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ハイライト

ONOFF

豪華キャストを配したゴージャスな映像とファニーな演出のギャップが話題となっている「ハズキルーペ」のCMシリーズ。この映像を手がけた人物が、安室奈美恵や浜崎あゆみといった名だたるトップアーティストのミュージックビデオ(以下MV)を手がけた映像クリエイター・武藤眞志その人だと知れば、多くの人が驚きを隠せないはずだ。J-POPが日本を席巻した90年代、ネットが台頭した00年代、そして誰もが“映像を持ち歩く”現在へ。立ちはだかる時代という壁を悠々と飛び越えて、今なおトップランナーとして活躍する武藤眞志とはいったい何者なのか――。映像との出会いとキャリア、これからの創作について聞いた。

必然ともいえる
ファッション業界から
音楽業界への“越境”

「最初に興味を持ったのは音楽や映像ではなくファッションでした。80年代って“DCブランド”に代表されるファッションの全盛期で、各ブランドがこぞって映像を作っていて、自分もそこで映像制作に関わるようになったんです。ファッションショーにはその時代で最新の音楽がかかるんですが、当時はテクノやハウスが鳴っていたのを覚えています。ファッション業界って世間よりも流行が半年早いので、一般の人より半年早く新しいアーティストや音源に触れられる、それが刺激的でしたね」

純粋に“好き”で飛び込んだファッションの世界から映像制作のキャリアをスタートさせた武藤。そこで当時の最先端の音楽から強烈な刺激を受ける。やがて新しいものへの嗅覚は同じ感覚を共有する“同士”との邂逅をもたらす。

「あの頃ファッション関係の映像を撮る一方で、『GOLDやYellow※』でVJをやっていました。1989年~90年頃だったかな。まだ機材もアナログで、もしかしたら自分が“日本のVJ第一号”かもしれません。ちょうどその頃、私がオーガナイズしていたイベントに、松浦さん(現会長)がよく遊びに来ていて、知り合って……というのがエイベックスに参加した経緯です。その頃とあるアーティストがCDを出すというので松浦さんから『CDジャケットのデザインをしてくれるデザイナーを紹介して欲しい』と言われ、知人のデザイナーを紹介したんです。その後、エイベックスが深夜にTVスポットを大量に流したのは有名な話ですが、その際のコンピレーションCDのTVスポットを制作したのが初めて一緒にした仕事でした。」

※GOLD:かつて港区海岸3丁目にあったクラブ
※Yellow:かつて港区西麻布1丁目にあったクラブ

「その際、まだ知られていないレコードレーベルだし、CMの最後にavex traxのサウンドロゴを入れたらどうだろう? って、私が松浦さんに提案して作る事になったんですよ。」

運命的とも言える松浦との出会い。それこそが、武藤をMVの世界へ導く呼び水となる。折しも当時はエイベックスが自社アーティストのCDをリリースしようかというタイミングだったからだ。

「初めて作ったMVがTRFの『EZ DO DANCE』でした。当時はまだMVというものが今ほどポピュラーではなかったので参考になる作品もない。だから、ファッション広告の映像制作で培ったノウハウを活かすしかありませんでした。この“音楽にファッションを採り入れていく”というスタイルは自分しかいなかったと思います」

小室哲哉氏との出会いと、
唯一無二の映像をつくる
武藤流の創作スタイル

武藤のキャリアにおいても最も重要な出来事のひとつとなったのが小室哲哉氏との出会いだ。90年代の中頃から篠原涼子や観月ありさ、安室奈美恵、globeなどの小室哲哉氏プロデュース作品のMVを数多く手がけることになる。

「確かに、小室さんとの出会いは自分のキャリアにおけるターニングポイントと言えるかもしれません。というのも、それまではm.c.A・TやTRFといったダンス系アーティストの作品しか作っていなかったんです。ところが、小室さんと一緒に仕事をしている中で、必然的に華原朋美やhitomiのような歌ものアーティストの作品も手がけるようになりました。この経験は、その後エイベックスの所属ではなかった矢井田瞳やL'Arc-en-Cielといったバンド系アーティストの映像制作へつながっていきます」

一方で、当時ミリオンセラーを連発していた時代の寵児・小室哲哉氏との仕事は想像を絶するほどハードだったとも武藤は回想する。

「globeの『BRAND NEW globe 4 SINGLE』という4枚のシングルCDを同時に発売するというプロジェクトがあったんですが、小室さんから『4曲分のMVを2日で作ってほしい』と言われたんです。『いや、それは絶対無理ですよ』と断ったんだけど、小室さんは頑として譲らず、私が『やる』というまで家に帰してくれない(笑)。結局、2日で4曲のMVを撮り切りました。スタジオに3つ部屋を借りて、そこに全部セットを組んで48時間不眠不休という……」

多くのアーティストや業界関係者からの熱い信頼を受け、膨大な数のMVを撮り続ける武藤。アーティストと楽曲の魅力を最大化する映像はどれを見ても武藤眞志らしい作品でありながら、どれ一つとして既視感がない。

「日々のインプットは映像作品を見るよりも海外のファッション誌や美術誌から得ることが多いですね。もともとファッション映像がキャリアのスタートだったこともあるので、イメージから入るタイプです。細かい絵コンテは書かずに、だいたいの内容とシチュエーションを決めるくらい。あとは現場で出演者やスタッフとコミュニケーションを図りながら撮っていくのが自分のスタイルです。いい作品にするためには現場でも臨機応変に変化することが重要かな、と。設計図の段階であまりギチギチにせず、現場でのインスピレーションが大切だと思っています」

MV、CM……そして、
その先にある
まだ見ぬ新しい映像へ

CMディレクターとしての顔も持つ武藤。数ある作品の中でも最近注目を集めているのが「ハズキルーペ」のCMだ。一見、武藤がこれまで手がけてきた映像の世界観とは正反対とも思えるこの映像はいかにして生まれたのだろう。

「ハズキルーペは一般的なCMづくりとはかなり違っていて、クライアントの会長(ハズキカンパニー会長・松村謙三氏)と私の二人三脚で企画段階から作っています。この座組もユニークですが、作り方も一般的なCMとは違う点だらけ。まず、他社がやらない60秒CMを採用している点。普通CMって15秒か30秒がスタンダードの時代に60秒という長尺にしているので時間的制限が少ないんです。また、出演者のすべてのセリフに“ハズキルーペ”という商品名を入れることで、すべてのセリフが商品のことしか言ってない。見ている視聴者のアタマには自然とハズキルーペの名前が刷り込まれますよね。そういったこれまでのCMづくりにはなかった柔軟な発想を取り入れていくことであの独特な作風になっています」

MVと比べて制約の多いCMづくり。作り手にとっては面白味に欠けるものかと思いきや、当の武藤はMVにはMVの、CMにはCMの醍醐味があると語る。

「MVとCMでは、それぞれ作品づくりにおけるアプローチの仕方は全く違います。ただ、MVにしてもCMにしても、なんでもそうだと思うんですけど、ものづくりは“楽しいからやる”というのが大前提。プロセスが大変なら大変なほど出来上がったときの感動があるじゃないですか。それがモチベーションですね。大変になればなるほど、気持が入る。壁が立ちはだかるからこそ、出来上がったときのよろこびも大きい。それが情熱を持って映像を撮り続ける原動力だと思います」

ところで、今や映像を多くの人がスマートフォンで楽しむ時代だ。ハードだけでなくソフトの面でもネットオリジナルの番組が多数配信されるなど、映像メディアを取り巻く環境が様変わりした今、武藤の視点はどこへ向けられているのだろうか。

「いまはYouTubeみたいなものがトレンドだけど、自分がこれから挑戦してみたいものはむしろ映画のような長い映像です。2018年は『ボヘミアンラプソディ』や『カメラを止めるな!』といった作り手としても刺激を受ける作品があったし、やっぱり映画は撮ってみたい。もちろん、テレビを見る人が減っているし、若い人なんかテレビ自体見なくなってみんなスマホで動画を見ている。だからといって、いま自分がこの年齢とキャリアであえてネット映像に飛び込むかというと……それは現実的ではないかな、と。だから王道な映画とか、そっちの方に興味が向いていますね。もちろん何かきっかけがあればTikTokに手を出すこともあるかもしれないけど(笑)」

きのうまで「カッコいい」とされていたものが、ある日を境に突然「古くさい」ものになる。そんな移り変わりの激しいエンタテインメントの世界で、今なおトップクリエイターとして作品を創造し続ける武藤。常に前へ向けられたまなざしと冷めることのないものづくりへの情熱は、この道数十年のキャリアを持つ人とは思えないほど、しなやかで瑞々しい。新しいテクノロジーとクリエイティビティがシンクロした時、はたしてどんな映像で世の中を驚かせるのか――武藤の次の一手から目が離せない。

エイベックス・エンタテインメント株式会社
企画開発グループ
CM & LIVE映像制作ユニット
武藤 眞志

こんな内容

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