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今年100周年を迎えるパナソニックと30周年を迎えるエイベックスがタッグを組み、1月にネバダ州ラスベガスで開催されたCES 2018に出展。パナソニックのブースで披露されたのは、2025年を舞台に繰り広げられるACRONSという未来のエンタテインメント体験だった。テクノロジーのパナソニックとエンタテインメントのエイベックス、互いの強みを生かして生み出されたこの ”体験” はどのように始まり、また裏側にはどのような意図が秘められているのか。クリエイティブ・ディレクターの一人を務めたエイベックス・エンタテインメント株式会社 中前省吾に尋ねた。

4,500社以上が一堂に会する、
最先端テクノロジーの見本市

CESは毎年1月、ネバダ州ラスベガスで開催されるテクノロジー業界の国際的な見本市。最先端テクノロジーによる新製品を見られる場として、出展企業は4,500社以上、来場者は17万人以上にも達する一大イベントだ。

「CESは元々、今あるモノを展示して『こんなすごいモノがあるよ、ぜひ使ってください』というどちらかというと実践的な場で、未来のコトを予言するような実験要素の強いサウス・バイ・サウスウエスト等とは少し毛色が違うものでした。ただここ数年、スタートアップ企業を積極的に招聘したことで変わってきて、今はモノ展示もあれば未来のコト提示もある。それを象徴する出来事として、TOYOTAさんが発表したe-Paletteというモビリティ・システムが、BEST OF CES 2018を獲得したことが挙げられます。ACRONSと同じく、まだ実現はできないけれど発想としてすばらしいもの。そういった現象を目の当たりにして、エイベックスがやれることが増えてきていると実感しています」

Photo by Panasonic CES 2018

中前がCESを意識し出したのは、意外にもパナソニックと連携した今回のプロジェクトからだという。パナソニックからテクノロジー領域でのさまざまなインスピレーションを受け、エンタテインメントの領域はエイベックスが知恵を絞る。そうやってチームとして今回のプロジェクトを進めていった。

「エンタメ及びアート的なアウトプットはこちらで担い、テクノロジー的なアウトプットはパートナーさんに担ってもらう。僕たちの行うエンターテックにおいて重要なのは、その比率です。CESで言うと、本来であればテクノロジーの割合が増えてくるはずなのですが、パナソニックさんは本当にバランスよく考えてくださった。それを見て非常にイノベーティブな組織だと感じましたし、逆に僕らはテクノロジーに対して、寛容性とか好奇心を持っていくべきだと改めて痛感しました。」

ACRONSはギャラクシー・マーケットに対する
エンターテック

CESでパナソニックとエイベックスが発表したACRONSでは、3Dスキャニング技術やデータ圧縮・伝送技術、空間演出技術等の進化の延長線上で、街は巨大なステージとなり、VR(仮想現実:未来)内でAR(拡張現実)ライヴを実体験する未来型エンタテイメントが披露された。

「ACRONSに関して一番重要なのは、実践的なエンターテックの提示であるということ。ただし、実践的というのは物理的な実現性のことを指すわけではありません。現在、僕たちが “音楽ライヴ” というカテゴリーでバーチャルに感じているレイヤーは、『リアルなライヴの方が良い』というもの。例えばライヴを観に行けなかったからとか、ライヴが無いから『せめてVRで』という、リアルな体験に擬似した下位レイヤーに過ぎない存在なんです。その原因は十分な技術がなかったから、そもそも取りに行く市場ではないという負のスパイラルにあるのですが、あくまでこれらは、今は ”まだ” ない! なんです。未来においてテクノロジーの進化に伴い、VRやARライヴのレイヤーをリアルと同等、もしくはそれ以上に持ち上げることができるなら……もっと言えば、今回パナソニックさんとお仕事したことでそれは確信に変わりつつありますので、今すでにあるはずのマーケットで見ようとしていないだけのもの。僕はそれを“ギャラクシー・マーケット”と呼んでいますが、『今ない!』からこそ『今すぐにやるべき!』という意識改革が大切だと思います」

Photo by Panasonic CES 2018

ACRONSは“ギャラクシー・マーケット”の発見によって産声を上げ、CESで披露されたライヴはそこに対するパナソニックとエイベックスの挑戦だった。同時に中前は、「ライヴを観に行く時に、リアルであるかVRであるかを迷う時代を作りたかった」とも言う。

「お伝えした通り、そもそもアーティストのVRライヴを見たい人は、VR ”だから” 観るわけではありません。それをVR “だから” 見たい、VRの “方で” 見たい といったレベルにまで持ち上げた時に人は選び出し、もしくは両方観たいと思い始めます。これは市場を作り出すというよりは、あったものの半分しか使っていなかったという表現の方が近い。ACRONSは見つけたギャラクシー・マーケットに対して、パイオニアやオンリーワンの優位性を持っていこうというエンターテックなんです」

Made in Japanのスピリットと
エンターテックの可能性

パナソニックと、ACRONSという共通項で密な時間を過ごした中前は、パナソニックという会社に自らの考え方を改めさせられるほどの“凄み”を感じたという。

「僕も他にもれず、外資系の企業ってカッコいいなと思う部分も多々あったんですが、今回で完全に逆転しました。一言で言えば『日本のサラリーマンってカッコいいな』と。もしかしたら変なバイアスが掛かっていたのかもしれません。昔、パナソニックさん始め日本の企業が攻めていた時って、商品を売って、日本人の心を誇っていたんだなと思います。戦後の時代背景もありますが、彼らが誇っていたのは“Made in Japan”のスピリットであって、モノではない。『Made in Japanのスピリットがあるから下手なモノは出したくない』という部分が先にあるということを見落としていたんです。恐らく今の若者も、高い技術があったからMade in Japanになったと思っている。違う、Made in Japanというスピリットがあったからこそ高い技術になったんです」

Photo by Panasonic CES 2018

今回のCESにおけるパナソニックのブースは、そのスピリットを存分に感じさせるとともに、これからの100年に向けての“所信表明”のようでもあった。中前は今回のコラボレーションを通して、パナソニックの人たちに対して「小さい頃に親父の背中を見てカッコいいと思ったのと同じような感覚があった」と語る。

ACRONSは両者の哲学の部分が一致していたため、あとは未来の提示をするだけだった。色をどうするとか何の技術を使うとかは問題ではなく、細かなディテールの部分にACRONSの本質はない。そのためアウトプットの段階で揉めることはなかったという。

「ACRONSで大事なのは、何を目指しているか? というメッセージ性です。そこは僕らが曲げてはいけないエンタメとアートの本質であって、パナソニックさんにとってのテクノロジーの本質。あれがプロジェクションだろうが、ディスプレイだろうが、それは変わりません。要は“食べたい”ということが一致していたら、寿司を食べようが焼肉を食べようが美味いものなら揉めません。けれど片方は食べたいと思っているのに片方は走りたいと思っていたら、ディテールを詰めても意味がない。僕らのアートも極論、美味いものなら何でもよかった。なのですごくやりやすいクリエイティブ・ディレクションでした。今回ものすごく楽しかったですよ。パナソニックさんもきっと、楽しかったと信じています(笑)」

テクノロジーとエンタテインメント。それぞれの分野でトップランナーとして走る両者の、“不味いものは出さない”というお互いへの絶対的な信頼――CESにおけるACRONSは、Made in Japanのスピリットと、エンターテックの未来を確かに表現してみせた。

エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部 クリエイティヴグループ
ゼネラルディレクター 中前 省吾

Photo by 大石隼土

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