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2018年9月、エイベックス株式会社と株式会社エクシヴィは、VTuberとVRを活用し、新たなアニメ表現を追求する「AniCast Lab.」の設立を発表。エクシヴィの持つVR技術とエイベックスの持つIP(知的財産権)、そしてエイベックス・ピクチャーズやFLAGSHIP LINEの持つアニメ制作のノウハウを組み合わせ、次世代のアニメーションコンテンツを生み出していく。その意義や取り組みについて、2回に分けてインタビューをお届け。第1回は、エイベックスの岩永・大山の両氏と、エクシヴィの代表取締役を務める近藤義仁氏に話を伺った。

アニメ業界の“民主化”と、
トライ&エラーを目的としたラボ

VRによる直感的なアニメ制作を通して、“今までにない新しいアニメの作り方の概念”を目指して設立された「AniCast Lab.」。従来のアニメに比べ、短期間かつ少人数でコストを抑えながらアニメを作ることができる——業界にひとつのパラダイムシフトを生み出すこの取り組みは、配信も可能なVRアニメ制作ツール・AniCastの誕生に端を発する。

岩永「近藤さんとは元々お付き合いがあって、いろいろな取り組みをしているのは知っていました。あるときに『SHOWROOMでこういうことをやる』というのを聞いて『そんな技術があるんだ!』とビックリして。近藤さんがいろいろ持っているプロダクトの中のひとつが、AniCastだったんです」

そもそもAniCastは、エクシヴィのディレクター・室橋の外に出すつもりのなかった“個人研究” のプロダクトが元になっている。ただその技術とプロダクトは、外に出さないのは惜しいほどに完成していた。そして、それが世に出たときの反響は予想以上だったという。

近藤「僕はもう慣れちゃっていたので、『みんなそんなに驚くの?』みたいな感じでしたが、いろいろなところで好評価をいただけたので、これで良かったんだなと。ただし、そのころから野望はあって、VTuber向けのツールというよりはアニメを製作するツールを目指していたんですよね。今回のAniCast Lab.はそれを発展させるもの。それがエイベックスさんも含め、いろいろなクリエイターさんと一緒にやることで実現できると思ったんです」

岩永「寝かせた分、タイミングも合ってさらに注目度も上がった。いい技術っていろいろあると思うのですが、それをどう使うかをイメージできないことって結構あるんですよね。VTuber及びアニメ業界の中で、『こういう技術のアプローチもありなんだ』となってきたのが大きいと思います」

もともと知り合いだったとはいえ、AniCast Lab.の設立にはどこか必然性を感じる。岩永も「発表とか関係無しに『やろうよ』みたいな感じはあったんじゃないですか」と当時を振り返る。

岩永「これといって何かが決まっていたわけではない段階でも、『次世代のアニメって何だろう』みたいな話はしていて。大山含め、クリエイターたちがエクシヴィさんに出入りしていたんです」

大山「僕はエイベックス・ピクチャーズでアニメ制作をやっているのですが、新しいアニメの表現が出てきたということで、プロデューサーはもちろんクリエイターもエクシヴィさんにお邪魔して、それこそ話が盛り上がって8時間とか長居させてもらったこともありました」

岩永「アニメ業界の人が面白いと思ったことがひとつのキーになって、一緒にこの技術を一般の人でも簡単に使えるように“民主化”しようと。だったらいったん収益は置いて、みんなでトライ&エラーをしよう——そこからラボという形に繋がっていきました」

時代の波とAniCastの機能を
マッチングさせてIP創出

AniCast Lab.のアニメ撮影は、実際に映画を撮っているような直感的なインターフェースが特徴。それは平面をベースにした従来のアニメの作り方の概念を変えるものだが、これまでのやり方に異を唱えることが目的ではない。

近藤「我々は従来のアニメの表現やお作法を入れていくことも目指しています。今までのアニメを観ていた人も、違和感無く観られる。それはひとつの着地点としてあります」

大山「YouTuberやVTuberのように、個人で映像が作れるようになってきている流れがアニメにも来ると思います。テレビとYouTubeの表現の仕方は違うと思いますし、実際にそれを従来のアニメーションに慣れていた作り手がやってみて、どういうアウトプットになるか……というのが今の状況です」

岩永「エイベックス内においては、世の中でVTuberの波が来ていたことは追い風となりましたが、その後の市場は全く見えなくもありました。ただし、AniCast はVTuberが出るアニメかというと、それだけではない。時代の波とAniCastの機能がマッチングしたことが大きな決め手となりました。会社としても、IPを創出することをひとつのビジョンとして抱えていますので、それにも合っていたんです」

VTuberの波はあったものの、エイベックス内ではさまざまな音楽のアプローチも含め、動きが乱立。その中の一つの出口としてラボを形作っていった。

岩永「外部も含めてトライ&エラーでまずやってみようと。そうしないとプロダクトにフィードバックもできないですし、やっぱり新しいものに対してマネタイズだけを重視してしまうと、良いものが瀕してしまうので。一側面からではなく多重側面から見れば『こっちは使えるよね』っていう発見がある。そのときにアイデアの数やトライできる角度が多い方が圧倒的にいい。それにはラボという形がぴったりだったんです」

近藤「技術としてもうすでにあったものを、『こういう技術を使う時代が来るだろう』と思いながら、出口を探していました。次にAniCastで作っているのは、VR空間にカメラマンさんとか照明さんとかが入って、映像を撮れるコンテンツ。つまり、実写で撮るやり方とのハイブリッド。映画制作のやり方でアニメが作れるんです。そうすると、実写系をやっていたような畑の違うクリエイターもアニメの世界に入ってきて、斬新なカメラワークの作品を作るかもしれない」

岩永「『これだったらできる』って思ってくれても、それをやるための機材が2000万円とかしたらやっぱり敷居が高くなってしまう。そうじゃなくて、一般の人でもできる仕組みを作った中に、市場が広がる原理は必ずあるはずなんです」

VRネイティブ世代
の登場により、
新たな職種が誕生する

アニメが好きな若者の中には、「どうすればこんなアニメ作れるようになるんだろう」と考える子もいるだろう。ただし、どういう技術を身につければいいのか、どこかの制作会社に入ればいいのか……そのハードルの高さに、淡い希望が消えてしまうことがこれまではあったかもしれない。

大山「この先、ひとりでアニメや映画を作る子が出てくると思いますよ」

近藤「実際、今ってパソコンを使って曲を作る人も多いじゃないですか。でも昔はパソコンが無かったからギターを弾いたり、ピアノを弾いたりして録音していたわけで。でもコンピューターの登場によって、いろいろな人が作曲家になれた。さらに歌が歌えない人はボーカロイドを使って、初音ミクに歌ってもらうことだってできる。それと同じだと思います。コンピューターが人間の力をアシストしてくれて、VR技術を使ってより直感的に制作ができる。そこがVRを広めるにあたってキーになるのかなと」

岩永「実際にやってみると直感的な部分はすごく感じます。結局、作るのにトレーニングがいるものって、やっぱり学校とかに通ったり、道具が必要だったりする。それに3次元のものを2次元で作るときには、プログラミングなどでしか構造が表現できない。ただし、エクシヴィさんの技術は何かモノを置くときも、あまり考えなくていい。数字とか座標がどうとかを気にしなくて、感覚でアニメなどの映像が作れる。それは『小中学生とかでも作れるんじゃないか』と思うほどです」

近藤「今まではマウスをカチカチやっていたものを、これからはVR空間でできるわけですから。そもそも3次元空間のものを平面モニターで作業するのはすごく大変なんですよ。VR技術を使えば3次元空間に入って、それを直感的にできる」

AniCast Lab.の技術・製品・仕組みによって、これから先、新たな才能が生まれることは確定事項と言っていいだろう。それは特に、若き才能だ。

岩永「新たな職種が生まれるんじゃないかと思っています。VTuberも少し前までは無かった。このテクノロジー、プロダクトを使った新しい仕事が生まれるでしょう」

近藤「新しい仕事が創出されていくし、全然違う才能が開花することも考えられる。僕は“VRネイティブ世代”が現れると思っています。それに小学生とかの若い世代には先入観が無いし、VRに対して柔軟かもしれません。オトナの方が斜に構えてしまうので」

AniCast Lab.の大義は、既存の手法や形式を破壊するものではなく、新たな技術で未知の才能を発掘し、次世代に繋がるアニメ表現の可能性を創出することにある。総じてそれは、日本のアニメ及びVR業界の底上げに繋がるはずだ。第2回のインタビューでは、AniCast Lab.への参画が決定したGugenkaの三上昌史氏も登場。Gugenkaが手掛ける“東雲めぐ”のプロジェクトに迫っていく。

(写真左)
エイベックス・ピクチャーズ株式会社
ゲーム事業推進室
ゼネラルマネージャー

株式会社anchor
代表取締役社長
岩永 朝陽

(写真中)
株式会社エクシヴィ
代表取締役社長
近藤 義仁

(写真右)
エイベックス・ピクチャーズ株式会社
アニメ制作グループ
ゼネラルマネージャー

FLAGSHIP LINE株式会社
代表取締役社長
大山 良

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