「企業やブランドの価値」を形成する要素として、消費者との「共感」や「感情的なつながり」といった“感情資産”を重要視する機運が高まっている。そんな中にあって、IPが様々な企業の価値形成に寄与できる可能性は実に大きいと言えるだろう。
エイベックス・アライアンス&パートナーズ株式会社(AAP)は、エイベックス・グループが保有するIPを活用した企業連携を通じて、企業価値とIP価値の双方を高める取り組みを進めている。企業課題の解決における “IPの力” の有効性について、AAPの森下隼吾に訊く。
企業・ブランドとIPの連携
スポンサーではなく“パートナー”として
「『情報過多シンドローム』といった言葉が注目されているように、現代社会における情報の氾濫はますます深刻化しています。それゆえに、企業が行うプロモーション・広告の情報に対して、消費者が嫌悪感を抱いたり遮断したりするという動向は、とても顕著になっていると感じます」
情報を届ける主要なプラットフォームがマスメディアからソーシャルにシフトし、企業のプロモーション活動も、メディアを通じた一方通行のコミュニケーションではなく、SNSを通じて消費者が商品やサービスの魅力を伝播させていくことに重きが置かれるようになっている。それを駆動させているのは、消費者が偽りなく感じる「共感」や「感動」、いうなれば「好き」という気持ちだ。
「その突破口として、コンテンツ・IPとのコラボレーションには大きな可能性があります。音楽アーティストやイベント、モデルタレント、アニメ・映画等ファンダムを抱えているIPと関わることが、企業価値の向上に直結しています」
一方で、IPを活用した企業価値向上や課題解決を推進していくことは、IP自体の価値の最大化にもつながるといえる。
「もちろん、企業とIPとの取り組みによるマネタイズで各IPの事業収支を支える役割も果たしています。それに加えてIPにより「箔」をつけたり、アクティヴな活動感を演出したりと、IPそのもののブランド価値を向上させる機能も担っていると思います」
企業とIPの連携は、双方にメリットをもたらしてこそ成立する。「企業課題の解決に加え、IPの価値向上にも貢献できる組織を目指したい」と森下は語る。
企業課題に対し、IPを起点としたソリューションを提示する──そうしたアライアンスのあり方に可能性を見出したAAPの近年は、従来型の営業から脱却を迫られた時期でもあった。森下は、そのスタンスの変化をこう語る。
「以前は、アライアンスを組む相手企業は、“スポンサー”や“支援者”といった意味合いの強かったと思います。例えばアーティストがライヴをやるのにいくらのお金が必要で、どこか応援してくれる企業はないか、とコンテンツリード型で企業の協力を取りつけていこうというのが従来のやり方でした」
大きな転機となったのがコロナ禍だった。ステイホームに伴いデジタル化が加速、広告施策の主戦場も一気にデジタルへ移行。費用対効果が明確に可視化されるようになったことで、成果への評価はさらに厳しくなった。こうした環境下で、個々のIPにスポンサーを付ける従来型の手法から、より広い視点で企業と向き合い、課題解決型のアライアンスを構築する方向へとAAPは舵を切った。
「“スポンサー”や“支援者”だった企業に対して、“クライアント”や“顧客”として向き合うスタンスに変わっていきました。企業の課題やプロダクトの状況などをヒアリングしながらゴールを設定し、そこに行き着くための最適な打ち手をコンテンツ・IPを絡めて設計する動きが加速していきました」
“スポンサー”から“クライアント”へ。2025年の現在は、その2つの向き合い方のちょうど中間くらいの「良いバランス」に変遷してきていると森下は言う。
「企業の課題解決に振り切った顧客第一主義のアライアンスから、その重心がIPの側との中間に戻ってフラットになったと近年は感じています。“クライアント”から、今は“パートナー”として、コラボレートすることで企業とIPがお互いの価値をどう底上げできるかという関わり方に変化してきています」
相手のビジネスに視線を向ける、営業意識の変化
試行錯誤を重ねながら企業との関わり方を模索してきたAAP。そのスタンスの変化は、社員一人ひとりの意識と姿勢の変容の積み重ねによるものだ。
従来のアライアンスは企業や広告代理店が企画の主導権を握っていたが、企業課題に対するソリューションを生み出すためには、AAP自らが主導してシナリオを描く必要が生じた。
「これには我々営業担当が全員で意識変革を起こす事が必要で、なかなか大変でした。各ライセンスセールスの手法のみならず、社内外の勉強会でのマーケティング基礎知識のインプットをはじめ、組織としても戦略プランニングの専門部署を立ち上げたりと、顧客開拓を推進する営業と企画戦略を考えるブレーンとの両面の体制が整ってきています」
そうした変化のなかで、営業のあり方も旧来的な、いわゆる“エンタメ業界らしい”営業スタイルから変わってきている。
「従来の営業は、これだけ幅広く豊かなIPを保有しており、こんな実績やトピックスがあるという、自社商品をプロモートするのが基本スタンス。カタログありきで、それに興味を示してくれる企業を探していくかたちでした」
相手企業のビジネスに目を向け、課題を正確に捉えたうえで適切な打ち手を講じる──その基本姿勢は、今では社員一人ひとりに浸透している。
しかし、企業の課題を把握することは決して容易ではない。さらにそれに対する“打ち手”としてIPのポテンシャルを提示するには、グループが保有する多様なIPの力を高い解像度で理解していることが求められる。
「私たちが持つIPにはどこに優位性があって、活用することでどんなメリットがあって、という所を一つ一つ見出していくことが重要になっています。営業資料も、そのIPが企業と仕事を重ねてきた実績や質だったり、ファンの属性情報がどうなっていて、どれくらいエンゲージが強いIPなのか、というポイントが伝わるものに変わってきていますね」
自らの変化を恐れず、いま必要なアライアンスのあり方を模索してきたAAP。
彼らがこれまで手がけてきたいくつかの事例を実際に挙げて見ていきたい。
「森永乳業 フィラデルフィアデザート」
熱量あるファンダムの力を活用したキャンペーン施策
チーズデザート「フィラデルフィアデザート」の新商品発売に伴うキャンペーン施策。ダンス&ボーカルグループGENICの増子敦貴をアンバサダーに起用し、熱量の高いファンを巻き込むことで認知拡大と購入動機の喚起に成功した事例。
「同様の商品は市場にも既に複数あり、プレゼンス(存在感)を出していくのは難しい状況の中、ファンダムの力というのが大きな突破口になりました。狙いたい層と親和性のあるタレントを中央に置いて面の展開を組みましょう、ということでこの施策が実現しました」
PRイベントに加え、増子本人によるSNS発信も大きく効果を上げた。ブランド公式アカウントではファン心理を捉えたコミュニケーションを展開し、マストバイキャンペーンの景品「増子敦貴 ボイスアクリルスタンド」はファンダムで大きな反響を呼び、界隈のタイムラインを盛り上げた。
「パートナーである森永乳業様の中でも成功例として語られる案件になったと聞いて嬉しく思います。IPを中央に置き、それをしっかり展開していくという意味で好事例になったと思っています」
「湖池屋 ピュアポテト 鬼ノ宴」
SNSバズ楽曲とポテトチップスの異色コラボ
TikTokで若年層に火が付き、2024年の代表的バイラルヒットとなった友成空の楽曲「鬼ノ宴」。その中毒性のある世界観を、湖池屋「ピュアポテト」の新しいやみつきフレーバーと組み合わせた異色のコラボ企画で、前年のソーシャルトレンド楽曲の可能性をさらに掘り下げ、ブランドとのフルタイアップにまで結実させた。
「各社から毎月のように新作が発表されるので、新商品といっても埋もれてしまいかねない状況の中で、パートナーの湖池屋さんは他とはひとあじ違った新鮮なアプローチを望まれていました」
商品名、パッケージから、ミュージックビデオのような雰囲気のあるCMやそれに伴うメディア露出など、楽曲と商品の連動性を極限まで高めたコラボレーション。企業側からも「どうせやるんだったら」と、楽曲の世界観にとことん寄り添おうという強い姿勢があったこともコラボ成功の要因となった。
コラボによりアーティストへの還元も大きく、「鬼ノ宴」はマスへの拡大余地を残す局地的バイラルヒットだった。
「実際、消費者の中には『鬼ノ宴』を知らなかった方々もいたが、CMやPOP UPイベント、パッケージ裏のQRコード等を通じて大きな反響とアクセスがありました。楽曲は商品の価値向上に貢献すると同時に、友成空自身の価値向上にもつながる理想的な関係を築けたと思います」
これ以外にも、作業靴・安全靴を扱うブランド「ASICS WORKING」とのコラボレーションやミツカン「カンタン酢™」シリーズ × THE RAMPAGE & FANTASTICS コラボプロモーションなど、様々なアライアンス実績を挙げている。
課題解決にとどまらない
可能性開拓型のパートナーシップ
これまで着実に積み上げてきた成功事例と、そこで得た学びを活かしながら、水平展開していく事もこれからの目標だ。AAPの今後を見据えてキーになるのは、企業とIPの双方に対する視点の「解像度の高さ」だと森下は考えている。
「企業のマーケティング課題の解決においては、やはり先方のブランドに対する理解度を上げることがなによりも重要だと考えています。何が課題であり、どういう打ち出し方をするとターゲットが反応してくれるか、高い解像度をもって考えることで初めて、IPとの接着面のようなものが見えてきます」
どこに訴求ポイントがあり、そこに対してどのIPがどのように組み合えばソリューションを提供できるのか。丁寧に仮説立てしながら施策を組み上げていくことを常に大事にしている。
「私たちは、大手広告代理店のようにビッグデータを活用した提案はできません。ビッグデータよりもシックデータに頼るのが私たちのやり方。いわゆる『N1』(個人の熱量や感情)の深さを大事にしています。全体的な傾向を分析することも大事ですが、エンタメのムーブメントをつくるのはいつも、個人的な、一人ひとりの熱狂から始まります。そんな『一人の思い』を大事にする文化でエイベックスは成り立ってきたと思うんです」
音楽やアニメ、映画、俳優・タレントへの確かな熱量を大切にするエイベックスのDNAは、AAPにも受け継がれている。IPの価値を毀損せず、常にファンダムの気持ちを丁寧に扱う姿勢もその表れだ。
「コラボレートするIPと、その先にいるファンまで、どれだけ解像度高く理解できるかが大事です。ともすればIPのブランド毀損につながったり、IPの価値をただ消費して終わるようなキャンペーンも世の中にはあると思うんです。それではIPの価値を削って現金化しているだけ。私たちは、『消費』ではなく『投資』になるアライアンスをいつも意識しています」
目先の利益だけを追うのでは、IPに愛のあるビジネスとは言えない。一つ一つの施策は、IPがより愛され、より成長していくためのものでなければならない。お互いのポテンシャルを高め合う事こそがアライアンスの本質だとすれば、IPにとっても、そしてパートナーにとっても、コラボレーションをきっかけにその先の「可能性」を切り拓いていくことがアライアンスの醍醐味なのかもしれない。
「“課題を解決する”というだけでなく“可能性を一緒に切り拓いていく”という意識を持っていたいですね。パートナー関係になるというのはそういうことだと思っています」
課題解決型のソリューションを生み出しながら、企業とIPそれぞれにとって、もっと先の「可能性」にも目を向けている。
ひとつの施策のゴールは「課題解決」かもしれないが、AAPが真に目指すところは、課題解決によって新たに見えてくる未来の「可能性」のなかにこそある。パートナーとともに、多様なIPとともに、エンタテインメントの可能性をも開拓していく姿勢はまさに、エイベックスのDNAと言い得るものだろう。
エイベックス・アライアンス&パートナーズ株式会社
ディビジョンマネージャー
ビジネスプロデュースグループ ゼネラルマネージャー
事業推進室
森下 隼吾




