エイベックスは、2019/2/7 (木)に“エンタテインメント×アート×デジタルテクノロジー”の要素を兼ね備えたナイトクラブ「SEL OCTAGON TOKYO」を六本木にグランドオープンした。ナイトシーンのさらなる活性化を目指し、新たな発信拠点をこのタイミングで作るその意義、そして見据える展望とは? この場所を共に作り上げたエイベックス・エンタテインメントの冨久尾俊之、日建設計・後藤崇夫氏、ワイズテーブルコーポレーション・稲塚晃裕氏の三者に話を伺った。
交わることの無かった
プロフェッショナル
築き上げたカルチャー
が熱狂を生み出す
2/7 (木)、六本木の一等地に華々しくグランドオープンしたSEL OCTAGON TOKYO。記念すべき初日には、世界的DJのNICKY ROMEROがフロアを熱狂させ、さらに日本を代表するDJたちも続々出演するなど大盛況を迎えた。そして、グランドオープンの翌日以降も数多くのオーディエンスが訪れ、入り口に長蛇の列ができるほどに。オープンして1ヵ月経たない段階でのインタビューだったが、まずは三者それぞれが、この期間にどのような印象を抱いているのかを伺った。
冨久尾「このプロジェクトがスタートしてから1年間、いろいろなクラブに行ったのですが、それらのクラブにいる層とは異なる人たちに来て頂けているのかな、というのが率直な感想です。例えばカップルが多いとか、男同士があまりいないとか。一般的なクラブですと、圧倒的に男性が多かったりすると思うのですが、オープンから10日間を見ても女性のお客様の数が男性より上回っているんです」
後藤「全体感としては良い意味でカラーが無いというか、特定の属性に偏っていない多様な人たちが来てくれているのかなという印象でした。まだ始まって間もないですが、それはエイベックスさんが社会に対して広い視野を持ってさまざまなカルチャーを築き上げてきた結果として、エイベックスさんを知っている人たちがたくさん来てくれているからなのだと思います」
稲塚「ものすごく怒涛の1ヵ月でしたね。クラブのオペレーションにアジャストしていくのに戸惑う部分もありましたが、その中でもサービスを起因とした大きなトラブルを出すことなくここまで来られたことには安堵しています。ただ、もっと攻めたことをやっていかないと、エイベックスさんから求められているようなサービスは提供できないのではないかとも思っています」
エイベックスが共にSEL OCTAGON TOKYOを作り上げるべく、パートナーシップを組んだ日建設計とワイズテーブルコーポレーション。日建設計は、社会環境デザインの先端を拓く専門家集団として、設計・監理、都市計画コンサルティングを中心に事業を行う総合設計事務所、ワイズテーブルコーポレーションは、融合レストラン「XEX」、イタリアンレストラン「SALVATORE CUOMO」を始め、主にレストラン店舗の企画・運営を行う会社だ。これらのプロフェッショナルの力を得てプロジェクトはスタートするが、そもそもこのプロジェクトはどのようにして始まったか。そこにはまず“訪日外国人”というキーワードがあった。
冨久尾「2017年の6月ぐらいに、エイベックスでオリジナルのクラブを作ろうという話が出ていました。時を同じくして、NHKの『クローズアップ現代』という番組で、訪日外国人が増えているが夜に遊ぶ場所が無いーーという内容を見たんです。そこから調べていくと、韓国に世界でも知られるOCTAGONというクラブがあると。『そのルートあるな』と思って、ライセンスを持っている人に連絡しました。私はその時、ちょうどエイベックス内でライフスタイル事業が立ち上がって、空間開発という部署にいたのですが、『さあ何をしよう』という段階だったんです」
その前は dTVのプロデューサーやLINE MUSICの担当をしていた冨久尾。まったく畑違いの事業に飛び込んだわけだが、OCTAGONのライセンスを取ることに成功し、社長の黒岩から担当を任された。
このプロジェクトが始まるまで、この三者はまったく仕事をしたことも会ったこともなく、むしろ「この事業が無ければ、一生交わらなかったのでは」と冨久尾が語るほどだったという。
冨久尾「ワイズテーブルコーポレーションさんのXEXブランドはいろいろな形でエイベックスの社員が使わせ頂いていたのですが、こと日建設計さんに関しては、私がこの事業に関わらなければお会いすることは無かったかもしれない」
後藤「今回は設計コンペに参加させて頂いたのですが、日建設計はこれまで内装のみのプロジェクトにタッチすることは無かったんですよ。ただ、その頃にたまたま会社で新たにアクティビティデザインに特化した部署ができて、実績を積ねつつあったのでタイミングよくコンペに参加できました。なので、通常なら出会うことは無かったと思います」
冨久尾「ただし、我々としても今回に関しては空間開発を重視していましたし、この箱ができた最初の推進力となってくれたのが、日建設計さんだったと思います。稲塚さんに関しては、シンガポールのマリーナベイ・サンズの最上階にあるレストラン・バー『CÉ LA VI』が今年日本に出店するのですが、稲塚さんはその社長になられる方で。SEL OCTAGON TOKYOを作るにあたっていろいろなチームができてきた中で、ワンピース足りなかったのがオペレーションの部分。それを可能にしてくれると思ったのが、ワイズテーブルコーポレーションさんだったんです」
アンダーグラウンドから
オーバーグラウンドへ
固定概念を覆す
“多面的”空間設計
SEL OCTAGON TOKYOの強みの一つ、それは後藤氏が先導して担った空間演出の部分。それらは“COLORFUL EXPERIENCE”と名付けられ、「モノトーンな日本の夜に、色彩を。多彩な体験=カラフルエクスペリエンスが新しい夜の扉を開く」というメッセージが込められている。
後藤「このクラブが他と決定的に違うのは、“多面的”であるということ。日本のクラブはアンダーグランドである意味で閉じられたものか、ハジけたパーティーのようなものに二極化されがちですが、エイベックスさんが日本のナイトカルチャーを変えていくにあたって、SEL OCTAGON TOKYOは多様性を許容できるクラブ、一人ひとりにとっての定義が異なるクラブを創ることを目指しました」
SEL OCTAGON TOKYOは別世界への入り口をイメージさせるエントランスは“緊張”、音と光の空間に包まれるメインステージは“熱狂”、観客にリラックス効果をもたらすバーは“解放”など、それぞれの空間にテーマ性を持った演出が成されている。同時に「“COLORFUL EXPERIENCE”を実現するために重要なのが、統合的にデザインすること」と後藤氏は語る。従来のクラブでは空間の内装と音響、照明、演出などがバラバラにデザインされていたところを、ここでは増幅効果を持つようにデザインした。
後藤「SEL OCTAGON TOKYOは、音響のために空間に平行面を作ったり、演出を増幅するためにミラーを多用したりと、全てが一体的に絡み合うような空間づくりを試みました。それらをバラバラしないために、それぞれに関わる人たちとたくさんの議論を重ねましたね」
そして、数多くのラグジュアリー・レストランを運営するXEXブランドを持つワイズテーブルコーポレーションと協業することで、クラブにおいて一流の食とサービスを提供する“新たな食体験”を生み出した。バーには世界中の高級酒もラインナップされ、そこにはクラブ=安酒というイメージは微塵も感じられない。そういう意味では、目に見える箱の部分だけでなく、さまざまな点でクラブの負のイメージを変えることも命題となっている。
稲塚「自分で言うのも何ですが、全国的に名の知れた会社同士が手を組んで箱を作り、オペレーションしていくことは大きな意味を持つと考えています。やはりナイトクラブはアンダーグラウンドのもので、どこか近寄り難いイメージが日本では強い。ただ海外に行けば社交場として認められていますし、みんなオシャレをして出かけて行こうという意識がある。ホテルに付随してナイトクラブがありますし、本来はそういうもののはずが、日本では違う捉え方をされていると思います」
海外から来た方が、ホテルで「どこかいいクラブある?」と聞いたときに、ホテルの人も安心して紹介できる場所ーーそれこそSEL OCTAGON TOKYOの目標の一つ。実際のところオープンして間も無く、ペニンシュラホテルのコンシェルジュから紹介があり、外国人観光客の方がここを訪れたという。
さらに、SEL OCTAGON TOKYOは最新のテクノロジーを活用した静脈認証によるスマートな決済システムも導入。これはクラブにおける入場・会計のスムーズなオペレーションを実現すること以上に、治安の面でも安心感をユーザーに与えることに大きく寄与している。
もちろん、音楽面においての心配はいらない。エイベックスが培ってきた人脈を生かして国内外から一流のDJをブッキングし、世界最先端のサウンドシステム「VOID」を採用。さらに、エイベックスが手掛けるフェスでも数々のマジックをもたらしてきた光の演出家・AIBA氏の照明技術を組み合わせた。それらが音楽のために設計された“サウンド・ファースト”の空間と融合。実際のところ音楽を最高の音質で楽しめるだけでなく、ここでは話すときに大声を出す必要もなく、「耳が疲れない」と評判だ。
プロジェクトにまつわる全ての施策は、日本においてのクラブへの固定概念をグレーからホワイトへ、アンダーグラウンドからオーバーグラウンドへ導くというSEL OCTAGON TOKYOのミッションへと繋がっている。
ヴェルファーレ
を超えていくーー
ダンスミュージックの
革命児たる矜持
2018年に創業30周年を迎えたエイベックスは、これまでエンタテインメント業界のリーディングカンパニーとして、さまざまな形で業界をけん引してきた。その象徴の一つが、ジュリアナ東京やヴェルファーレなど、社会現象にまでなったナイトクラブだ。このタイミングでSEL OCTAGON TOKYOをオープンさせたことに、エイベックスの大義のようなものを感じるが、その点において冨久尾は気負っていないように見える。
冨久尾「やはりジュリアナやヴェルファーレといったイメージを持たれると思います。今回、エイベックスがやる以上は、それを超えていかなければいけない。今の時代にあったクラブ、ナイトカルチャーを提示していきたいと考えています。ナイトクラブ、ナイトコンテンツを取りにいくという意識というよりは、普段はクラブに来ていない人に来てほしいですし、2020年には今よりさらに訪日外国人の数は増えていきます。そういった方たちにとって、ここが受け皿となってほしいです」
この時代に目先の利益だけを考えたのならば、ナイトカルチャーに手を出すことは容易なことではない。ただし、大局的な視野で見れば、そこには大きな可能性が秘められている。
稲塚「最初に社内の取締役会で『エイベックスさんとナイトクラブのオペレーションをやります』と、言ったとき、けっこうシーンとしちゃって。自分たちはレストランを主に扱っている会社ですし、ナイトクラブでの経験もないので、僕自身が非常識な人みたいな感じでしたよ。でもそういったところで経験を積むことは、会社にとってきっと今後に繋がっていくと考えています」
後藤「そういった意味では、僕も会社的には非常識だったかもしれませんね。でも僕らの会社では最近、働き方改革に伴う人々の行動変化が、ワークプレイスをどう変えるのかについての研究が進んでいます。ただ日本では、それがあまりうまくいっていない現状がある。そこを脱却するにあたって、実は働くことの“外側”にあることがまったくデザインされていないという問題があって。それはナイトクラブのように遊ぶことだったりするので、そこにタッチすることがいかに重要かを会社に説得しました。おそらくこれから働き方やライフスタイルが変わっていく中で、こういったクラブの重要性が高まり、社会価値として認められていくと思います」
エイベックスが掲げるタグライン「Really! Mad+Pure」にひも付けると、かつてナイトクラブで一時代を築いたエイベックスが、平成の終わりに、六本木で、新たにナイトクラブをオープンさせることは「Really!」以外の何物でも無かった。
冨久尾「エイベックス社内でも、『クラブをやってみたい』と思う人はいたと思うんですよ。でも過去の存在が大きすぎて、誰も立ち入らなかった。私もそうです。でも巡り巡ってこのポジションになったので全力で取り組んでいます。エイベックスの看板を背負うこと、今の時代に合ったものを作らなければいけないこと、全てを乗り越えていった先に、今は非常識と思われているものが常識になっていけばいいと考えています」
働き方改革やインバウンド拡大、ナイトタイムエコノミーの創出。さまざまな時代の変化を背景に、日本のナイトエンタテインメントの未来を見据えて、エイベックスが各業界のトップランナーたちと作り上げたSEL OCTAGON TOKYO。その行く末はまだ未知数の部分も多いが、この挑戦には、エイベックスの根底にある“ダンスミュージックの革命児たる矜持”が感じられるのだった。
(写真左)
株式会社ワイズテーブルコーポレーション
専務取締役執行役員
XEX関東地区 営業企画部門
稲塚 晃裕
(写真中)
エイベックス・エンタテインメント株式会社
ビジネスアライアンス本部 ライフスタイル事業グループ
空間開発ユニット
シニアプロデューサー
冨久尾 俊之
(写真右)
株式会社日建設計
NAD室
後藤 崇夫