エイベックスのシナジーを活かして
挑戦し続ける、
アニメ・映像業界の“異端児”API
【前編】

2024年、設立10周年を迎えたエイベックス・ピクチャーズ（API）。アニメ・映像業界にとって激動の時代と言われるこの10年間を、APIはどんなチャレンジとともに生き抜いてきたのか——前回の記事では、APIを作り上げた社長3人の鼎談をお届けした。

今回は、APIのなかで大別される「アニメ領域」と「映像領域」における、これまでの多様な挑戦の軌跡を辿る企画の前編。

本記事では、APIの「アニメ領域」を代表する作品の一つであるオリジナル作品「Paradox Live」にフォーカスし、これまでを振り返ってみたい。

エイベックスにしかできない展開の広さと
クオリティ「Paradox Live」

APIのなかでも株式会社エイベックス・アニメーションレーベルズ（AAL）が主に手がける「Paradox Live」は社内、グループ内のシナジーを最大化させながら、プロジェクト全体の多角的な収益化とプロジェクト展開の迅速化を実現しているのだという。

同作は、“HIPHOPメディアミックスプロジェクト”を掲げる作品群。CDにパッケージされるボイスドラマと本格的なHIPHOP楽曲をプロジェクトの軸としながら、360°のメディアミックス展開がなされているのが大きな特徴だ。

「アニメ化や舞台化、出演声優による音楽ライヴ、コミカライズ、ノベライズ、MD、そしてライヴ映像を再編集して劇場で上映する企画など、多岐に渡った展開をしています」

そう語るのは宣伝部門の村田奈津実。Paradox Liveの立ち上げの頃から同作の宣伝に携わっている。

村田「メディア露出も様々行ってきました。テレビでの連載特集やラジオ、アニメ誌や音楽系の雑誌にもプロジェクト始動初期から多数取り上げて頂いています。」

アニメ制作部門で同作のアニメ版のプロデュースや音楽面のプロデュースに主に携わっている浜田真里亜は、このプロジェクトを立ち上げた生みの親のひとり。

浜田「パラライの発端となる企画を耳にした時、とても面白いと思って、自ら進んでプロジェクトに関わりたいと直談判したことを覚えています」

この作品が、関わる人の強い熱量とともに成長してきたことがうかがえるエピソードだ。そしてここからParadox Liveプロジェクトチームの奮闘と躍進は続いていく。

倉島「360°展開をしていくにあたって、エイベックスを活用しました」

現在、浜田とともにParadox Liveのプロデューサーを務める倉島洋一は、エイベックスが手掛けている幅広いチャネルを存分に活かしていると語る。

倉島「たとえば、エイベックスのMVディレクターにもMV作成に携わってもらったり…」

浜田「Paradox Liveにとって大事な投票システムをつくってくれたのはエイベックス・デジタルだし」

村田「ライヴも社内を中心に制作されていますね。 AALのライヴチームが手掛けてくれています」

倉島「アニメのライヴシーンで用いるモーションを撮ったのはバーチャル・エイベックスでしたし。かなりエイベックスを活用してますね」

村田「音楽面では、2020年にISSA、倖田來未、SKY-HIをはじめとする超豪華アーティストの皆様とParadox Live 各チームがfeaturingする企画もありましたが、同じグループだからこそ実現させて頂けたことだと思っています。」

浜田「Paradox LiveはAPIの数ある作品の中でも、エイベックスの中で調達しているものが多いと思いますね。ただそれは、社内のほうが楽だからではなくて、クリエイティヴの方向性の理解度などを踏まえると社内でお願いするのが最適解だった、ということです」

エイベックス・グループが擁する多様に特化した各専門部署に支えてもらいながら、同作は多くのファン（Paradox Liveではヒップホップファンを指すスラングを用い「ヘッズ」と呼ぶ）を様々な方法で熱狂させてきた。

そして同時にもうひとつ特徴として挙げられるのは、その幅広いコンテンツ展開を支える、クリエイティヴへのこだわりだ。

浜田「ビジュアル面もこだわりました。楽曲のジャケット、MV、衣装やヘアメイクまでひとつひとつがおしゃれでかっこいいと思ってもらえるものを目指しています。また、ここにエイベックスらしさがあると私は思っていて、音楽面でもアニメファンだけでなく生粋の音楽ファンも本気で喜んでくれるような楽曲をつくることが基本姿勢です」

村田「新規でParadox Liveを知ってくれる人達も、たまたま耳にした音楽が気になって調べてみたら作品に辿り着いたというように、入口が音楽きっかけだったという人はとても多いです。」

オリジナル作品ならではの自由度で
創出する多様な推しポイント

Paradox Liveのように、オリジナルで制作されている作品で勝負する意義はどんなところにあるのか。

倉島「オリジナル作品は生みの苦しみはある一方で、何かおもしろい施策やチャレンジを試したいと考えたときに、実現できる自由度は高いです」

浜田「何か判断が必要なときに、大切にしているのは自分自身の感覚。私もパラライのヘッズとして、自分ならこういうグッズがあったら嬉しいなとか、そういう感覚を大事にしています。作品の世界観に憧れをもって接してもらうために、『なんだこれは！すごい！』という驚きと、『そうそう、これこれ！』という安心感。その両方を、自分たちの感覚を信じながら世の中に届けています。そこは我々としてもすごくやりがいを感じている部分です」

自分たちの感覚を信じ、また、ファンが求めるものを驚きとともに手渡していく。しかもそれを幅広い嗜好のファンたちに愛してもらおうという姿勢が、Paradox Liveの世界観にさらなる深みを持たせている。

村田「作中で行われるバトルは、ステージの魅力で競い合うものです。登場する全チームが、それぞれの音楽性を明確に持って勝負しています」

浜田「各チームが、ヒップホップの中でも違うジャンルの音楽をやっていて、例えばグライムやトラップ、ジャジーヒップホップ、あるいはミクスチャーがあったり、それぞれのアーティスト性を強めていくことに特にこだわっています」

作中で聞こえてくる楽曲の多様性は、多様な「推し」を許容することにもつながっている。あるチームの楽曲には熱狂的だが別のチームの楽曲は聴かない、というファンも少なくないのだとか。しかしそのぶん、ひとりひとりのファンが作品に思い入れる深度、作品への愛は深まっていく。

ひとりひとりにとってかけがえのない作品に

そんな作品に対する愛を感じる瞬間はどんなときに訪れるのか。最後に、個人的に思い出に残っている出来事を聞いた。

浜田「ライヴがやっぱりいいんです。お客さんに直接会って音楽を一緒に楽しめる空間なので。毎年『Paradox Live Dope Show』というライヴを行なっていますが、最初の頃はコロナ禍で、3年目で初めて声出しがOKになったんです。ライヴが始まった瞬間、大歓声でスタッフ同士のインカムが全く聞き取れないほどで。そのときはとにかく泣きましたね。お客さんも我慢してた気持ちをやっと声に出せて、こちらからもやっとみんなの顔が見えたような気がしました」

倉島「本当に感動しましたね。コロナ禍で生まれたプロジェクトだったので、よくここまで耐えたなと。それにこの作品は若いヘッズも多くいるので、声出しライヴ自体が初めてだった人もいたはずで、お客さんにとっても一生の思い出になっていたらいいですね」

そして村田は、プロジェクトの初期、まさに作品のお披露目の頃のことを思い返す。そこにはオリジナル作品がゆえの、チームの不安と奮闘があった。

村田「オリジナル作品の場合、原作のファンが元々いるわけではないので、情報解禁にあたっては、どの情報をどのタイミングでどのように見せるのか、相当打ち合わせを重ねましたし、不安でしたね。でもAPIの各部署が一丸となって“この作品をヒットさせる！”という熱量で動いていて。販促チームの働きかけもあって、情報解禁すぐのタイミングからアニメイト様が各店舗でParadox Live を盛り上げてくださいました。情報解禁の翌日にアニメイト様の一部店舗で解禁記念のステッカー『CLUB paradox INVITATION』の配布企画をさせて頂いたのですが、各店舗に長蛇の列ができていて驚きましたし、すごく嬉しかったです。」

浜田「まだ情報解禁して12時間くらいしか経ってないんですよ。それなのに、行列が店舗のビルの外周を回るくらい長く伸びてたんです」

列に並んだ面々は、きっと何かが始まるワクワクを敏感に感じ取っていたに違いない。そのワクワクの発生源は、ほかならぬAPIの制作陣、そして社内外の協力者たちだ。

村田「全員の力で作品として良いスタートダッシュを切れたことが、とても印象に残っています」

浜田「やっとお披露目できたキャラクターを女の子たちがキャーキャー言いながら写真に撮っているのを見て、やっぱり泣きましたね」

制作側の努力もさることながら、作品はファンや関係者の愛に支えられて大きく育っていく。そしてファンの愛は、制作陣が作品にかける情熱のはね返りでもあるはずだ。

これからもParadox Liveの世界が、“ヘッズ”たちにとってかけがえのない場所であり続けることを願うばかりだ。

次の記事では、APIの中でも株式会社エイベックス・フィルムレーベルズ（AFL）が主に手がける「映像領域」への挑戦を紐解いていく。