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多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る 多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

ハイライト

ONOFF

アート領域の知的財産の創造と、より広い層にアートおよびアーティストとの接点を提供するエイベックスのアート事業「MEET YOUR ART」。その始まりは、2020年12月に配信を開始した現代アート専門のYouTubeチャンネルだった。それから3年後の2023年。「MEET YOUR ART」は爆発的な進化を見せた。アートとカルチャーを融合させたフェスを春と秋に開催。さらに、企業向け新サービスのローンチや、日常の動線上でアートに触れることをコンセプトにカウンターバーを併設した夜のギャラリースペースをオープンしたことにより、このアート事業が目指す地平とエイベックスの本気度を明示。それら様々な取り組みを一気に仕掛けられた原動力とは何か。エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社取締役役員付MEET YOUR ART 共同代表を務める古後友梨は、「すべてはアートへの熱と愛です」と答えた。

多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

新規ファンの獲得
エイベックスならではのアートフェス

2022年5月に発表された中期経営計画「avex vision 2027」に基づき、「アート作品やアート領域を担うアーティストもエイベックスが共創すべき多様な才能」という位置づけのもと立ち上がった、新事業の「MEET YOUR ART」。まずはその展開を、古後の説明とともに時系列で追っていく。

エイベックスがアート事業を始める狼煙としたのは、先述の通り、2020年12月にスタートした現代アート専門のYouTubeチャンネル、『MEET YOUR ART』だった。それ以前の日本のアート市場は、バブル崩壊を受けて縮小の一途をたどり、アートが生活に溶け込んでいるとは言い難い状況が長く続いていた。また、高尚なイメージが定着したことで、一般的な興味が及ばない領域でもあった。

「そんな市場を開拓するには、アートの魅力を発信し、新しいファン層を拡大する必要がありました。それに向けて機能するための最初の一手がYouTubeでした」

番組開始から3年間MCを務める森山未來氏がアーティストにインタビューするシリーズや、初めて現代アートに触れる人でもわかるようなアート講座コンテンツをはじめ、著名人が初めて購入したアート作品について語る「FIRST PIECE」、昨年夏にはGENERATIONSの片寄涼太氏をナビゲーターに迎え、アーティストのアトリエを訪問するシリーズも開始した。古後はそうした番組のコンセプトづくりにも関わってきたという。

多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

「エイベックスがアートと関わることでもっとも配慮したのは、美術業界に寄り添うこと、エンタメに寄り過ぎないバランスを保つことでした。その点に留意しつつ、当時は分かりやすく現代美術を紹介したり、批評するメディアが少なかったので、丁寧に番組をつくり続ければ、時間がかかっても受け入れられる自信はありました」

多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

アート事業の軸に据えたYouTube番組「MEET YOUR ART」は、2024年1月末時点で登録者数 6万人超を数えるチャンネルとなった。アート業界にも浸透し、出演を望むアーティストや評論家が後を絶たないそうだ。

他方、「番組を始める以前から構想はあった」というのが、2022年5月に恵比寿ガーデンプレイスで初めて開催された『MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ʻNew Soilʼ』。国内最大級のアートとカルチャーの祭典を標榜し、アートを音楽・食・ファッション・ライフスタイルと接続させたフェスは、まさにエイベックスならではの多面的な切り口の企画だった。

「3日間で3万人を動員することができました。アートエキシビジョン、アートフェア、音楽や他カルチャーのコンテンツがあるフェスティバルは、私たちはもちろんのこと関係者や参加アーティストにとっても挑戦的な試みで、最終的には参加した皆さんが盛り上がってくれたのがうれしかったです。もちろん不安はありましたが、蓋を開けてみたら大盛況。1回目からやりたいことができたのは、私たちの自信と実績に繋がりました」

アーティストの活動を支援する
フェスやフェアとは異なる新たな取り組み

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MEET YOUR ART FAIR 2023「RE:FACTORY」会場風景

第1回目のアートフェスから約10か月後の翌2023年3月。東京・天王洲の寺田倉庫で行われた、アートと音楽のコラボレーションをコンセプトに掲げたアートフェア『RE : FACTORY』でも、古後らは既存の枠組みにとらわれない挑戦をした。

「『RE : FACTORY』ではメインアーティストとアーティスティックディレクターを大山エンリコイサム氏に依頼しました。アーティスト自身が、展覧会やフェアのディレクターを務めるのも稀なことなんです。また、一般的なアートフェアはギャラリーの出展が主で、ギャラリーがセレクトした作家の作品を展示・販売するのですが、私たちが実施するイベントに来場する方は、初めてアートに出会う方も多いので、音楽フェスのようにアーティスト毎に作品展示されている方が分かりやすいと考え、28名のアーティスト毎にエリアを設け展示・販売をしました。」

そして同年10月には、2回目のアートフェス『MEET YOUR ART FESTIVAL 2023「Time to Change」』を実施。開催地を東京・天王洲運河一帯に移し、規模を拡大しアートを軸にエキシビジョン、2つのフェアを実施するとともに音楽ライヴやマーケットなどのコンテンツの強度を上げ、4日間で4万人を動員した。

多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

MEET YOUR ART FESTIVAL 2023会場風景

それと前後して発表されたのが、フェスとは異なる二つの取り組みだ。その一つが、企業向け現代アートの定期便サービスとなる『CONTENPORARY』。MEET YOUR ARTがセレクトした現代アーティストの作品を、大日本印刷と連携してA0サイズの高精細な版画に転化。これを年3回に分けて企業に届け、対象金額の半分を参加作家に還元し、作家の活動支援に充てるという。

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「年額30万円の現代美術作家による複製画の定期便です。1社との契約だとアーティストに入るのは数万円ですが、100社となれば数百万円になりますから、夢が膨らみますよね。アーティストが生きていくには、必死で1枚の作品を描き上げて売るしかない。旧来の方法だけでは、多くの作家は芸術活動の持続が難しい。一方でアートを導入したい企業は多いけど、原画だと管理やセレクトが難しい。そこで作品を複製画にして、2024年4月からオフィスにアート作品を求める企業や福利施設などに提供することを決めました」

もう一つは、東京・西麻布で11月にオープンした夜のアートスペース『WALL_alternative』。現代アート作品の展示・販売を行うアートギャラリーにカウンターバーを併設させた、これもまたカルチャーのクロスオーバーを目指したスペースだ。

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WALL_alternative 大野修 個展「VERSE」/ WALL_SELECTION vol.1会場風景
(2-3週間に一度展覧会は入れ替わる)

「大きな盛り上がりを生み出すフェスやフェアとは別に、日常の動線上で大人が現代アートを楽しめる場所をつくりたかったのです。オープン時間は18:00-24:00で、通常の美術館やギャラリーが空いていない時間帯にあえて営業しています。お酒も飲めるので、気軽に立ち寄ってもらえたらうれしいですね」

以上が2023年までの「MEET YOUR ART」の経緯。そのすべてを嬉々として語る古後にも、彼女なりの経緯がある。本人は「ちょっと変わっているんです」と謙遜してみせたが、聞けばこのアート事業の責任者を任されるのにふさわしい、それは実に筋の通ったストーリーだった。

エイベックスだからつくれる
エンタメにあってアートにない仕組み

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日本と台湾にルーツを持つという古後が生まれたのは、音楽一家だった。祖父母はクラシック出身で、アート作品が自宅にあった。両親もアーティストの知り合いを多く持っていた。古後自身も高校まで声楽を学び、アーティストの喜びと苦悩と、彼らへのリスペクトを肌感覚で知ることができたという。その一方、課題を見極めたら解決せずにはいられなくなる特性を具えていたのも、現在の場所にたどり着く理由になった。

「学生時代、台湾から日本に文化芸術を学びに来ている子の多さに気づかされたことがきっかけで、台湾と日本の文化イベント団体を立ち上げ主宰していました。団体を続ける中で彼らの将来の話になると、どうやってアーティストで食べていけるか誰もわからない。そんな彼らを支える仕組みをつくりたいが答えが見つからない中で、エイベックスの人事の方と出会いました。課題を解決するビジネスのスキームが勉強できるからと言ってもらえたことがきっかけとなり、就職先をエイベックス1社に絞り新卒試験を受けました」

2016年に新卒入社。アジア方面の音楽事業に携わり、エイベックス・チャイナの立ち上げにも従事。かつて言語の壁に悩まされたとき、言葉がなくても心が動かされるアートや音楽に救われたという古後は、エイベックスの仕事を楽しんだ。ところが3年経ったある日、古後は自分がやるべきことに立ち返るため、寺田倉庫に移った。話は前後するが、『RE : FACTORY』以降のイベントが寺田倉庫中心で行われるようになったのは、古後がつないだ縁によるものだ。

「寺田倉庫は、さまざまな文化施設をつくり天王洲をアートの街にする活動に力を入れています。私は寺田倉庫に入社後、建築倉庫ミュージアムという建築に特化した施設で展覧会の企画・PRを経験させていただいたのちに、現代アートのコレクターズミュージアムWHAT MUSEUMの立ち上げに携わらせていただき、クリエイションにまつわるさまざまなことを学ばせていただきました。その後、ミュージアム事業推進に従事する中でエイベックスから声がかかりました。アート事業が立ち上がったから手伝ってくれないかと。それで出戻ってきたんです。一度外に出たからこそ見つめ直せたのは、エイベックスは人の才能を最大化するソフトづくりに長けていること。その特長と寺田倉庫が掲げる『天王洲をアートの街にする』という装置的な役割がつながったら、今までにない、都市型の街を上げた大規模なミックスカルチャーフェスティバルが実施できるのではないかと思いました」

多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

MEET YOUR ART FESTIVAL 2023会場風景

無論、古後一人が「MEET YOUR ART」を動かしているわけではない。しかし、古後のようなルーツと意識を持つ者がプロジェクトに加わったからこそ、コロナ渦に始動したこの事業が一気に転がり出したのは間違いないだろう。

「これまでのMEET YOUR ARTの活動には強い手応えを感じています。この規模感とスピードでアート事業を展開しているのはエイベックスだけだと思います。しかしアート市場の開拓は始まったばかりですから、フェスを中心に様々なプロジェクトの強度を上げていかなければなりません」

3回目の『MEET YOUR ART FESTIVAL』は2024年10月。そこに向けて、古後には今年から取り組む新たな流れがあるという。

「アートが好きなタレントや著名人が増えてきているのに加え、中には自身も現代美術の領域でチャレンジしたいという方もいて、熱量やアート業界に対するリスペクトがある方々とは是非いろんな形で協働していきたいと思っています。たとえば、GENERATIONSの片寄涼太さんはプライベートでMEET YOUR ART FESTIVAL2022に来ていただいたことをきっかけに、番組でご一緒することになりました。また、元BiSHのリンリンはグループ解散と同時に、現代アーティストに転身する覚悟を決め、名義をMISATO ANDOに変え、決してファンベースではなく、美術界に認められる存在になりたいと本気で考えていて、昨年、MEET YOUR ART FESTIVALで行ったART FAIR「CROSSOVER」が、彼女の初めての作品発表の場となりました。BiSHは、私がエイベックスに入社して初めてヒットしていく姿を目の当たりにした存在で、デビュー当初からアーティストはもちろん担当者の熱量も凄かった」

多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

MEET YOUR ART FESTIVAL 2023アートフェア「CROSSOVER」の会場で初めて作品を発表したMISATO ANDO

それに匹敵する熱量が、今の自分たちにもあると言う。「MEET YOUR ART」とは、エイベックスとアートの融合で生まれる創造を表現し続けるプロジェクトと言っていい。注目されるのは、エイベックスだからできること。その達成に古後の言った熱意が絶えぬ限り、この国のアートやアーティストとの距離は今後ますます近づいていくだろう。

多面的なフェスでアートの魅力を拡大「MEET YOUR ART」が爆発的進化を遂げた背景に迫る

エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社
取締役役員付 MEET YOUR ART 共同代表
古後友梨

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