2005年に、男女混合パフォーマンスグループ・AAA(トリプル・エー)の最年少メンバーとしてデビューした與真司郎。そこから2020年末の活動休止まで15年にわたって走り続けてきた與には、華やかなステージで見せる姿からは想像もつかない、自分が嫌になるほどのネガティブな一面があった──。
8月23日に発売された⾃⾝初となる書籍『すべての⽣き⽅は正解で不正解』には、自分を成長させるために挑戦したLAへの海外留学でメンタルヘルスの重要性に気づき、ポジティブな考え方について、嘘偽りない素直な言葉で綴られている。
今回は新刊の発売を記念して開催された、エイベックスの若手社員も参加する講演会の模様をレポート。講演会後のインタビューも併せて、今では⾃他ともに認める「ポジティブ野郎」になった與の、勇気をもらえるメッセージをお届けしよう。
ネガティブだった自分だからこそ
わかる気持ちと伝えられる言葉
⽇本トップクラスの⼈気を誇る男⼥混合パフォーマンスグループ・AAAのメンバーとして14歳でエイベックス入りして、16歳でシングル「BLOOD on FIRE」でデビューした與真司郎。AAAとして数多くのヒット作を生み出し、さらに2016年には初のソロ作品をリリース。2021年には⾃⾝のライフスタイルを表現するブランド「446 - DOUBLE FOUR SIX - 」を⽴ち上げるなど、その活動は多岐にわたる。
傍から見れば順風満帆に見えるアーティストとしてのキャリア。しかし與はかつて、「⾃分なんかにできるはずがない」「⾃分はこのグループには必要とされていない」とまで思うほど、ネガティブな思考に陥っていたことを知る人はそう多くないだろう。
そんな與の人生における転換期は、グループでの活動が落ち着き、ソロの活動をスタートさせた27歳のとき。憧れていた海外留学でLAに活動の拠点を移し、現地で出会った⼈々の“メンタルヘルス”という考え⽅に影響を受けた。
そのときの経験を記した書籍こそが、8⽉23⽇にリリースされた『すべての⽣き⽅は正解で不正解』。今回はその新刊発売イベントを兼ねて、若者たちに向けた講演会が、エイベックス本社で開催された。
講演会には、10代から20代前半の方たちが参加。前半は『すべての⽣き⽅は正解で不正解』の内容に触れながら、司会の質問に與が答えていく。
「みなさんより若いころから芸能界に入って活動してきましたが、精神的にモヤモヤしている時期が長かったんです。27歳のとき、そんな自分を変えたいと思ってLAに留学し、最初の2年はカリフォルニアの大学に通いました。LA での生活が好きになり、そのままビザを取って今も住んでいます。エイベックスの方々もよく知っていると思いますが、元々の自分は本当に文句ばっかり言ってたし、他人と比べて、とにかくネガティブになりがちな人間でした。そんな自分を変えてくれたのがLAでの出会いや、メンタルヘルスの考え方です」
「生まれ変わった」と言うほどの與のLAでの経験や、そこから手に入れたポジティブ思考。さらにはあらゆるシーンで活かせる⼈⽣のバイブルから、AAA時代の知られざるエピソードや幼少期の実体験まで、『すべての⽣き⽅は正解で不正解』では⾚裸々に語られている(その詳細については、講演会後のインタビューで触れていく)。
後半の質問タイムでは、仕事のことからプライベートのことまで、さまざまな悩みが與に投げかけられた。與はそのひとつひとつに対して、ある意味、「ネガティブの限りを尽くしてきた」自分だからこその言葉で答えていく。そして質問中に、自身の葛藤と與の言葉から想いが込み上げて、涙を見せる参加者も。
「ずっとポジティブでいるのは無理だから、それに期待しない。自分がネガティブになっていることを受け入れるようにしたら、自分は楽になった。そこを認めてあげて、自分を客観視してあげると、本当の気持ちは見えてくると思う」
その言葉はきっと参加者の心の奥底に届き、これからの支えとなるだろう。
LAでの出会いと経験から見つけた
自分らしくブレないマインド
講演会を終えた與に、改めてLAでの経験と自分自身の変化について振り返ってもらった。
「LAに行って1年後ぐらいに、コーチングの世界で成功している方とたまたま出会うことができて、その考え方にすごく感銘を受けました。自分は昔から『こういう人になりたい』という考えはあまりなかったんですが、その人の考え方に触れて、純粋に最高だなって思えたんです。その方といろいろな場所に行って、いろいろな人に会って、いろいろな経験をして、一気に視野が広がりましたね」
特に與の心に響いたのが、『NOではなくYES』という考え方。
「その人は、本当に余計なことは気にしないんですよ。何でも『NOではなくYES』と考える。自分は元々『そんなのできないよ』とか『こんなことはするべきじゃない』とか、人生の中でNOから考えることが多かったけど、『それを全部YESに変えてみなさい』と言われました。その人が僕のことをすごく気にかけてくれたのが、本当に幸運でした。さらにそういう人たちの周りも似たマインドの人たちが集まるので、友人がたくさんできたのも大きかったです」
LAでの生活のみならず、與の人生における大きな出会い。「この出会いがなければ今の自分はないし、本も出せていない」とはっきり與は言い切る。
そして、與のポジティブに生まれ変わった姿に、周りもすぐに気が付いたという。
「特にLAで最初のころに知り合った人に、『なんだかすごく変わったね!』って言われました。悩んでいた時期の自分を知っている日本の友人にも言われたし、デビュー当時から自分を知ってくれているエイベックスの方も、その変化は感じているんじゃないかなと思います。自分でも『こんなに人って変われるんだ』っていうぐらい成長できたので、LAでの出会いにはすごく感謝しています」
日本にいた当時、與は仕事関係の人でも基本的にはフレンドリーに接していたが、自分の意見をはっきり言ってしまう性格がゆえに、時には強い言葉で意見をぶつけてしまうこともあった。
「その部分はアメリカにすごく合っていたんですよ。向こうでは強くないと生きていけないから、『なんて気持ちがいいんだ』とも思いました。ただコーチングやメンタルヘルスを勉強したあと、日本での自分を客観視したときに、『これはすごく自分勝手だったな』とも思いましたね。そこからは以前と比べて柔らかくなったと思いますし、人の意見もすごく聞けるようになったのは大きいと思います」
メンタルのあり方の変化は、仕事の面にもすぐに現れた。
「昔はけっこう何にでもイライラしがちだったけど、今は本のタイトルにもあるように、何に関しても前提として『必ずしも自分だけが正解じゃないんだな』という考えがある。いらないプライドを捨てることができたときに、人生が楽になりました。同時に、これまでの経験があるから今があるということもわかっているので、すべてがALL OKと思えています」
今日の講演会において、まるで事前に質問されることがわかっていたかのように、悩みに対して的確な回答を優しい口調で語りかけた與。それは與の経験、すなわち過去の自分を通してのアンサーだったからに他ならない。
「14歳で東京に出て来たときの思い出が蘇りました。理想はあるけどすぐにうまくいくわけではない葛藤は、やはり誰しもが通る道なので。でもそういう経験はするべきだし、今の葛藤している自分が、将来に必ず役に立つ。あと個人的には、メンタルヘルスの重要性について語る人がもっと増えていけばいいなと。それによって若い子たちがもっと生きやすくなればいいし、楽しく生きていける方法を見つけられたらいいんじゃないかなと思います」
與がLAでの経験から得たものは、どんな意見が飛び交っていても、自分の身に降りかかったとしても、ブレることのないマインド。今では、プライベートで相談されることも増えたそうだ。
「やりたいことがありすぎて、人生が短すぎるのでどうしようと思っています。それは趣味も仕事も。アーティスト活動はまたいつかやりたいですし、離れてみたことでわかることもありました。やはり自分は、歌って踊っている空間がとても好きだったんだなって思うので、アーティストとしての自分にもいつか戻りたいと思っています。あとはメンタルヘルスやビジネスにも興味があるので、今回のような話を恥ずかしがらずに、どんどん発信していきたいと思っています。アメリカで得た考えを押しつけたいわけではなく、アメリカのいいところと日本のいいところを客観視して見られる人が発信していくべきだと思っていて、それが自分であったらうれしい」
「でも過度に誰かに期待せず、自分らしく楽しいことをやっていきたいと思います」と語る與は、まぎれもない等身大。そしてアーティスト目線も、スタッフ目線も理解できる魅力的な人物だった。同時に今回の講演会やインタビューを通して、近い将来、エイベックスのアーティストの“相談役”をしている與の姿すら想像できた。
「エイベックスに“與相談室”っていう部屋を作っておいてください!」と笑う與。
その姿は、過去の自分が想像できないほどポジティブな輝きに満ちていた。
與真司郎