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生き様を見せ、時に過激なパフォーマンスも行い定石を打ち破ってきたBiSHら複数のグループを擁し、今やアイドル、ロックといったカテゴリーで括れないブランド力を持つWACK。代表である渡辺 淳之介氏の発想やセンスにインスパイアされ、渡辺と強力なタッグを組み、BiSHブレイクの戦略を実現したのがエイベックス・エンタテインメント株式会社 赤窄 諒。この二人を軸に、新たにWACK期待の新人EMPiREの成長戦略が早くも結果を出しつつある。これまでになかった価値観や存在しなかったグループを彼らはいかにお茶の間レベルに届けてきたのか。BiSHの事例を踏まえつつ、異なる個性を持つグループEMPiREの成長戦略を探る。

WACKが持つブランド力、人間力とエイベックスが真正面からタッグを組む意味とは?

入社当時から制作を担当。洋楽、邦楽両分野を経験し、自ら当時インディーズで活動していたBiSHとの360°契約を結び、多彩な施策を打ち、昨年は「Best! Mad+Pure Award」※を受賞した赤窄。

赤窄「自分が社会人になって、初めてひっくり返ってもこの人のこういう部分には勝てないって人に出会った。それが渡辺さん。なので、BiSHをやりたいというより、渡辺さんと一回ちゃんと仕事をしたかったんです。渡辺さんの面白さは、例えば普通の人が『事故だ、もうダメだ』と失敗と捉えることを逆手にとってプロモーションに転化したり、アーティストをゼロから作れるところ。渡辺さん自身が顧客を持ってる状況になっていて、なかなかそういう人はいないというのも大きいです」

一方、BiSHやBiS、GANG PARADE、そしてEMPiREといったグループの精神的支柱である渡辺はエイベックスをどう見ているのか。

渡辺「ある意味、初めて褒められたのがエイベックス。『とにかくやってみろ』『失敗してもいいじゃん』っていう感じはありますね。今、音楽業界自体がCDもどんどん売れなくなってきて、いろんなものが縮小していく中で、僕が見ている限りではエイベックスだけ攻めてるというか、突っ走らせてもらえる感じはあります」

渡辺氏という、時代を読むプロデューサーの感覚なくして、現在のWACKのブレイクスルーもない。特徴的なWACKのアーティストは彼の感性に惹かれてオーディションに応募してくるケースも多い。

渡辺「一様に言うのが、『人生を変えたい』。そういう子が多いですね。いじめられっ子や、くすぶってる子、生きづらさを感じてる子がすごく多くて。でも、そんな子達が勝つというか、生きられる希望をみたいなものを持って欲しいなと思っていて。それは僕自身がそうだったからというのも大きいんですが、学校に行けなくても自分のやりたいことなら頑張れる。『人生変えたい』っていうのも、本当に変えたくてきてるんですよ」

いわば陰キャラ的なアイドルは近年増えてきてはいるが、渡辺氏はそのシーンのパイ自体、決して多くないことも自覚し、「その上でどれだけお茶の間にどうやって見せていくかが大事」だと言う。その点ではBiSHはすでに『ミュージックステーション』に出演。それは社内のテレビプロモーションチームが全力で動くほど、その存在感が大きくなっていた証左でもある。

初フィジカルはカセットテープ。
リスナーのリアルを確実に読み取る

BiSHで実績を作り上げたこのタッグが次に世に送り込んだのがEMPiRE。

渡辺「常套手段じゃないですけど、基本的に誰かしら売れている、上り調子にあるときにもう一つ作っておくのはビジネスの定石だと思います。ただ、『いい子がいるんで作りたいんですけど』と僕が言ったのは、まさに去年の合宿オーディション中。そこからエイベックスにすぐ決裁に動いてもらい、数日後のエキシビションで一緒に組むことを発表できたのは他の会社だとできない判断スピードだったと思います」

結成からしばらく顔出しNGの方針を立てたのは「実は考える時間が欲しかったから」と渡辺氏は正直に言う。だが、もちろん理由もあった。

渡辺「基本的に人ってミステリアスなものにどうしても惹かれるのと、知りたい欲求に対して、情報を小出しにして充足感を得て欲しいと思って。『顔見たい、顔見たい!』と思って、一ヶ月待たされた後の方が喜びも大きいじゃないですか。それは僕たちはお客さんにお金を使ってもらわないといけないので、お客さんのM気質に頼るというか。供給過多になってありがたみを感じなくなるような作り方はしていないんです」

そして、結成から約1年。4月11日リリースの初のオリジナル・アルバム『THE EMPiRE STRiKES START!!』をカセットテープでリリースするという、人を食った施策。それに加え、パッケージ販売に先駆け、iTunes先行配信を300円で行い、見事にアルバム総合チャートで1位を獲得。これは二人にとって想定内だったと言う。

赤窄「『1位獲れるかな』とは思っていましたけど、想像以上にダウンロードされましたね。ほんとにアーティストのことを好きにならないと、CDとか買わないじゃないですか。それなら別に300円でも1位獲って話題を作って、どんどんお客さんを増やして行った方がのちのち回収できる。根本的にそういうところに基づいた発想をいつもしています」

渡辺「ミソなのが300円だってこと。体験に300円払うわけで、そうするとちゃんと聴いてくれる。これが『タダでダウンロードできます』ってなると、多分聴かない。例えばタダで配ってるティッシュって、カバンの中でぐちゃぐちゃになるだけで使わないじゃないですか。だけどそれが必要で5円でも1円でも払ったら絶対全部使い切るんですよ。だから『300円でやりたい』って言われた時は天才だなと思いました」

有料ダウンロードだからこそ、1位を獲得すればiTunesのバナーも獲得でき、またプロフィールにも記載される。「売れてる。バズってる」認知はすでにいるファン以外に届いてこそ、次に繋がる。

ちなみにカセットテープでのリリースは、今やCDも開封されない時代におけるフィジカルとは何か? という問いかけでもあり、同時にモノとしての魅力やトレンドを意識してのことだと言う。

他にもグロテスクな表現で地上波オンエアNGとなったミュージック・ビデオ「Black to the dreamlight」もEMPiREならではの狙いだった。

渡辺「テレビ自体は大事なんですけど、今のEMPiREの段階だと、例えば『ミュージックステーション』に出てもバズらない。前回、BiSHが出演した時はTwitterのトレンドに上がって、ストーリー性があり、パイも大きくなってきたからこそのバズなんです。そういう意味では逆に今、BiSHが血まみれのPVをやると引かれる。EMPiREは今だからこそできることなのでやる。全てタイミングとサジ加減を考えていますね」

赤窄「そもそも『地上波NG』っていうニュース性として狙ってたところもありますし」

もちろん、映像そのものの完成度は高く、ファンには愛情を持って受け入れられる作品になっている。それは音源しかり。一見、破天荒に見える施策が打てるのも、ファンやリスナー、同業者のミュージシャンからの高い楽曲評価が自信となっているからに他ならない。

アーティストに共鳴し、
業界に風穴を空けることへの姿勢

社内に刺激を与えるプロジェクトとなっているWACKとのタッグ。今後はEMPiREのさらなるブレイクを目指して様々な施策を打つであろう赤窄は、このプロジェクトが及ぼす影響をどう捉えているのだろうか。

赤窄「社内では昔からの事務所とつながりがあるものが売上を立てていることも多いと思うんですけど、僕は渡辺さんのことを尊敬こそすれ、しがらみは何もない。そういう関係で一つドカンと売れれば、社内というより業界に風穴を開けられるんじゃないかと思っていて。それができる会社ではあると思うんです。社内に関して言えば、今、制作をやりたい若い子がいなくて、僕が今31歳なんですけど、一番若いんです。だから僕が『マジしんどいわ』『事務所めんどくせえ』みたいな空気を出してたら絶対若い子はやりたくないじゃないですか? 給料も変わらないし。だから僕が楽しそうにやってたものが『Mステ』に出たり、面白いと思ってくれたら、若い子の意識も変わるんじゃないかなと思ってますね」

ロックやパンクバンド以上に現代のリアルを映す若い女性グループの台頭が目覚ましい。若いリスナーの興味や感性にビビッドに反応し、まずはアーティストに共鳴すること。その上で社会現象になるほどのバズをエイベックスという組織を使ってどう起こしていくのか。アーティスト性そのものも、プロモーションの手法も、社内で最もエッジの突端にいるこのタッグがこれからの世代のエンタテインメントをさらにドライブさせそうだ。

(写真左)エイベックス・エンタテインメント株式会社
レーベル事業本部 クリエイティヴグループ
クリエイティヴ第2ユニット
赤窄 諒

(写真右)株式会社WACK
代表取締役
渡辺 淳之介

※「Best! Mad+Pure Award」とは、全社員アンケートによる社内表彰制度である「Mad+Pure Award」の最優秀賞のこと。

こんな内容

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