2014年の設立以降、『おそ松さん』や『KING OF PRISM』シリーズ、『ユーリ!!! on ICE』『ゾンビランドサガ』などを筆頭に、様々な人気アニメ作品を送り出すエイベックス・ピクチャーズ(以下API)。作品の企画制作や宣伝、販売を担当するメンバーは、どんな想いで作品に向き合っているのだろうか? 企画制作を担当する飯泉、プロモーションの長屋、コンテンツセールスの佐藤の3人に話を聞いた。
2.5次元舞台や
応援上映で人気拡大
業界の新市場を開拓する
APIのアイデア
©赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会
コンテンツクリエイション、コンテンツマーケティングにとって、「面白いもの」を生み出すことは、最もシンプルで、難しい命題だ。APIでは、ヒットコンテンツの確率を上げるための日々の取り組みを徹底している。APIのヒット作の傾向について、3人は「個性的な作品であること/新しいことに挑戦していること」だと語る。
飯泉「どの作品においても、『その企画に個性があるか?』は大切にしているつもりです。APIでは、作品をお客様のお手元にお届けする1年~1年半前から社内でプロジェクトチームがつくられますが、その中で色々な話し合いを密にしています。その作品をどなたにお届けしたいか、その方々がどんなものを求めているかは、企画立ち上げの段階から大事にしています」
佐藤「これまでAPIが実績を上げることができたタイトルは、世の中の流れに沿ったものではなかったと思っていて、ヒットを当てにいくというよりも、オリジナルなもの、面白いものを求めてきた結果が今に繋がっていると感じています」
長屋「実際のところ、APIのこれまでのヒット作の多くがオリジナル作品なんです。他社さんですと人気原作のアニメ化作品がヒットすることも多いですが、APIにおいては、オリジナルの作品をつくって、それが当たっている傾向にあると思います」
APIのアニメ作品には、ユニークな発想によって人気作品となり、結果としてアニメ業界における新しい市場を開拓していくような魅力を持った作品が多くある。ここからはそれぞれのヒットの裏側について迫りたい。
まず、2015年にTVシリーズ第1期が放送された『おそ松さん』。赤塚不二夫による不朽の名作を、現代の深夜向けアニメ作品として再解釈して大きな話題に。
飯泉「『おそ松さん』のときは、企画の段階で、世の中の人々にもう一度『シェーッ!』と言ってもらいたいな、と単純に考えていました。また、実力と人気を兼ね備えた声優の皆さんに演じていただくことで、よりお客様にも喜んでいただけるのではないか?と思っていました」
長屋「原作としては昭和のものですが、それを今のものとして出していくときに、今のお客さんが何をどう捉えて、どう面白がってくれるかということを踏まえて、宣伝も考えていきました。当時のアニメでは、女子向けの作品というと、等身が高く美しい、いわゆるイケメンのキャラクターであることが一般的でしたが、『おそ松さん』では赤塚先生の絵が持つPOPさ、丸みを帯びた等身等が尊重されたキャラクターデザインになっています。この新しさは、『おそ松さん』が受け入れられた要因のひとつだったのかな、と思います」
©赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会 2019
また、『おそ松さん』では2016年以降2.5次元の舞台がスタートし、2019年には『えいがのおそ松さん』も放映。様々なメディアに持ち出すことで、作品を様々な角度から楽しめるものにするというシリーズの広げ方は、エイベックスグループの強みを生かしたものでもある。
佐藤「いちコンテンツをベースにしたときに、色んな角度からの楽しみ方を提案するための屋台骨が組織としてできている部分は大きいのではないかと思います。それが本当に上手く作用したのが、『おそ松さん』シリーズですね。『えいがのおそ松さん』は、2015年から続いているコンテンツを劇場版として公開することで、お客様にまた新たな付加価値を提案することができ、過去作も併せて楽しんでもらえることができました。また、2.5次元の舞台では、また違ったお客様方にも楽しんでいただき、IPとしてさらなる広がりを見せることができたと思っています」
©赤塚不二夫/『おそ松さん』on STAGE 製作委員会2019
一方、2016年に劇場公開された『KING OF PRISM by PrettyRhythm』は、お客様と一緒に楽しむことができる「応援上映」という形式を世間に広く知らしめることとなった。
©T-ARTS/ syn Sophia / エイベックス・ピクチャーズ / タツノコプロ / キングオブプリズムSSS製作委員会
飯泉「『KING OF PRISM by PrettyRhythm』は、『応援上映』という形式を活用し、お客様が楽しんでいただけたことがヒットの要因の一つなのかなと思っております。監督と制作スタッフ陣のアイデアの賜物だと思います」
長屋「上映形態で話題作りができ、『応援上映』そのものをここまでメジャーにできたというのは、すごいことだと感じます。シャイなお客様も多いのではないかと思っていたので、声を出して盛り上がるという文化がアリなんだということは気づきになりました」
佐藤「劇場での鑑賞ですと、大声で騒ぐことは本来は控えるべきことですよね。そういう意味でも、非常に新しい試みだったと思います。とはいえ、それは決してむやみに今の環境を壊すということではなく、『こんなものの方が、お客様が楽しんでくれるんじゃないか?』という発想からくるものだと思っています。つまり、顧客視点が結果的にビジネスに繋がっているということが、大切なところだと感じています」
実際の『応援上映』の様子
「何も明かさない」宣伝、
新しい公開フロー…
作品ならではのアイデアが
作り出すヒットへの道筋
©ゾンビランドサガ製作委員会
視聴者の「楽しい!」「面白い!」を第一に考え、そのために必要であるならば、常識にとらわれずに可能性を追求する。2018年のTVアニメ『ゾンビランドサガ』も、製作陣のそういったチャレンジが視聴者に伝わり、回を追うごとに熱を増していったヒット作だ。
飯泉「作品を実際に観てくださった方々は、境監督や村越さま(脚本)を含めた制作スタッフ、プロデューサー陣の緻密な構成、仕掛けに驚きを感じてくださったと思います。また、作品に登場する歌もストーリーに絡んでいることで感情移入もしやすく、より楽しんでいただけたのかなと思いました」
『ゾンビランドサガ』では、話数ごとに様々な楽曲が登場し、デスボイスやラップなどを筆頭に、そのジャンルやサウンドの多彩さも大きな話題になった。しかし、注目度を狙って様々な音楽性を作品に登場させたのではなく、物語上の必然性を持って様々な楽曲が作品に出てきたことが、『ゾンビランドサガ』の面白さの一つだったのだ。宣伝手法にも、この作品ならではのアイデアが込められている。
長屋「『ゾンビランドサガ』は、急に主人公が死んでしまうという展開も含めて、1話から面白い展開のある作品だったので、宣伝としては、『作品がはじまるまで何も明かさない』という手法を取っていました。その辺りは、それに見合う1話になっている、という制作/宣伝チームの想いゆえだったのかな、と思います」
2020年は、Netflixオリジナルアニメとして企画された湯浅政明監督による『日本沈没2020』が7月より配信中。
©“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners
飯泉「『日本沈没2020』に関しては、現在はNetflixで全10話配信中ですが、2020年11月13日に「日本沈没2020 劇場編集版 シズマヌキボウ」として劇場公開を予定しております。全10話の、家族をテーマにしたメッセージ性の強い作品を、劇場編集版という形に変えて、もう一度発表・公開させていただきます」
佐藤「ネット配信からはじまって劇場作品になるというのは、とても面白いフローですから、お客様にどんなふうに楽しんでいただけるのか、私たちもワクワクしています。」
10月からは『おそ松さん』のTVシリーズ3期もスタートすることが発表されており、6つ子の担当声優陣のインタビューをコラージュして3期への期待を煽るような情報解禁映像も話題となった。
飯泉「『おそ松さん』の場合は、TVシリーズの1期、2期、映画とやらせていただきました。第3期に関しましても、長いシリーズではありますが、ここまで応援してくださった方々にも変わらず楽しんでいただきたく思っております。藤田監督、松原さま(脚本)含め制作スタッフ陣は、日々新しい挑戦を考えていると思います。プロデューサーの言葉を借りるなら『変わらないおそ松』と『変わっていくおそ松』の、両面から楽しんでいただければと思っております」
長屋「『おそ松さん』第3期の解禁映像に関しては、『おそ松さん』という作品の、3期目だったからこそできた挑戦的な施策だったのかな、と思っています。今回の第3期が、作品としても『変わらないおそ松』と同様に『変わっていくおそ松』の要素も追求していくのなら、宣伝でも新しいことに挑戦する必要がある、と思っていたんです」
メディアやフォーマットの
“常識”を打ち破る
「作品第一主義」で考える
アニメ産業の未来
APIの特徴は、徹底した「作品第一主義」。つねに作品のことを考え、「その作品だからこその魅力」を生み出す/伝えるために、変化にも臆することなく飛び込んでいく。では、新型コロナウイルスの影響が世界的に広がる現在、今後のアニメ産業全体の変化については、どう感じているのだろうか。また、今後アニメ作品に訪れるかもしれない可能性とは?
飯泉「今回のコロナ禍を受けて、日本だけでなく、世界規模で様々なことが変わっていくのではないかと思っています。そのひとつは、視聴メディアの変化です。その軸になるのがTVなのか、配信プラットフォームなのか、はたまた映画なのか、パッケージなのか――。また、それらが分散していくのか/別のものになるのかはまだ分かりませんが、お客様の生活スタイルに合わせて変化することは間違いないのではないかと思っています。そしてもうひとつは、お客様と近しい距離で行われるイベントの変化です。こうしたことについては、僕も含めて、まだ明確な答えが見出せていないので、探し続ける、トライ&エラーを続けるしかないと思っています」
常識にとらわれないトライ&エラーへの想いは、今後の視聴メディアの変化に伴う“尺”という概念に関する新たな発想力にも繋がっているようだ。
飯泉「個人的には、『クール』という概念は徐々になくなってくるのかな、とも思っています。TVシリーズ・ワンクール11~13本、当たり前のことではありますが、それが作品や企画の本質を捉えているか? 自問自答する時がたまにあります。企画によっては5分がベストのものもあれば、60分がベストのものもあるはずですから、作品ごとにお客様が一番喜んでもらえるフォーマットで発表してもいいんじゃないかな、とは思っています」
佐藤「作品の見方というのは、お客さんが選ぶべきだと思うので。その作品に合わせて、いい形でカスタマイズしたものを提供していけたらいいですよね。ユーザーインサイトの追求を、コロナ禍の中でも進めていくというのが、我々のミッションだと思っています」
長屋「コロナの有無にかかわらずですが、APIが大切にしてきたのは、やはり『新しいものを生み出していく』『チャレンジしていく』という精神で、それがヒット作をつくってきたと思っています。このコロナ禍も、APIとして新しいアイデアを生み出せるチャンスになるかもしれませんし、そういうものを、いち早く見出していきたいと思っています」
柔軟な発想力と、確かな技術の掛け算によって「まだ体験したことのない楽しさ/面白さ」を追求するAPIのアニメーションには、エンタテインメントの大きな魅力のひとつ=驚きやワクワク感が詰まっている。今後APIから、どんなアニメーションが生まれていくのか、ますます注目したい。
エイベックス・ピクチャーズ株式会社
企画制作本部 アニメ制作グループ
飯泉 朝一
エイベックス・ピクチャーズ株式会社
プロモーショングループ
長屋 圭井子
エイベックス・ピクチャーズ株式会社
コンテツセールスグループ
佐藤 誠洋