エイベックス・エンタテインメント株式会社は、スマートフォンの位置情報と音声コンテンツを組み合わせた音声ARアプリ「SARF(サーフ)」を展開しています。サステナビリティ推進室で活動に携わる学生メンバーが、「SARF」が実証導入されている、西新宿エリアの防災・安全に関わる音声コンテンツ「西新宿防災ストーリー」を体験してきました。
「SARF」について
音声AR「SARF」とは、"位置情報"と音楽をはじめとする"音声情報"を組み合わせた音声による拡張現実(AR)によって、日常の新しい楽しみ方、新しい体験を演出するソリューションです。GPSやビーコン等を使い、特定の場所に紐づけた音声コンテンツを専用アプリから多言語で配信する仕組みで、例えるなら美術館の音声ガイドを、アプリを使って街中に設置していくような取り組みです。視覚に依存したARと異なり、利用者の歩きスマホを誘引しない高い安全性や、観光地や文化財などの景観を損なわないなど音声+ARならではのメリットがあります。
今回、学生メンバーが体験したのは、「防災・安全」分野における西新宿エリアのスマート化を推進することを目的とした「西新宿防災ストーリー」という音声コンテンツです。「SARF」を起動した状態で、エリア内に設置された50箇所(各チャンネル25箇所)のスポットを周遊することで、日本有数のオフィス街である西新宿の特性に合わせた「防災・安全」に関する情報を知ることができます。
実際に「SARF」を体験して
アプリを起動し、コンテンツの配信エリアに入れば自動的に音声の再生が始まる仕組みになっているため、街の様子を感じたり、誰かと会話をしていたりといった状況でも情報を取得することができるので、気構える必要なくリラックスして利用できるのが魅力です。私たち学生は、普段からスマートフォンやパソコンの利用が多く、視覚的に負担がかかっている事が少なくありません。ですが「SARF」は音声に特化したアプリのため、目を酷使しない点がありがたいです。また、文字媒体よりも記憶に残りやすいと感じたのも魅力的でした。
体験後、「SARF」を担当している渡部さんにお話を伺いました
「SARF」の事業を始めたきっかけについて教えてください。
スマートフォンの普及に伴い、歩きスマホによる事故が社会課題となるなか、音楽や音に着目しました。街の景観を見ながら音を楽しむという安全かつ楽しい体験を創出できる方法はないか?と考えたのがきっかけです。
「SARF」にはどのような利点がありますか?
看板などのアナログな表示では、同じ場所にたくさんの情報を貼ろうとすると煩雑になってしまいます。XRを使えば、スマートに景観を壊さず、多言語化や時間に合わせたコンテンツを表示させることができます。さらに、ひとつの音声コンテンツで異なる体験を提供することも可能です。例えば「西新宿防災ストーリー」においては、"来訪者向け"と"オフィスワーカー向け"のチャンネルが選択でき、自分に合った情報を適切に取得できます。
※XR:仮想世界と現実世界を融合し新たな体験を創り出す技術。
開発の際、どのような点に苦労しましたか?
iOSやAndroidなどのOSや、スマートフォン端末ごとの差を埋めることです。
「SARF」は特定の場所に近づくことで音声コンテンツを受け取れるシステムですが、電波環境、OS、端末の種類により受信のタイミングにズレが生じることがあり、このズレを演出として活用しました。以前実施した肝試しの例では、同じ場所を通っても、人によって音声が流れるタイミングにズレが生じる箇所が出てしまいました。しかし、誰の端末がいつ反応するか予測できないというズレが、ドキドキ感を助長させて恐怖を演出できました。エラーや技術的限界といった制約を演出に繋げることでプラスに変えることができたのです。
楽しんでいただくために工夫していることはなんですか?
重要でありながら平時には関心の低い防災の分野にも、楽しい要素(ストーリーやゲーム性)を付けてあげれば、興味関心を持ってもらうきっかけになります。
関心が低いことについて、ただ説明されるだけの授業よりも、面白い進め方や教え方が工夫された授業の方が興味を持ってくれたり、テストの点数が上がると思います。「SARF」で楽しみながら自然と防災に関する知識を身に着けることで、万が一災害が発生した際のすばやい避難行動に繋がると考えています。このような、日常生活におけるエンタテインメントの新しい使い方を私達は「ライフエンタテインメント」と呼んでいます。
今後の展望について教えてください。
特定のエリアに紐付いた楽曲を用いることで、さらに没入できるような体験を提供できるのではないかと考えています。例えばあるアーティストが路上ライヴしていた場所で「SARF」を起動すると、その時の楽曲が聴こえてくるなど、一見なんでもない場所をファンの聖地にすることができると思います。また、ロールプレイングゲームの世界のように、エリアが変わると街のBGMが変わったり、そうすることで少し昔の楽曲をリバイバルするようなことも出来るのではないかと思います。
同じ場所でも、徳川家康(東軍)の視点と、石田三成(西軍)の視点で異なる音声体験が出来る巡礼体験コンテンツを、関ヶ原で制作してみたいと思います。
【学生メンバーのコメント】
技術的な制約をプラスに捉えて演出に活用したり、日常の体験にエンタテインメントを掛け合わせてポジティブな捉え方に変化させたりする手法は、これまで多くのライヴを始めとするエンタテインメントを生み出してきたエイベックスならではの発想だと感じました。音声だけの防災コンテンツは新鮮で、日常的に防災意識を高く持ち続けることは難しくても、エンタテインメントとして楽しみながら学べる点は魅力的だと思いました。XRの利点は情報を積層できる点なので、今後、新キャラクターが登場したり、ユーザーが何度も触れたくなる仕組みを作れば、定期的に防災の知識を更新できるのではないかと思います。
災害はいつ訪れるか分かりません。東日本大震災が起きた当時に福島市にいた方も、突然のことに混乱状態となったと伺いました。不測の事態に、冷静な判断を行うことは難しいので、前もって防災の知識を蓄えることは効果的な取り組みだと思います。音と場所というたった2つの要素を結び付ければ、今回体験した防災やエンタメ分野のみならず、健康増進や防犯、さらに個人が発信できるようになれば日常のコミュニケーションなど様々な領域で活躍する力を秘めていると感じました。
「SARF」について:https://sarf.jp/
「SARF」アプリ:【App Store】https://apple.co/2Oycouo【Google Play】https://bit.ly/3wIM8zi