2019年からスタートしたエイベックス・アジアのサウジアラビア事業。
近年、エンタメが解禁されたサウジアラビアで、エイベックスの同国における初めての取り組みとなったのが、2019年のサウジアラビア建国記念日に開催された伝統花火と最先端テクノロジーがシンクロした日本発の未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」だ。そして今年は約600万人が参加した国民的イベント「ジェッダ・シーズン2022」において、日本の人気アニメコンテンツを一同に集結させた体験型イベントエリア「アニメビレッジ」をプロデュース。エンタメを欲している現地の人々に、大きな驚きと感動をもたらした。
今回はエイベックス・アジアで代表取締役社長を務める髙橋俊太と、事業開発室長の大伴悌二郎が登場。サウジアラビアというエンタメ未開の地へのトライを試みたふたりに、ビジネス戦略やエイベックス・アジアの強み、「アニメビレッジ」を通して感じた手応え、そしてリスクをチャンスと捉えることで可能にした、エンタメの海外展開などについて話を聞いた。
サウジアラビアで感じた
エンタメに対する“興味”と“熱量”
まずは、サウジアラビアにおけるエンタメ事情について触れておこう。
長年にわたって娯楽が限定的だった同国では近年、石油依存からの脱却を目指し、2016年4月には経済改革計画「ビジョン2030」を公表。
国として文化・娯楽活動の促進を目的に、海外エンタメを積極的に取り入れる方針へと舵を取り、その市場は2030年までに1400億円超えと言われている。
そのサウジアラビアに、いち早く可能性を感じて進出したのがエイベックス・アジアだ。
髙橋は代表取締役社長として、サウジアラビアの企業や政府関係者を含めた事業の大枠を握る立場。一方、大伴は現地で事業を具体的にプロデュースする役割だ。
大伴「2018年にシンガポールで開催した『STAR ISLAND』にサウジアラビアの政府を招待したことがきっかけとなって、2019年にサウジアラビアでの『STAR ISLAND』を開催した背景もあり、今回の『アニメビレッジ』はエイベックス・アジアの中でもシンガポールチームとの協力によって実現したプロジェクトでした」
髙橋「エイベックス・アジアは、上質なエンタテインメントのニーズが高く、なおかつ勢いのあるマーケットを常に探していました。そして我々は『STAR ISLAND』をきっかけに、現地のエンタテインメントへのデマンド(需要)が大きいことにいち早く気づくことができました。サウジアラビアはエンタメに対する“興味”と“熱量”の高い国で、国民もそれを欲していて、経済力も強い。トータルで見たときに、サウジアラビアの地でビジネスを実現できる根拠と可能性を感じることができたんです」
ただし、サウジアラビアに足を運び始めたころを振り返り、「成功のイメージを日本の経営陣に伝えるのに苦労しました」と笑う髙橋。
ただ確かな“根拠”に加え、髙橋自身がこれまで幾多の海外経験で身につけた“勘”と“嗅覚”が、サウジアラビアでのチャレンジにGOを出していた。
前人未到のチャレンジや、未開の地へのトライを楽しんでビジネスにする──それこそが、エイベックス・アジアが世界で戦うための武器であり強みなのだ。
髙橋「最初に『STAR ISLAND』を開催するまでは、ほとんどの人が『本当に実現できるの?』という考えだったと思います。ただ自分としてはやはり可能性を感じていて、それは2017年に中国に進出したときも同じ感覚でした。実際にビジネス展開をするにあたっては、現実的な根拠と勘、そしてどういったパートナーがいるかをリサーチした上で、総合的に見てもチャレンジする価値があると考えて動き始めました」
日本のアニメが大集結する
夢のようなイベント
髙橋や大伴がサウジアラビアを訪れるたびに感じたのは、現地で出会う人々の『こんなに楽しいアニメというものが世の中にはあったんだ』という“驚き”と、『新しくて楽しいものにはしっかりと対価を払って体験するべきだ』という“意欲”だった。
大伴「アニメはサウジアラビアにとって決してニッチなものではなく、エンタテインメントの主軸のひとつとして存在し、今回の『アニメビレッジ』も老若男女が幅広く訪れていました。映画や音楽などと肩を並べるエンタメとして、アニメが楽しまれている感覚がありました」
アニメに限らず、エンタメ全般に対する国としての方針や国民の想いが結実したのが、2019年に第1回が開幕となった「ジェッダ・シーズン」。約1ヵ月にわたってサウジアラビアの文化的中心地・ジェッダで開催し、ライヴ・コンサートや演劇、芸術の展示、そしてスポーツイベントなど150以上の催しが期間中に開催された。
しかしその後、新型コロナウイルス感染拡大の影響から2年間の中断。それを乗り越えて待望の2回目となったのが、今年の5月2日に開幕した「ジェッダ・シーズン2022」だ。そして5月19日から7月2日までの期間にオープンしたものこそが、エイベックス・アジアが現地の企業であるセラ社と共同でプロデュースした体験型イベントエリア「アニメビレッジ」となる。
髙橋「開催にあたり、大きな存在だった現地のセラ社と提携してプロデュースしました。セラ社は主にスポーツイベントを誘致するイベント会社でしたが、近年のエンタメトレンドの中で総合エンタメ会社へとスケールアップして、現在では『ジェッダ・シーズン』のような大規模なイベントを国から任されている注目の会社です」
プロジェクトが始まるタイミングで、エイベックス・アジアとセラ社は共通認識として「これができたら理想だよね」というイメージスケッチを作った。それは、国内を代表するアニメが一堂に介する夢のような内容で、一部の保守的な日本企業からすると「大人の事情でそうはならないでしょ」と言われてしまいそうな、大胆な発想だった。しかし髙橋らは帰国後、すぐさま国内アニメのIPホルダーの元へ出向き「すべての責任をエイベックスが取る」という覚悟で、“日本アニメ大集結”の実現に向け、丁寧なプレゼンと説得を行ったのだ。
大伴「サウジアラビアというマーケットに可能性を感じつつも、なかなか着手できていなかったIPホルダーが、『間にエイベックスが入ってくれるなら』と言って我々を信頼してくれたことはとても有り難かったです。それによってIPホルダー、エイベックス・アジア、そしてセラ社という座組みができたわけですが、単純に間に入って繋ぐだけなら、正直どの会社でも頑張ればできるはず。そうではなく、エイベックスが間に入ることによって、いかにエンタテインメント性のあるエリアに作り上げることができるかという部分にすごくこだわりました。そしてその付加価値を生み出せるのは日本で唯一、エイベックス・アジアだけ──そんな “自負”がありました」
うわべだけではない
リアルなアニメ体験
2022年5月2日、サウジアラビアのジェッダにおいて「ジェッダ・シーズン2022」が開幕。そして、同イベントの会場内で体験型イベントエリア「アニメビレッジ」が華々しくオープンした。
「アニメビレッジ」には、12のアニメコンテンツ(「機動戦士ガンダム」「鬼滅の刃」「キャプテン翼」「攻殻機動隊 SAC 2045」「ゴジラ」「呪術廻戦」「進撃の巨人」「NARUTO」「パックマン」「HUNTER×HUNTER」「BLEACH」「僕のヒーローアカデミア」【50音順】)の体験型パビリオンが設置され、さらにグッズを購入できる「アニメイトショップ」や「サンリオショップ」なども出店した。
大伴「特にVRの反応が良かったですね。あれだけクオリティが高く、アニメとストーリーが連動したVRの表現は現地の人々にとって初めての体験で、多くの来場者からアメイジングだという評価をいただきました。あとはアニメイトとサンリオショップも簡易的なポップアップストアを設置するのではなく、日本の実店舗にも劣らないリアルな設計にこだわったことで、驚きや喜びも感じてもらえたと思います。『アニメビレッジ』でとりわけ強くこだわったのは、ちゃんと“本物のエンタメ”を体感してもらうということでした」
髙橋「僕たちとセラ社との共通のキーワードに“エクスペリエンス(体験)”という言葉があり、企画に関しても、その部分にフォーカスして進めました。『アニメビレッジ』という名前にも表れていますが、街に入ってもらって、そこでさまざまな人気アニメのリアルな世界観を体感してもらう。そこは通常の展示会とは大きく異なる部分だと思います」
最新のテクノロジーで表現しながらも、大事なのはうわべだけではない、リアルなアニメ体験。それに対して、エンタメを欲していたサウジアラビアの人々は歓喜した。
髙橋「『進撃の巨人』のパビリオンの横に『ガンダム』が立っていて、その横に『キャプテン翼』がいる──エンタメがなかったサウジアラビアという国で、『これホント?』と思わせる夢のような世界を実現させました。それは本当にできると信じて進めてきましたし、大事なのはやはり、1回目をどうやって切り拓くか。今回の取り組みを通じて、エイベックスの言っていたことは夢物語ではなかったということを証明できたと思います」
©Hajime Isayama,KODANSHA/"ATTACK ON TITAN" The Final Season Production Committee.
結果として、今回の「アニメビレッジ」ではエイベックス・アジアとセラ社が最初に思い描いたスケッチに限りなく近い世界観が、サウジアラビアで実現されることになった。そしてそのスケッチは現在、セラ社のイベント役員の部屋に誇らしげに飾ってあるという。
今回のエイベックス・アジアによるサウジアラビア事業のように、前人未到のチャレンジや未開の地へのトライには、当然いくつものハードルは存在する。しかし、それに伴う“リスク”すら“チャンス”と捉えられたからこそ、今回の「アニメビレッジ」のような、誰もが驚くエンタメの海外展開ができたと言えるだろう。
今後もサウジアラビア及び中東でのグローバル展開は、アニメに限らず、音楽や映像、さらには食など、日本が誇るエンタメすべての分野での可能性を切り開いていく。
エイベックスにおいてエンタメの縛りはない。最終的に人々が感動してくれるものであれば、それを届けることこそがエイベックスの使命である──。
今回のプロジェクトを振り返る際に、チャレンジをポジティブに捉えて生き生きと語るふたりの充実した表情からは、エンタテインメントの可能性に挑み続けるという気概をまざまざと感じさせられたのだった。
(写真右)
エイベックス・アジア
代表取締役社長
髙橋 俊太
(写真左)
エイベックス・アジア
事業開発室 室長
大伴 悌二郎