはない特徴に映った。
30周年を迎えたエイベックスが世の中に送り込んできたヒット曲やアーティストカラーを次の世代に伝えるという試みとともに、次世代アーティストのレコメンドを最新テクノロジーであるAR専用アプリを使って行うなど、a-nationはこれまでのa-nationを超えていく、そんな現実的な施策が印象に残った今年。一方で、出演アーティストが参加のモチベーションになる巨大ライヴイベントであり、気軽に参加できる都市型フェスという不変の部分も併せ持っている。
また、今年は東京公演をdTVチャンネル、大阪公演をdTVでライヴ配信したことも、サポート企業との協業で、話題を呼んだアプローチとなった。世界のフェスでトレンドとなっているライヴ配信だが、a-nationにおいては、大阪公演の配信を見たファンが東京公演への期待値を上げていたり、今年は現地へ行けなかったファンは、いわゆる“お家フェス”を高画質・高音質で楽しんでいたようだ。
観客にとってはフェスでありつつ、凝った演出や新たなテクノロジーで魅せるステージ、そしてエイベックスや協賛企業にとっては、ライヴはもちろんそれ以外の施策でのテクノロジーを試す場所である。a-nationはその年の出演アーティストが象徴するエイベックスらしい音楽やパフォーマンスを更新し続ける場であり続けそうだ。