2019年11月、エイベックスはライバーを中心とした個人クリエイターのエージェント・マネジメント事業等を展開する株式会社LIVESTAR(以下、LIVESTAR)のM&Aを発表。ソーシャル領域への事業拡大に向け強固な態勢づくりを推し進めている。今回、株式会社LIVESTAR 西村翔太郎代表取締役社長とエイベックス株式会社 グループ執行役員 新事業推進本部 本部長 加藤信介に話を聞いた。
「新しい時代の人気者」発掘へ
連携で生まれる創造的展開
本題に入る前に、エイベックスの個人/ネットクリエイター領域進出について軽く振り返っておきたい。以前、本コンテンツにおいて株式会社MAKEYと株式会社TWHのM&Aを主軸に加藤とエイベックス・マネジメント株式会社 執行役員、都築の掲げるビジョンについて記事化した。それから約半年間の所感について、「同2社との連携が相互シナジーを生み始め、個人的にあとは結果を出すのみというフェーズに入っている」と加藤は語る。そうした流れを汲んだうえで、今回のM&Aは両社にとってどういった意味を持つのだろうか。
加藤「新しい時代に合った人気者をつくるということ、そして人気者の在り方が多様化しているというなかでコンテンツやアーティストをつくるということを強化していくのであれば、そこに想いや強みを持っている会社や人材と一緒に作っていきたい。今回LIVESTARがジョインしてくれたということでいうと、より僕らが目指すべきところへ向かうための強固な体制が出来つつあるというところに集約されるかなと思っています」
西村「LIVESTARとして、ライヴ配信市場をもっともっと盛り上げていく上で、突出した個人(スタープレイヤー)を輩出し、サポートしていくことが重要と我々は考えています。例えて言うならば、YouTuber業界でいうところのHIKAKINさんのような市場の象徴的な存在になります。様々なジャンルのパフォーマーがいるライヴ配信業界での事務所機能の構築は複雑なため、マネジメントシナジーを生み出せるような、個人インフルエンサー領域に関心の強いプレイヤーとの連携は必要不可欠だと感じていました。そんな中エイベックスから今回のお話をいただき、エイベックスの持つクリエイターマネジメントのノウハウや弊社の持つライバー育成テクニックをかけ合わせることで、よりライヴ配信市場を盛り上げ、スタープレイヤーの輩出という大きなシナジーを生み出していけるのではないかと考えています」
ライバーが語る
“リアルタイム”の魅力
コミュニケーションを
どう価値にするか
西村代表が、LIVESTARを立ち上げたのは1年半前。ライバーを中心とした個人クリエイターのマネジメント、ライバー育成、ライヴコマース事業などを行なっている。「平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、10代の約30%、20代の約25%がライヴ配信型の動画共有サービスを利用しており、今後も規模の拡大が見込まれる。そもそもライバー、そしてライヴ配信領域とはどういったものなのか。その特質とマネタイズを語る上では「コミュニケーション」という言葉がカギになってくる。出典:平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 報告書
西村「ライバーの定義をすごく抽象化して言うと、生配信を通じてリスナーと相互コミュニケーションを投じ、盛り上げるパフォーマー的な存在です。コミュニケーションをとる上で、リスナーはライバーに直接コメントやギフティングを送ることができます。それによって生計が立てられる人たちを僕らは“プロライバー”と呼んでいます。なので、現在個人が配信を行えるプラットフォームは多様化していますが、YouTubeやInstagramといった広告モデルとはメディアとしての価値もビジネスモデルも別軸なのかなと思っていて。ライヴ配信は、「生」なので、視聴者体験や楽しみ方が全然違うんですね。これって、どっちがいい・悪いっていうことではなくて、サービスにおいて体感が違うものなので、まったく別物として見ています」
一方、ライバー当人は本領域をどう視ているのだろうか。自身もライバーとして活動する傍らLIVESTAR創業メンバーとして育成担当するりょーやん氏と、同社所属の大食いライバーでありYouTuberとしても注目される・三浦みゅら氏は、求められるライバー像とライヴ配信の価値をこう分析している。
りょーやん「ライヴ配信って、人の価値がすごく現れるサービスだと思うんです。自分は、“元気を届けるライバー”として小道具を使ってみんなを笑わせたり、たまにみんなの考えを聴く“語り配信”っていうものをやっているんですけど、ライバーというのは見てくれている人たちと感情的な面での繋がりや絆を生み出せる人なんだと思っていて。その人を応援したいとか、目に見えない価値を体現できているのがライバーかなと思うので、自分は心の元気も届けたいという気持ちで枠を作っています」
三浦「私は、コンビニみたいについ寄りたくなるような配信にしたいなとは思っています。このコメントの裏側ではどう思っているんだろう? とか、喋っていない人はどう思っているんだろう? とか。慣れてくると、この人こういう状態なのかな? って見えてきたり。毎日コミュニケーションをとっているのでリスナーさんとの関係は、家族に近いかもしれないです」
りょーやん「毎日3〜4時間話している中でリアルで会うとなると難しい反面、SNSとして場所を選ばず気軽に話ができるのは配信ならではかな? と思っています。リスナーさんの一言で流れが変わったり、文化が生まれたりするので面白いですよ。ライヴ配信はドキュメンタリーだなって僕は思っています」
西村「泣くほど喜んだり、ケンカになるほどバチバチすることもあったり、いろんな人間模様があって。それは僕的にエンタテインメントだしライヴ配信のいいところだなと思っていて。あとは、ファンに一体感が生まれるのもライヴ配信の特徴で。オフ会があっても初対面のリスナーさん同士がすごく仲良かったりするんです。今後、配信を楽しんでくださっているリスナーの方も市場に参加するだろうし、パフォーマーとして参入する方もどんどん増えていくだろうという点でもすごく成長が見込める市場だなと思っています」
また、ライバー育成の現場に立つりょーやんはLIVESTARがエイベックスと座組むことによって広がる可能性とライヴ市場の今後に発展に大きな期待を抱いているという。
りょーやん「今、市場規模を見てもすごいチャンスだなって思うし、可能性を広げるための話し合いの場ということでエイベックスさんと組む心強さはあるかなと。LIVESTARのメンバーって、誰かがイベントに出ればそれを喜ぶくらい仲が良くて。そういう空気を作れているのは事務所の強みだと思うし、それを成立させるのって意外と難しいと思うんです。その思想に共感したし、ライヴ配信はそれぞれが称えられるコミュニティだと思うので、市場が盛り上がってその先にリスナーさんが幸せになればいいなって思っています」
西村「そうですね。僕らは、創業当初から市場を広げていきたいと思って活動していますし、事務所のみんなは仲間だっていうのを言い続けていて。そういう姿勢で作ってきたコミュニティはLIVESTARの強みにもつながっていますし、その良さは維持し続けたいなって思っていますね」
りょーやん「ライバーは今の時代に合う働き方だし、誰しもに可能性があると思うんです。その反面、継続することが難しいし先々キャリアで悩むこともあると思うけど、人生としても未来性があるし人が輝ける場所だと思います」
三浦「もっともっと私たちライバーが先頭に立ってライヴ配信業界を盛り上げて、例えばTwitterで自然災害などの情報を調べるよりもライヴ配信アプリを開けば全国各地の人がいるから細かい情報が入るよね、と誰もが真っ先に開くくらいにしていけたらと思っています」
りょーやん「この先AI化が進んでいくとか言われていますけど、誰かに寄り添いたいっていうのが人間だし、誰しもが誰かの支えになれると思うんです。そういう点でもライヴ配信へのニーズは無限大にあると思うし、この世界に触れてもらえれば、きっと好きになってもらえる。この市場の未来に可能性を感じています」
各領域のノウハウを結集
ナンバーワンを目指した
先に広がる未来
ライバーのスタートアップやマネジメント事業のノウハウを構築してきたLIVESTARが次に目指すのは、他プラットフォームも含めた総合的な影響力の拡大と事務所の看板を背負う“人気者”の輩出だ。今後のミッションについて西村代表は語る。
西村「個人の影響力が広がっていった結果、いろんなビジネスが周辺に生まれ拡張していくと思っているので、今後はSNSにおけるマネジメント部分にきちんと投資して、影響力のある個人というのを作っていきたいと考えています。ただ、コミュニケーションが主軸にあるサービス構造上、幅広な人気者はなかなか生まれづらいっていうのは課題感としてあります。そこに関しては、いろんなプラットホームを使いながら、影響力のある個人を複数輩出できたらいいなと」
加藤「日本は今プラットフォームごとに切られているんですけど、いずれ必ずクロスオーバーしてくると思っているんですね。すでに今ライバーと呼ばれている人がTikTokでも活躍する、YouTubeでエンゲージを深めると言う事例も当たり前に出てきてますし、まったく新しい総合型のマルチプラットフォームが立ち上がる可能性もある。僕らの一枚絵もライバー領域や動画クリエイター領域と、一旦はわかりやすさもあって区切ってるんですけど、中長期的にはそうした概念もなくなってくるだろうなと思っているので、結局これから出てくるニューメディアとかネット領域で新しい人気者を作っていくための機能を整えているというところでもありますね」
西村「プラットフォームをうまく活用しながらインフルエンス力を総合的に上げていくのがトレンドになっていくことが考えられるので、結果的に個人の名前が影響力を持つという形になっていくんだろうなと。僕らも未来はそうなるだろうというのを思い描きながらマネジメント機能をどう作ろうかと今考えているところです」
加藤「別の軸で見ると、今LIVESTARに溜まっているノウハウっていうのは、ユーザーとインタラクティブにコミュニケーションをとって、エンゲージメントを深めていったりファン化していくということに長けている。MAKEYであれば、映像をYouTubeにアップロードしてそこでファンを獲得していくということに長けている。エイベックス・マネジメントには、強力なアーティストマネジメントのノウハウがある。つまり、プラットフォームごとというよりは、ノウハウの溜まり方がそれぞれ違うと思っていて。来るべき未来の中で、それらを足し合わせて人気者を作っていくのが、あるべき姿なのかなって思っています」
それぞれが培ったノウハウの合流点で、果たしてどんな新時代のスタープレイヤーが生まれるのか。2人は、その時に向けて今果たすべきことを現在地からまっすぐに見据えている。
西村「基本的には影響力を広げていきたいという熱のある方なら全員にチャンスがあると僕は思っているので、そういう方にLIVESTARに入っていただきたいし、それに対しての機能は僕らが作る自負を持っています。ゆくゆくは、業界のスタンダードにはなっていきたいし、“LIVESTARに入りたい”っていう空気感にはしていきたいですね。それは僕の想いというか、野望ですけど」
加藤「まずはそれぞれが決めた事業領域に対してナンバーワンになるってことを愚直に目指していくべきだと思っています。そこをピュアに求めていくその先に、マーケットやプラットフォームが変わる中でどう柔軟性を持って対応できるかという経営戦略やポートフォリオがあります。彼らが張っている領域とそこに持っている想いに僕らは共感しているわけだから、そこを愚直にまずは追い求めて欲しいですね。そうすればこの先、どんなに市場やプラットフォームが変わったとしてもポジティブな未来が設計できる気がするので」
未知数の可能性と期待値を秘めたライヴ配信領域。エイベックスとLIVESTARによって打たれる布石が全く新しい時代のアイコン誕生につながることを想像し、胸踊らせるばかりだ。
(写真左)
株式会社LIVESTAR
代表取締役社長
西村 翔太郎
(写真右)
エイベックス株式会社
グループ執行役員
新事業推進本部 本部長
加藤 信介