楽曲の著作権管理に始まり、プロモーションや国内外の契約作家との楽曲制作、さらにはアーティストやレコードメーカーへの楽曲提案などを行なうエイベックス・ミュージック・パブリッシング(以下、AMP)。「音楽出版社」とはどんな存在で、どのような仕組みなのか。レコード会社との違いや、エイベックスの音楽出版社としての強みはどこにあるのか。今回、AMPの廣瀬麻衣、原田幸美、末房直樹の鼎談を実施し、音楽出版社や著作権といったキーワードを紐解いていきながら、AMPが目指すビジョンについて語ってもらった。
「著作権管理」に留まらず、活躍を広げる
音楽出版社・AMPが取り組む3つのミッション
まずAMPは、エイベックスの音楽出版事業を担う会社として2010年に設立。その主な目的は、レコード会社として数々のヒット曲を生み出してきたエイベックスが、それらの楽曲における“著作権”の管理を自社で行うことにあった。
一般的に音楽出版社とは楽曲の作者からその音楽著作権を預かり、JASRAC、NexToneなどの著作権管理事業者に届出を行う。著作権管理事業者から分配された印税、収益等を権利者に分配することを主な役割としている。
一方で、AMPの場合は著作権管理だけでなく、楽曲の利用開発や楽曲の制作も行う。AMPが現在手掛けている業務は「著作権管理」に留まらないという点が、今回の鼎談の肝になる部分だ。
AMPの業務は大きく分けて、以下の3つに分類される。
- 「著作権管理」:国内作家との著作権契約、海外出版社との契約、著作権管理事業者への各種届出及び契約者への分配
- 「楽曲の利用開発」:管理楽曲をニーズに合わせてプロモーション
- 「楽曲の制作」:国内外の作家と楽曲制作を行いアーティストやレコードメーカーへ提案
国内楽曲の「著作権管理」を主に担当するのが、国内ユニットの末房だ。
末房「著作権は、誰かに楽曲を使ってもらうだけではその対価を得られません。AMPが作家と著作権契約を結び、JASRACやNexToneといった著作権管理事業者に対して届出を行うことで、その対価を得ることが出来ます。そしてその楽曲がさまざまなシーンで利用されることでJASRACやNexToneにより徴収された楽曲の著作権使用料をAMPが受領し、漏れなく正確に、正しい形で作家に分配します。この契約から届出、そして分配までの一連の管理を行っています」
また、外国楽曲の「著作権管理」を担当するのが国際ユニットの原田だ。
原田「国内では、権利者と直で契約して著作権管理を行いますが、外国曲に関しては基本的には海外に権利者がいて、作家本人または海外の出版者がその権利を管理しております。日本で外国曲を使いたい場合には海外の権利者へ直接問い合わせる必要があり、権利者からの許諾を得ることのハードルがとても高くなってしまいます。その場合、私たち国際ユニットは海外のオリジナルパブリッシャーから楽曲の権利をお預かりし、日本においての窓口となり楽曲を代理で管理しております。末房が担当する業務は原出版者という意味で“オリジナルパブリッシャー”と呼ぶのに対して、私たちが担当する領域は“サブパブリッシャー”と呼ばれています。私たちのようなサブパブリッシャーが管理している楽曲であれば、外国曲であっても窓口が日本にあることから、使用者が安心して使うことができ、海外権利者にとっても許諾のハードルによる機会の損失を避けることができます」
ただし、国内や海外の楽曲を管理するだけではなく、より多くの人に聴いてもらい、利用してもらうためには、運用する必要がある。そこで「楽曲の利用開発」や「楽曲の制作」を担当するのが権利開発ユニットの廣瀬だ。
廣瀬「カバー・コマーシャル・ゲーム・映画など、さまざまな形を通してメディア・企業・広告代理店などに楽曲のプロモーションを行っています。過去にエイベックスからリリースされた楽曲を例にあげると、20年以上前にリリースされたTRFやglobeなどの楽曲は今でも楽曲の利用開発においてニーズがあり、ここ最近は特にコマーシャル、映像作品、カバー案件、さらには海外からのオファーも多くなっていますね。加えて、海外の作家に対してもAMPから楽曲制作のオファーをし、そこから生まれた楽曲を各レーベルに積極的に売り込む(通称“ピッチング”)ことも私たちの大事なミッションのひとつです」
作家の権利を守るチームと、その可能性を広げる
「ワンストップ×多角的」がAMPの強み
“音楽出版社”や“著作権”と聞くと、守ることがベースの仕事内容をイメージするかもしれない。ただし、ここまで話されている通り、その内容は運用から創作まで多岐にわたる。
廣瀬「私たちの業務は著作権を守るだけではなく、そこから楽曲をさまざまな形で運用できるようにプロモーションをしています。さらには、作家と共に時代のニーズに合った新たな楽曲を生み出す創作活動まで多岐に渡ります。新しい楽曲を生み出して、自ら出版権※を持った楽曲を増やしていくという動きを、今まさに注力して取り組んでいるところですね」
※出版権:権利者から音楽出版社が著作権を預かり、管理してプロモーションなどの販促活動ができる権利。
AMPから作家へ働きかけ、レーベルが求める楽曲を共に制作する。その楽曲制作の部分は、多くの方にとって音楽出版社のイメージから飛躍する部分かもしれない。
「そこが難しさであり面白さ。実際にリリースが決まったときの喜びはすごくあります。そしてその先に目指すのは、ここで生み出された楽曲が多くの方に認知され、長く歌い継がれていくような“スタンダード楽曲”になることが私の夢ですね」と廣瀬は語る。
楽曲が多くの方に認知されるためのエイベックスならではの強みはどこにあるのか。
末房「まず国内においては、エイベックス・グループに所属しているアーティストが多数いることが大きな強みになります。そのアーティストが露出することで楽曲の認知度を広げられるからです。さらに利用という部分に関しても、タイアップを獲得するためのチームもエイベックスには存在するので、テレビ・コマーシャル・広告などに使用して頂く機会が増やせることも特長です。またライブを制作するチームや音楽配信を行う会社もグループ内にありますので、360度の多角的なプロモーションを展開することができます」
原田「昨今の楽曲は国内の作家一人で制作するケースは少なく、海外の作家も参加している“内外混在”の楽曲が多いです。例えばその楽曲をDVDや配信などの映像コンテンツで使用したい時、本来であれば煩雑になる楽曲の権利処理も、AMPが100%管理している楽曲では国内・海外それぞれを担当する部署があるので、スムーズに完結できる事が大きなメリットです」
廣瀬「あと、CD音源をBGMとしてお店で流すなど、商用利用として楽曲をそのまま使いたい場合、AMPには出版だけではなく原盤※の窓口もありますので、出版・原盤をワンストップで処理できてしまうのはエイベックスならではの大きなメリットでスピーディな権利処理が可能です。さらにAMPは、膨大な数の案件を抱える外資系レーベルとは違って国内のインディペンデントな出版社なので、ひとりひとりの作家さんに対してより細やかなケアができる点も強みと考えています」
※原盤:楽曲が完成した際に作成された、いわゆる「マスター音源」のこと。
現在、AMPでは3万に及ぶ楽曲を管理し、数千単位で毎期増え続けている。その中にはAMPのメンバーが発掘し、日の目を見た楽曲も存在する。
原田「例えば、どこかで聴いていいな、と思った海外の楽曲のタイトルを検索して楽曲の権利が日本でサブパブリッシャーにより管理されていないことを発見したら、作曲者にコンタクトを取って契約をすることも可能です。何年か前に、個人的に好きなフィギュアスケート選手のプログラムで使われていた楽曲がすごく良かったので調べていたら、その権利が日本ではサブパブリッシャーに管理されていなかった。そこからフィギュアスケートの大きな大会が続く時期だったので、放送までに契約できれば発生する利益をすべてAMPが回収できて、権利者に分配できるというタイミング。すぐに権利者にコンタクトを取り、契約を締結することで、日本国内での露出が一番多いタイミングで楽譜出版まで展開することができ、権利者にもとても喜んでもらえました。ものすごく、この仕事のやりがいを感じましたね」
著作権にまつわるルールづくりにも参画
臨機応変な音楽出版社を目指して
レーベルがアーティストに相対する存在だとすれば、出版社は作家に相対する存在。その作家の権利を守るチームと、その可能性を広げるチームがAMPには存在し、さらには他社の楽曲の担当を手掛けることも珍しくはない。そういった例を取っても、AMPのアクションは自社のことだけではなく、業界全体のことを考えた姿勢が根底にあることが伺える。
原田「メタバース内での楽曲の取り扱いについてや、AIが作曲した楽曲に対して著作権を与えるか与えないかはいま議論中です。このような新しい技術におけるルールはまだ明確に決定していないことも多く存在します。そういったルールづくりにも、AMPとしては参加していきたいと思っています。例えば現状、各社の音楽著作権部門の方たちが集まり、問題解決や新たな領域に対しての研究へ取り組むMPA(音楽出版社協会)の各委員会や研究会にもAMPのメンバーは参加しています。そういった業界の基盤となるところにも積極的に参加して、自分たちが権利を守っていく上で大切なルールを作るところから一緒に携わっていきたいと考えています」
末房「新しいものへアプローチしつつも、並行して取り残している部分もしっかりとケアしていきたいと考えています。実際、世の中では著作権に関する認識がまだまだ少なく、意図せず無断で楽曲を使ってしまっているケースも多い。正しい理解を広めるための方法やプロセスは、我々としても日々考える必要があると思っています」
廣瀬「臨機応変な対応ができる音楽出版社になりたいと常々考えます。対価を得るべきところはしっかりと得て、得なくてもいいところには自由度を持たせる。そうすればもっと多くの方が楽曲を使えるようになりますし、作家さんにとっても幅広い層へアプローチできるという可能性も含めて、メリットがあると思っています」
著作権と聞くと、難解なイメージがあったことは否めない。それはエンタメ業界に携わる人間ですらそうなのだから、一般の方からしたらなおさらだろう。
ただし、今回のAMPのメンバーのように、「楽曲を生み出した作家のため」「楽曲を使いたい利用者のため」という想いでさまざまなアクションに取り組んでいることを聞くと、著作権にまつわる“ある種のネガティブさ”が自然と払拭されていることに気づいた。彼らは今後も、エイベックスの強みである事業幅の広さを生かしながら、今の時代に合った新しい音楽出版社としての存在意義を確立させていくだろう。
(写真左)
エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社
国内ユニット
末房 直樹
(写真中)
エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社
権利開発ユニット
マネージャー
廣瀬 麻衣
(写真右)
エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社
国際ユニット
チーフスーパーバイザー
原田 幸美